心の知能指数:EQ vol.2 #30
前回の続きです。
前回、EQ(emotional quotient:心の知能指数)は次の5つの因子で構成され、これらの能力がビジネスでのリーダーシップやパフォーマンスに大きく影響していることを述べました。
①自己認識
②自己統制
③楽観的、動機づけ
④共感
⑤ソーシャル・スキル
EQは仕事のパフォーマンスに約58%関係があり、トップのパーフォーマーの9割は、高いEQをもっているという統計があるそうです。
では、そのEQを高めるにはどうすれば良いかを考えていきたいと思います
1.EQは高めることができるか?
一般的にEQは年齢とともに高まります。しかし、それだけでは十分ではありません。EQはトレーニングとフィードバックによって、改善またはより高めることができます。
IQ(intelligence quotient=知能指数)は、生まれたその時に決められている(遺伝)と言われますが、EQは生まれた時から両親や学校、社会や仕事の同僚、上司など人との交わりの中で育まれ、高められていきます。
2.Empathy(共感)の発達過程
EQは一言で言えば対人関係に関する能力なので、5つの因子のうち、「共感」は特に重要だと思います。
相手の気持ちを感じる能力の発達は、生後8か月ぐらいから始まるそうです。
目を合わせた時に自分の感情を相手が受けとめているかどうかがわかってくると、自分の感情が相手に影響を与えるということを学びます。
この時期に、親が子どもの感情の移り変わりに無関心だと感情を表現しても何も起きないとあきらめてしまい、徐々に感情表現をしなくなるそうです。こうなると、「共感」も育まれません。やはり家庭環境はいろいろな面で子供の成長に影響を与えるようです。
その後、親以外の周囲の環境によって「共感」などの能力はいかようにも影響を受けて成長とともに変わっていきます。
ゴールマンによれば、感情を意識した教育は発達過程の早い時期(特に0~10代)に行う方がより効果があるということです。
3.ブラッドベリーのモデル
とはいえ、大人になってからも発達・改善は可能です。
ここではビジネスの世界で、または、日常生活の中での「学び」という観点から4つのスキルとして提案しているブラッドベリーのモデルを紹介します。
まず、対自己に対するスキルとして、
①Self-Awareness:自分の感情の状態をどれだけ冷静に、正確に把握できるか(Emotional Literacyともいう)
②Self-Management:認識した感情を有効に活用することができるか
そして、対他者に対するスキルとして、
③Social Awareness:他者の感情をどれだけ読み取れるか。
④Relationship Management:自分の感情や他者の感情を認識しながら、うまくコミュニケーションができるか。
これら4つのスキルは、それぞれ独立して発揮されるのではなく、実際は状況によって相互補完的に関連しあって発揮されます。
それぞれを意識することによって、大人になっても能力を高めることできます。
最初はそれぞれの動作を確認しながらでないとできませんが、慣れれば、無意識の状態でもできるようになるそうです。
4.トレーニング方法
「学び」には「気づき(awareness)」と「ふりかえり(reflection)」が必要です。
上記のスキルを高めるためには、「行動」そのものではなく、その「行動」の前提となっているもの(なぜこの行動が必要なのか)に焦点を当てることが重要です。
ブラッドベリーのモデルでは、どのような形でトレーニングをしていったらよいかのアドバイスがストラテジー(戦略)として分野ごとに15項目前後紹介されているようです。
その中から、「自分自身の感情を正確に認識して、それを生産的に活かすマネジメント」(Self Awareness: 自分の感情を正確に認識する能力)についてのストラテジーをご紹介します。
feel your emotions physically(内側の感情を身体で感じる)
これは、特に怒りや恐怖といった感情が起きた時に(またはポジティブな感情でも)、自分の身体のどの部分がどのように変化しているのかに意識を向けて改めて自分の感情と身体の反応を正確に把握してみる、ということです。
そうすることで、怒りや恐怖の始まりに敏感に気付くことができます。怒りや恐怖が理性をハイジャックしてしまう前に気付くこと(awereness)が重要だそうです。
怒りや恐怖にあるがまま身を任せると、怒りは更に怒りを掻き立て、恐はさらに恐怖を呼び寄せるという負のスパイラルに陥るため、そこをなるべく早い段階で断ち切る訓練をするとうまく感情とつき合えるようになるそうです。
know who and what pushes your buttons
(誰がイラッとさせるのか、何がそうさせるのかを知る)
特に腹立ちやフラストレーションで自分を失ってしまうことのある人は、何が原因で自分がそうなるのかのパターンを知る上でもこのストラテジーは重要だと思います。
keep a journal about your emotions
(感情日記をつける)
こちらは、自分の感情が湧き上がってきた時にどのような状況で、何に対して感じたのかを、すぐに振り返って書き留めておくということです。
そうすることで、自分がどのようなときに、どのような感情が湧くかを客観視でき、感情のコントロールがしやすくなるそうです。
5.さらにEQを高める
EQを高めるためには、ポジティブなマインド、自己肯定感が非常に重要になってくるそうです。
ネガティブな感情は、気付かないままでいると表情や行動などから直接的に、また、思考や判断によって間接的に周囲の人びとに悪影響を与えます。
一般的に人は、一日に約5万回の思考を心の中で行うそうです。そのうちの90%が、昨日と同じ思考で、そのほとんどがネガティブ思考だそうです。
放っておけば、皆さんの思考は常にネガティブな方向に向います。仕事や日常生活での思考を想像してみると、ほとんどの行動が「~しないために」「~しなければならない」という思考で埋め尽くされているのではないでしょうか。
このようなネガティブな思考回路では、ビジネスの世界では、新しい発見や学び、イノベーションといったクリエイティブな仕事は決してできないと思います。
6.Self Managementのストラテジー
ブラッドベリーモデルのEQの4つのスキルのひとつ「Self-Management:認識した感情を有効に活用することができるか」は、自分の感情を認識してそれを上手に使うことで自分自身のさらなる成長、創造的な活動に威力を発揮するものです。
この能力を高めることに関して、3つご紹介します。
breathe right:20% of oxygen is used for brain.
(しっかり呼吸をする)
感情は身体全体に影響を及ぼすものです。逆にいえば、身体的な機能が感情に影響を及ぼしているともいえます。
脳は、呼吸から得る酸素の20%を消費しているそうです。特にネガティブな感情が沸き上がったときには、深呼吸して感情脳にハイジャックされないように理性をつかさどる前頭葉までしっかり酸素を送り込むよう努力をした方が良いそうです。
take control of your self talk
(心のなかのトークをコントロールする)
ネガティブトークになっていないか、たまに振り返ることが必要です。「私は、いつもこうだ」とか「私は、一度も〇〇したことがない」と思うのは、思考がディフェンシブになっている証拠です。「今回は、残念ながら失敗に終わった」など、未来にスペースをあたえる思考心がけた方が良いそうです。
focus on your attention to freedoms rather than your limitations
(リミットにフォーカスするのではなく、自分の自由な部分に注意をむける)
制限がある中で、じゃあ自分にはどんな選択肢があるのかということを前向きに、諦めずに考える人は、あまり多くないのではないかと思います。できない理由はいくらでも出てくると思いますが笑。
発明やイノベーションなどのブレークスルーは、このような前向きな思考から始まるとも言われています。
現実を正確に理解しつつ、それでも自分のゴールに向かってクリエイティブに活動するためにはまずこのようなポジティブ思考(感情)が必要になってきます。
7.EQ:内面的要素から外向的要素へ
ここでは、対他者に対する能力(Social Awareness:他者の感情をどれだけ読み取れるか)の向上について考えてみます。EQの外向的な面です。
自分の意見に固執する人がいます(頑固者?)。そういう人は、自分の価値観、世界観に固執し過ぎて周りが見えなくなります。そのようなモードになると、周りからのフィードバックをすべてネガティブに受け取ってしまうので、「学び」が生まれません。
他者からの「学び」がないと、Give&Takeから育まれる絆、信頼、友情、愛情を築くことができません。
Giveするとは、自分の所有物を与えるだけではなく、自分の価値判断で物事を観ることをGive upする、自分の見方を留保して相手にオープンスペースを作ることも含まれます。
内面的視点から外向的視点に移行することでもあります。
では、どうすれば、相手の感情や場の空気が読めるのでしょうか?ここでも3つの方法論をご紹介します。
greet people by name(名前を読んで挨拶する)
これは、とても重要なことで、誰でも名前を呼ばれると呼んでくれた相手に親近感を覚えます。
これを意識的にやると、相手を一生懸命観察しようとするので他者のことに関心を寄せるいい機会にもなります。
watch body language(ボディー・ランゲージを観察する)
感情表現の90%は非言語と言われています。一部のIQの高い人は、交わされる言葉そのものにしか注意を払っていない場合が多いそうです。
相手が緊張しているのか、機嫌が悪いのか、表情やしぐさをみることで分かることがたくさんあります。
マイクロエクスプレッション(微表情)の研究で有名なエックマン教授によると、怒り、悲しみ、軽蔑、歓びなどの感情は、大小の違いはあるが文化を超えて同じような表情で表現しているということです。
まったく相手の感情が読めないという人は、相手の表情などを観察するとよいと思います。
practice art of listening(相手の言葉に耳を傾ける)
相手の感情を理解しようとするなら、まずこれが一番重要なことだと思います。
会話は、双方向で成り立っています。自分自身が交わす会話は、聴くと話すの割合はどうなっているでしょうか?一度振り返ってみると良いと思います。
Appleのスティーブ・ジョブスやAmazonのベソスなどの世界的なイノベーティブな企業のCEOの普段の会話について、Q(質問)/A(答え)レシオを分析したところ相手に対する質問が他の企業のエグゼクティブよりも多く、7割を超えていたそうです。
相手の話に耳を傾けるということは、自分の信じている世界や現実とは全く別の世界や現実を受け入れる準備ができているということです。
全く別の世界観を受け入れると、創造的なアイデアが浮かぶスペースを作ることができます。
ただ聞けばいいのではなく、言葉の裏側にある相手のメンタリティ、感情に気づくこと、共感することが大事です。
自分が普段「これはこうだ」と思っていることをちょっと横に置いておいて相手の側から観てみる、自分の主義主張を保留状態にして、何を意味しているのかを理解しようとする作業は、非常に難しいですが、仕事の中でこれができる人は、人を導き、モチベーションを高めインスパイアするというリーダーシップを発揮している人たちが多いと思います。
8.まとめ
以上、EQの能力を高める方法を見てきました。どんなに優れていると思われる人でも完璧な人は世の中にいません。自分自身の足りないところを冷静かつ客観的に見つめ直して、それを補う努力が必要です。
僕自身も上記を参考にEQを高め、対人関係能力の向上を目指したいと思います。
出展:40歳からのMBA留学:オーストラリアでビジネスを学ぶ-Chapter53 どうしたらEQを高められるか?-
引用索引
Bradberry, T & Greaves, J (2009), Emotional Intelligence 2.0, TalentSmart.