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起業前夜は自身の結婚式。TAIANはいかにして創業し事業拡大に踏み切ったのか。──CEO 村田 磨理子

その会社を紐解くには、働く人をつぶさにとらえるのが近道だ。特に、アーリーステージのベンチャーならば。TAIANはブライダル・バンケットビジネスに特化したサービスやソフトウェアを提供するベンチャーだ。最初の記事で紹介するのは、TAIANの創業社長である村田磨理子氏だ。

村田 磨理子 代表取締役 CEO
株式会社リクルートスタッフィングへ新卒入社後、株式会社ギブリーに転職。両社にて関わったITエンジニアへのHR支援をきっかけに、日本企業の成長とエンジニアリングの融合に関心を持つ。COVID-19感染拡大直前に実施した自身の結婚式でWeb招待状を開発し、時流に後押しされ事業化。2020年6月にTAIANを創業。

社会は想像していたよりも優しい。
ずっと夢見ていたキャリアの始まり。

この記事では、村田氏がどうやって起業のきっかけをつかみ、それを事業に昇華させていったのかを紐解いていく。まずはその人物像と起業へのモチベーションを探るべく、社会人生活の始まりに焦点を当ててみよう。

起業家と言うと変わり者のイメージを持たれることも多いが、村田氏は至極スムーズに社会人としてのスタートを切った。もともと仲間の集まりの幹事やイベントの企画を引き受けるのが好きだったという彼女。人を集め、空間に工夫を加えることでみんなが笑顔になる状況をつくるのが好きで、人材派遣の営業の仕事にもすんなりと馴染み、結果を出していった。

それは、学生時代から社会人になり自立することを夢見ていた村田氏にとってはある種当たり前のことでもあった。厳しい家庭で育てられ外とのつながりを切望していたことと、気の利く性格が、会社で働くこととマッチしたのだ。新卒の就職先に選んだのは、株式会社リクルートスタッフィング。

「社会に出ると大変だと聞いていましたが、社会は私が想像していたよりもずっと優しくて、拍子抜けした部分もありました。自分が働けば、それに評価や給与で恩を返してくれるシンプルさに居心地の良さも感じていました。仕事でも順調に結果を出すことができ、鼻をへし折られるということもありませんでした」

しかし、その時の話をする様子は少しだけ寂しそうでもあった。全力で仕事に没頭する同期のように、熱くなれない自分にコンプレックスを感じていたこと。目標の達成やマネジメントを、どこか冷めた気持ちで受け入れてしまうこと。仕事が大変だという同期に対し、自分にとっては社会が温かい場所であること。

少しの違和感を感じながらも、仕事を通して人と繋がる喜びや、人間関係の結び方を学びながら着実に社会人としての実力を身につけていく。

互いに共創できるエンジニアの
かけがえのなさと、キャリアへの影響。

会社員時代の収穫は他にもある。理系の学者の父親の影響もあり、深い知識を持つエンジニアと仕事をするのが好きだと気づいたのだ。村田氏はこれを単なる好き嫌いのように言ってのけたが、エンジニアに深いリスペクトを持ち、コミュニケーションを取ることができるのはひとつの職能でもある。

「自分にはない技術や職能を持つ人と共創することに喜びを感じていることに気づきました。いつかは仕事に夢中になっているエンジニアと仕事をしてみたいと思うようになりました」

2社目ではエンジニアを適正に評価するテストを提供する会社に就職。ハッカソンの運営などにも関わるようになった。

TAIAN起業前夜は、
代表取締役 村田氏の結婚式当日。

TAIANに“起業前夜”があるとしたら、村田氏の結婚式がそれにあたるだろう。さまざまなエンジニアと親交を深め、サービスづくりが身近になっていた折に結婚式を挙げることになり、「せっかくなら何か開発しよう」とWeb招待状サービスを作ったのだ。

サービスは、結婚式の招待客に通常紙で送付する招待状と席次表をWebで完結させるというもの。そう、現在100以上の式場で利用されている、「Concept Marry(コンセプトマリー)」の先駆けだ。

自身の結婚式が終わると、本格的にそれをサービス化。概要をまとめたウェブサイトを作成した。当初は結婚式を挙げる個人向けに販売しようと考えていたが、そこにラブコールを送ったのは式場の方だった。コロナ禍の非対面ニーズとこのサービスが見事マッチし、販売したいと問い合わせが相次いだのだ。

コロナ禍で打撃を受けたブライダル業界の役に立ちたいという想いも創業の背中を押した。人生に向き合う仕事をする喜びに満ちたブライダル業界で働く人たちの情熱と、その社会的な評価とのギャップに疑問を感じ、それを解決したいと考えた。

学生時代接客業のアルバイトをしていた村田氏。ケーキ屋から飲食店までさまざまな現場を経験し、そのプロ意識に触れてきた。そのため人一倍接客のプロへのリスペクトがあったことも業界に心を寄せる理由になった。自分のことのように業界とそこで働く人のことを賢明に考える彼女を、業界もまた「私たちの光のような存在」と歓迎した。

エクイティファイナンスに踏み切り、
事業を大きく伸ばす決断。

式場でConcept Marryのニーズを受けてTAIANを創業してからは、業界ニーズに合わせてプロダクトのラインナップを充実させ、営業に奔走する日々が始まる。営業活動で出会うブライダル業界で働く人の純粋な思いに心を打たれては会社のありかたを考えた。

リクルートスタッフィングの新卒同期で、ずっと声をかけ続けていた取締役の米倉の入社に始まり同じ志しを持った社員も続々とジョイン。TAIANは資金調達をするか否かの決断を迫られていた。いよいよ本腰を入れてドラスティックに業界に貢献できる状態を整えるのか、これまでのように受託開発やコンサルティングとプロダクト開発のバランスを取りながら会社を続けていくか。

当時のCTOの考えを退け、取った選択は前者だ。それまでのデットファイナンスに加え、エクイティファイナンスを行い、大きく事業を伸ばしていくことを決意。受託開発やコンサルティングをやめ、プロダクトづくりに全ての力を注ぐことにした。
Concept Marryに次ぐ新たなプロダクトの開発も始めた。Concept Marryは式場の販売メニューのひとつの選択肢にすぎない。業界やその働き方を根本から変えるべく、式場の新規集客から生涯顧客化までを管理できるSaaS「Oiwaii(オイワイー)」のリリースを皮切りにさまざまなプロダクトを現在も企画中だ。

大躍進の影にはCTOの淀川、取締役の米倉による温かいサポートがある。

「CTOの淀川は、ユーザーの声をつぶさにとらえ、自分の労力を厭わずにプロダクトを良くすることができる稀有なエンジニアです。取締役の米倉は、後天的には身につけられない自信と愛情で結果にコミットするみんなのリーダー。二人がいたから、創業期を乗り切ることができました」

そう語る村田氏の目には、いつの間にか涙が溢れていた。

結婚式を起点に日本を盛り上げたい。
途切れないアツい思い。

どうしてここまで頑張れるのだろう。この年代の女性にさまざまな生き方の選択肢があることは、ここで改めて書き連ねる必要がないほど明らかだ。大企業で仕事に打ち込み昇進することもできただろう。マイペースに仕事を続けながら子育てすることもできただろう。その答えは、ぽろっとこぼしたこんな言葉の中に見つけることができた。

「昔から、日本を盛り上げたいと思っていました。政治、文化、国際情勢などさまざまな話をしてくれた父の影響で、自然と文化遺産に興味を持ったり、日本ならではの良さは何だろうと考えることがあったからかもしれません。

そのためには、少子化課題を無視することができません。そして、それは結婚式をもっと魅力的にすることで解決できるかもしれないと考えたのです」

式場のタイプからセレモニーの種類などまで十数年変化の少ない現在の結婚式には、魅力を感じられない若い世代がいることも当然だ。周りへの配慮を大切にする特性やコロナ禍で変化した人間関係、経済的な事情から結婚式を挙げないカップルも多い。これを村田氏は社会全体の損失だと語る。

「結婚式は本来とてもハッピーなもの。誰かを祝ったり、幸せな2人の門出を見たりすることは、本来誰もが嬉しい気持ちになることであるはずです。私自身も、結婚式のおかげであらためて社会の一員になれたという幸せや安心感を感じることができました。一方で、現在の結婚式のプログラムの納得感は今の若い世代にはあまりないように思えます。それが原因で皆が結婚式をしなくなってしまえば、その先にあるかもしれない『子供を持ちたい』と思う機会も少なくなってしまう」

この取材を始める前、筆者はなぜ村田氏がブライダル業界を選んだのか少し不思議に思っていた。彼女のキャリアをたどっても相関が見えないので、DXで切り込むのにぴったりなレガシーな業界を選んだのだろうと予想していた。しかし、その理由は予想に反してずっとエモーショナルで、人生をかけた気合いや願いがまぜこぜになったようなものだった。

側から見れば、「成り行き起業」のように見えるのかもしれない。事実、自身の結婚式で作ったプロダクトがとんとん拍子にニーズを呼び、仲間が集まってきて調達に踏み切った経緯は「成り行き」と言ってしまえるほどのサクセスストーリーで、それを裏付けるかのようにベンチャーキャピタルから大型の投資を受けてもいる。しかし、筆者には出会った人を全力で幸せにしよう、何かできることがあるはずだと考える村田氏のあり方がTAIANを作り上げたように見える。幸運だったのは村田氏に“成り行きで”出会えたメンバーや、ブライダル業界の方なのではないだろうか。

持ち前の純粋さと奮闘する力で村田氏がこれからブライダル業界をドラスティックに変えていくのは目に見えている。TAIANに入社する理由を誰かに問われるとすれば、村田氏に出会えることそのものが価値であると伝えるだろう。ひとたび出会えば、彼女は相手を全力で受け入れ、その手を取って良い方向に導こうとするのは明らかなのだから。

写真・文:出川 光(ノンブル社)

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