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ビジネスエシックス #36

前回、現場リーダーの決断力について、戦場の最前線でのケースを映画「Tears of the Sun」を題材に取り上げましたが、今回はビジネスエシックスという視点で、決断力の問題を考えてみたいと思います。

1.ビジネスエシックスとは

企業の不祥事が起こる背景には、企業風土と内部統制の欠如に問題があるとされています。内部統制はいわば「箱」であり、形を変えることはできますが、組織の犯罪や非道徳的行動に対しては、箱の「中身」である企業風土や企業の価値観が肝要となります。コンプライアンス研修などを充実させるだけでは社員の行動は変わりません。

「ビジネスエシックス」とは、「企業倫理」と訳されますが、企業の価値観を創り、それをどう実践するかという点に重きを置いた概念といえます。

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2.スペース・シャトルチャレンジャー号のケース

ビジネスエシックスを考えるケースとして、1986年1月のスペース・シャトルチャレンジャー号事件を取り上げます。

これは、現場リーダーの決断力というより、トップマネジメントの決断力の問題ですが、ビジネスエシックスのケースとして取り上げられることが多いものです。

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このケースの概要は以下の通りです。

1986年1月28日のアメリカ合衆国のスペース・シャトルチャレンジャー号の打ち上げ前日、部品メーカー(モートン=サイオコール社)の技術者は気象条件(冬の異常な低温)から部品の破損の可能性を指摘する。
技術担当副社長が社長に対して、NASAへ打ち上げの延期を申し入れるよう求める。
社長から、「技術者」の帽子ではなく、「経営者」の帽子をかぶるよう言われ、予定どおり打ち上げが行われる。
チャレンジャー号は打ち上げから73秒後に空中分解し、7名の乗組員が犠牲になった。
当初、1986年1月22日に打ち上げ予定であったが、天候や機体のトラブルにより、4度も打ち上げが延期されていた。また、初の日系人宇宙飛行士、初の民間人宇宙飛行士で小学校教諭のクリスタ・マコーリフ、初のアフリカ系アメリカ人の宇宙飛行士を含み、話題性も大きかったため、部品メーカーの社長は心理的に再度の延期に躊躇したと考えられる。

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以下は、Wikipediaからの引用です。

この事故によりシャトル計画は32か月間に渡って中断し、また事故の原因究明のため、ロナルド・レーガン大統領によって特別委員会、通称ロジャース委員会が任命された。
同委員会は、事故の根本原因はNASAの組織文化や意志決定過程にあったと結論づけている。
NASAの幹部はすでに1977年の段階で、契約先企業であるモートン=サイオコール社が設計したSRBの0リングに致命的な欠陥があることを知っていたが、適切に対処できていなかった。また彼らは、当日朝の異常な低温が打ち上げに及ぼす危険に関する技術者たちからの警告を無視し、またこれらの技術的な懸念を上層部に満足に報告することもできなかった。ロジャース委員会はNASAに対し、シャトルが飛行を再開するまでに実行すべき9項目からなる改善案を提示している。
乗員の中には宇宙授業計画(en:Teacher in Space Project)による最初の教師としてクリスタ・マコーリフが含まれていたため、大勢の人が生中継で打ち上げを見ていた。
メディアによる事故報道は大々的なものとなり、ある研究では調査対象となったアメリカ人のうちの85%が事故発生から一時間以内にこのニュースを知っていたといい、 チャレンジャー号の惨事は安全工学や職場倫理の事例研究として多くの場で取り上げられている。

このケースは、部品メーカーの技術者が当日の打ち上げの危険性を指摘したにもかかわらず、上層部がそれを無視、あるいは過小評価して、打ち上げを決行する決断をしたために、起こった事故と考えられています。

この部品メーカーやNASAが企業または組織として何を大切にしていたかということが問われています。

結果からすれば、結局、これらの企業・組織には「安全」よりも、優先されるものがあったということです。

部品メーカーの技術担当副社長は、部下と同じ技術者の立場であり、当日の危険性を認識していながらも、社長に「経営者の帽子を被れ」と言われ、説得を断念します。

この部品メーカーにも安全基準などの「内部統制」の「箱」はあったのでしょうが、「安全」よりも優先される何かがその企業の企業風土、価値観としてあり、結局その内部統制の「箱」の「中身」は空だったということでしょう。

3.チャレンジャー号事件からの教訓

このチャレンジャー号のケースから得られる示唆は以下の通りであると考えます。

組織の中で、個人は思考停止に陥りやすく、「悪しき信念(となっている企業風土、価値観)」で自己の行動を正当化しやすい。
「企業は利潤をあげるもの」という単純な見方も「悪しき信念」となる。
組織の中でも、個人は様々な選択肢の中から、倫理的・道徳的な決断(意思決定)を行うことができる。
組織として、何を大切にし、優先すべきかを、自分たちの使命に基づいて、日頃から明確にし、お互いで認識共有すべき(スペースシャトルの部品メーカーであれば、やはり、乗員の人命の「安全」を何よりも最優先すべき)である。

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