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知られざるニッチトップ”ナガイレーベン”の戦略

筆者は、シンクタンク系コンサルティングファームに所属するコンサルタントである。残念ながら当社には、MBBやBIG4に所属する方々が取り組まれるような、中期経営計画の策定といった、所謂全社戦略に類するような案件は無く(探せばあるのかもしれない)、そのため筆者も取り組んだことはない。

とはいえ、事業レイヤーの戦略立案だったり、サービス開発だったり、コンセプト営業だったりの支援を実施しているので、これらの支援に資する知見を貯めるためにも、様々な企業の事例収集を定期的に行っている。
 
今回は、事例収集を通じて個人的に面白いと思った企業とその戦略について紹介していきたい。 


1.医療用白衣専門アパレル”ナガイレーベン”

さて、その企業とはナガイレーベンという会社である。 

病院での勤務経験のある方、特に看護師経験のある方は名前を耳にしたことがあるかもしれない。
というのも、この会社は医療用白衣を販売している会社であり、特にナース服においてはシェア6割を有する、医療用白衣専門のアパレル企業である。

 なぜこの企業が面白いと思ったか、一言で言えば「ニッチトップ」に集約される。戦略とビジネスモデルを説明する前に、ざっくり業績について紹介していく。

2.驚くべき営業利益率

2024年8月期は以下の業績となっている。
    売上高        164億円
    売上総利益  70億円
    営業利益     40億円
    営業利益率  24.3%(←アパレルとは思えない営業利益率の高さ)
直近2年は下がっておりますが、長期的なトレンドとしては堅調に推移している。

出典:会社四季報オンライン

アパレル企業としては断トツの事業規模を誇るファーストリテイリングの営業利益率が16.1%、2位の良品計画が8.4%、3位しまむらが8.7%ある。

ナガイレーベンと同程度の事業規模であるTOKYO BASEの営業利益率は4.4%、靴下屋を運営するタビオは3.6%となっている。

ナガイレーベンの営業利益率の高さが際立つと言えるだろう。
(筆者調べでは、アパレル業界で上場している企業の中で、ナガイレーベンの営業利益率が最も良い)

業績を紹介したところで、この収益性の高さを実現する戦略とビジネスモデルについて紹介していく。

3.ナガイレーベンの戦略

ナガイレーベンの戦略は、以下3点に集約されると考えている。

  1. 医療用白衣というニッチ市場にポジショニングしたこと

  2. その中でもナース服にリソースを集中(高付加価値化)したこと

  3. 比較的高価格(1着 数千円~1万)の価格設定をしていること

上記3点を解説すると、

  • 競合ひしめくB2Cではなく、B2Bで、かつ医療用白衣というニッチ市場にポジショニングすることで、可能な限り競争を避けている。

  • で、その中でも特に従事者の多い看護師向けのナース服にリソースを集中。

  • 少品種多ロット生産体制とすることで、スケールメリットを利かせて、生産効率を高めている。

  • またリソース集中の結果、現場ニーズに即した高機能化(制電・制菌・高い耐久性)も実現している。

という事である。

効率的に、つまり低コストで生産したナース服を、高付加価値化させ高価格で販売することで、高い利益を獲得しているというわけである。

個人的には、3点目の価格戦略を実現するためのビジネスモデルが非常に秀逸だと思っており、説明する。

4.高価格でも売れる秀逸なビジネスモデル

高機能といっても、ナース服はどこでも買える上に、2,000~3,000円程度の比較的安価な価格帯も存在する。
そのため、ほつれてくれば買い替えればよいという需要側の声もあるはずである。

しかし、高機能・高価格なナガイレーベンのナース服が選ばれているのはなぜか、提供形態にヒントがある。
 
ナガイレーベンのナース服を購入しているのは病院ではない。
病院の洗濯アウトソーシング企業である。専門洗濯業者がナース服を購入し、病院や介護施設にリースする方式を採っている。
 
一般的にナース含め医療用衣服は100回程度洗濯すれば買い替える消耗品である。
また、洗濯するにしても、あまり汚れが無ければ洗濯費用は比較的安く済むが、血液・尿などの汚れがついていれば洗濯費用が高くなる仕組みとなっている。
 
しかし、ナガイレーベンのナース服であれば、耐久性が高く、また汚れにくいといった機能性から、他のナース服よりも長く、洗濯費用が安く安く使い続けることが可能となる。
そのため、ナース服単品では他企業の方が安いもの、「洗濯」までコストに織り込むことで総合的なコストメリットを示し、ナガイレーベンのナース服が選ばれるといった構造になっている。


以上がナガイレーベンの戦略とビジネスモデルの紹介である。
ニッチ市場にポジショニングし、リソース集中によって高収益を実現している、まさにお手本のような企業だと思っている。
 
平均給与は668万円であり、FR、しまむら、西松屋に次いでアパレル業界4位。従業員にも報酬で報いており、社会的意義もある素晴らしい企業だと思っている。


次回以降のエントリで、気が向けば、今後ナガイレーベンが採りうる方向性についても検討し、公開していく。

その他、個人的に気に入った企業を発見すれば今回のように紹介するのでお楽しみに。

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