異文化マネジメント #27
ダイバーシティがなぜ必要かというと、多様な価値観のぶつかり合いの中から、イノベーションを生み出すことができるからです。
環境変化が激しく、成熟した少子高齢化社会において、イノベーションが企業の生き残りを分けるというのは、論を俟たないと思います。
一方で、異なる価値観が共存するということは、それに慣れていない組織ではいろんな軋轢を生み、却って組織の停滞、生産性の低下などを招くことも考えられます。
多様な価値観の中から期待する効果を得るためには、異文化を前提としたマネジメントのあり方を知っておく必要があります。
余談ですが、僕の出身地であり、現在の居住地でもある沖縄県には、その経済成長のポテンシャルを見込んだ本土企業の進出が後を経ちませんが、本土企業からすると、沖縄県進出は海外進出と同じくらい文化の違いを感じるそうです。
この異文化コミュニケーションに失敗し、沖縄県進出を断念する本土企業も多いようですが、たいてい「働かない」との捨てゼリフを吐いて沖縄県を去るそうです笑。
一方で、東南アジアでも似たような経験をするようですが、東京の人ではダメでも沖縄の人がマネジメントするとうまくいくケースが多いようです。やはり文化気質が似ているのでしょうか。異文化マネジメントの難しさを表している例だと思います。
1.異文化でのコミュニケーションの難しさ
人物形成において、取り巻く環境の影響は大きいと思います。国によって歴史、宗教、生活習慣などが違うため、どこで生まれ、生活してきたかによって人生観における仕事の位置付けも異なるものと思います。
その背景を理解しないとなかなか仕事上のコミュニケーションは成立しません。お互いの国が異なる場合、英語などの語学力があることに越したことはないですが、それの有る無しが異文化コミュニケーションにおいて、大きな問題になることはあまりないと思います。
やはりそれぞれのバックボーンへの理解が異文化コミュニケーションでは重要になると思います。
ちなみに、ここでの異文化とは、国籍や出身国の違いだけに留まらず、年齢、性別、経験、セクシャリティなど一般に文化的コンフリクトを産むと思われる全ての状態を想定しています。
2.コミュニケーションのパターン
一般的にコミュニケーションには以下のパターンがあります。
相手によってどのようなコミュニケーションパターンが良いのかを常に意識する必要があります。
これは本来異文化コミュニケーションに限らないことです。
一方で、コミュニケーション時に相手が受け取る情報の割合としては、一般的に以下のとおりであると言われています。
非言語的コミュニケーションの割合が最も大きく、準言語を含めると約90%になります。言語で伝えることよりもその他の面の方が情報量が多いので、この点は特に気を付けたいものです。
特に「異文化衝突」の場面においては、単に文化背景の違いで片付けることなく、上記の情報割合構成も踏まえ、表出した言動などのどの部分に原因があるのかを考えることが重要です。
3.異文化の誤解はなぜ生まれるか
異文化誤解の最も大きな理由は、自分の価値観で相手を評価しようとしてしまうことにあります。具体的には、「言葉や行動、振る舞い」で人の印象や評価決めてしまっている可能性です。
それをやっていては、お互いに理解し合えないということを認識すべきです。
やはり表出していることだけでなく、その人の「価値観や常識」、その人が影響を受けた「文化や社会の特徴」に目を向けないとなぜそのような「言葉や行動、振る舞い」となったかを理解できません。
「相対的異文化主義(文化の違いに良い、悪いはない)」という言葉がありますが、お互いに違いのあることを認めて、相手に合わせて自らの価値観を上書きすることが必要です。
また、文化の違いだけに固執せず、「ビジネスでどう成功するか」という視点でお互いの理解を高めることも重要になります。
4.なぜ行動規範や掲げた理念、ミッションは守られないのか
「ビジネスの視点でお互いの理解を高める」という点をもう少し掘り下げていきたいと思います。
多くの企業で、「行動規範や掲げた理念、ミッションが守られない」という問題に直面しています。
一般的に企業は、経営理念を掲げ、行動規範としてのバリューを設定しています。しかし、それらはその存在を知っていても守られることは少なく、お題目に過ぎないというケースが多いと思います。なぜ、そうなるのでしょうか?
それは、企業がそれぞれ異なる人の集まりであり、この掲げられた理念や行動規範がその個人の価値観の中で理解されてしまうからではないかと思っています。
以前の投稿でトヨタ自動車の「トヨタウェイ」の話をしました。
「トヨタウェイ」では、「知恵と改善」と「人間性尊重」という2つの柱が示されていますが、その背景にあるのは、基本的には以下の2点です。
そして、この「トヨタウェイ」がなぜここまで社内に浸透しているかというと、「トヨタウェイ」に則ってやると結果が出る(売上や利益など)からです。結果が出ると人は感動し、ヤル気が出ます。そして、続けてやろうという意識が高まります。基本的にはこのサイクルが「トヨタウェイ」の強さとなっています。
研修したり、唱和したりという具体的な落とし込みだけでなく、これが強みに繋ながるのか、求める結果が出るのか、ということがより大事なのです。
当たり前ですが、結果が出ないことを続けようとは誰も思いません。
これが「ビジネスの視点でお互いの理解を高める」ということの一つの例です。つまり、ビジネスの結果をベースに共通の価値観を醸成するということです。
「トヨタウェイ」は先輩から後輩に行動で伝えられていたことが、2001年にグローバル化に伴って始めて文書化されたそうです。そこには、外国人に理解させる目的があったようです。
この文書は管理職になって初めて配られます。若手には今でも文書ではなく、行動で理解してもらうことを重視しているようです。
トヨタ自動車ではこの「トヨタウェイ」の定着にかなりの時間とお金をかけています。
トヨタ自動車では入社2週間の新入社員でも、研修時のグループワークで、10分時間を与えられると、3分、5分、2分という分刻みでワークスケジュール立てるようになるとのことです。
車1台を作る経済合理性を追求する「トヨタウェイ」ですが、ここまで「トヨタウェイ」は浸透しています。
皆が同じ思考、行動をするというのはある意味「諸刃の剣」だとは思いますが、いずれにしても行動規範等が浸透するとはこういうことなんだと実感させられます。
考え方やプロセスが社内で共有化されていると、効率が生まれます。異文化の中でもそれが浸透しているのはすごいことですし、「トヨタウェイ」はその最たる例だと思います。
5.英国人マネージャーの行いの評価
「ビジネスの視点でお互いの理解を高める」ということのもう一つの例を見ていきたいと思います。
ある米国のIT系企業グループで、中国人上級エンジニアの提案に対する英国人マネージャー(英国人法人)の返信メール(提案に対する批判的メールが関係者全員にccで送られた)が、面子を重んじる中国人たちを凍りつかせ、憤慨させたということが起こりました。
この英国人マネージャーの行動は正しかったのでしょうか。それを判断する基準は何でしょうか?
その時の自分の価値観やその場を取り繕う狭い視野でこの問題を考えてはいけないというのが、一つの答えです。つまり、自社の経営戦略は何か、行動規範や強みは何か、ということを基準に考える必要があるということです。
IT業界とはどのような業界かを考えると、
であり、また、この企業グループでは、
ので、だとすれば、そもそもあの英国人マネージャーの返信メールは問題なのか、ということになります。
提案者が英国人のエンジニアであれば、あのメールが問題にされることはなかったかもしれません。直接的なコミュニケーションに慣れていない中国人エンジニアだからこそ問題となりました。
ビジネスの視点(IT業界の現状や同社の企業文化)で言えば、英国人マネージャーの返信メールはプラスの評価をされるべきものかもしれません。
もちろん、人格否定などに繋がるようであれば、許されるものではありませんが。
この例が示すことは、同じ行いでも、その企業や取り巻く環境によって「異文化衝突」の結果の評価が変わるということです。その上で、異文化コミュニケーションをどう改善していくかを考えていく必要があります。
6.まとめ
withコロナ、afterコロナを見据え、イノベーション経営を目指すために、企業はさらにダイバーシティを推し進めていかなければなりません。
その際には、異文化マネジメントをしっかり行うことが必要ですが、異文化マネジメントにおいては、相互理解が欠かせません。そのためには異文化コミュニケーション能力の強化が必要です。特に以下の点に留意して、異文化コミュニケーション能力を高めていきたいものです。
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