セカンドハーフ通信 第74話 臼田のむしり
臼田のむしり
長野にはうまいものがたくさんあるが、鶏もそのひとつだと思う。県内各地にさまざまな料理があるが、佐久の臼田というところに「むしり」という鶏料理がある。
なぜ「むしり」というのかわからないが、いわゆる鶏の半身を焼いたものだ。むしるように食べるという意味でむしりというのではないかと思う。いわゆるローストチキンなのだが、その大きさはびっくりするほどだ。東京のデパートでもこんなに立派な鶏はあまり見たことがない。
しっとりとしてジューシー、適度な塩味で鶏本来のうまみがわかる。外側の皮はほどよく焦げ目がついてぱりぱりだ。吟味された鶏を使って独自の味付けを時間をかけておこなっているようだ。脂は適度に落ちており、さっぱりとした味で、ひとりで半身をぺろりと食べてしまう。
むしりは「瀬川」というお店が始めたもので、どこにでも売っているわけではない。「瀬川」はテイクアウトの店で、電話で注文して取りに行く。店は細い路地裏にあり、あらかじめ調べておかないと見つからない。メニューはむしり一品だけだ。
思いがけずに美味しいものに巡り合うというのも地方に住む楽しみの1つだ。ローストチキンというと西洋料理というイメージが強いが、小海線というローカル線の小さな駅を降りた町で売っているのはなんとも不思議な気持になる。
むしりの美味しさをよくよく思い返してみると日本的な味にも思えてくる。のどかな田園の店が、クリスマス近くになると予約でいっぱいになるのもほほえましい。