田子早

ぜんぶお慰み! https://tago.so

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最近の記事

勤労10周年のエッセイ

大学を卒業して社会人になって、10年が経った。現在、32歳。この十年間、毎日健康に、楽しく働けたことに感謝したい。お母さん、健康な身体に産んで、育ててくれてありがとう。お父さん、好きなだけ勉強させてくれてありがとう。 勤労10周年ということで、いくつか数字を数えてみたい。3つの国、6つの会社で働いた。東京が3社、バンコクが2社、ヘルシンキが1社。いちばん長いのは今のフィンランドの会社で、そろそろ丸4年になる。正社員契約が4つ、パートタイムが1つ、フリーランス契約が1つ。組織

    • 石原慎太郎『生還』の書評

      ヘルシンキの図書館には、ぼくが知る限り、石原慎太郎の本は一冊しかない。その本は今、ぼくの手元にある。 この本を近所の図書館に取り寄せるとき、ヘルシンキの図書館システムはもちろん日本語に対応していないので、『Shintaro ISHIHARA, SEIKAN』とだけ記されていた。手に取ってみて、『生還』という日本語をはじめて眺めた。なるほど、『星間』でも『精悍』でもなく、『生還』か。表紙の挿絵も、なんだか神秘的だ。 このように、ぼくとこの本の出会いは、非常にロマンチックだっ

      • なぜ人口は多い方がいいのか

        一人の人間が、一生のうちにできる仕事は限られている。たいていの人間は、生きているうちに一本の橋も川にかけないし、ビルも建てないし、牛も育てないし、漫才も書かないし、曲も作らない。 それでも、僕たちは人生でたくさんの橋を渡るし、たくさんのビルに出たり入ったりする。牛乳を飲んで、年末にはM-1グランプリを見て、Spotifyを開いて音楽を聴く。 自分が寝ている間に、自分以外の大勢が、協力したり、切磋琢磨して、いろいろなものを生み出しているからだ。 世の中は、他人の仕事ででき

        • ロボットになったあきおくんは、どうして今もロボットのままなのか

          『ロボットになったあきおくん』という絵本がある。 元の絵本を読んでいないので、記事から簡単に要約する。「戦時下の教育で『軍国少年』=『ロボット』になった明夫少年が、戦後に民主主義者に転向して『ロボット』でなくなり、自分の頭で考えるようになった」というストーリーらしい。この認識自体に誤りがあったら、申し訳ない。僕がこれから書くことは無視してほしい。 僕の考えでは、明夫氏は『軍国主義の少年』から『戦後民主主義者』に転向したという点で素晴らしい。しかし、彼は現在に至るまで、ずっ

        勤労10周年のエッセイ

          「引き寄せの法則」を考える 〜磁気と電流の歴史を添えて〜

          動画版はこちら。チャンネル登録もよろしく! 「引き寄せの法則」という言葉がある。日本語だと分かりにくいけれど、Law of attraction(引き寄せの法則)は「ニューソート」、つまり19世紀初頭のアメリカで始まった、キリスト教をベースとした異端的宗教、一種の霊性運動の流れに連なる思想としてカテゴライズされている。 英語版のWikipediaによれば、その具体的な活動内容(Activities)として「Affirmations(言い切る肯定)」「Affirmative

          「引き寄せの法則」を考える 〜磁気と電流の歴史を添えて〜

          2023年4月ごろ読んだ記事まとめ

          最近読んだ記事をまとめてみたい。本当は英語でブログを作って書きたいのだけれど、日本語の方が上手に書けるのでまずは日本語にしてみる。といっても、そんなに長い文章を書くつもりはない。 『すずめの戸締り』と(集団的)トラウマについての論評。3.11をめぐる映画やドキュメンタリーをリストアップしてくれていて良い。すずめ映画を振り返るのにもいいと思う。 ハン・ガンの最新作『Greek Lesson』に、保守的・封建的なキャラクターたちが散見されていて、作者はそのことを自覚しているの

          2023年4月ごろ読んだ記事まとめ

          この部屋の水

          お風呂上がり、髪を乾かして ボウルに水道水を溜める たっぷりと重い 水はおいしそうだ がまんして加湿器に注いだら こんどは小さなガラスのコップで 自分の水を飲む ごくごくとおかわりをする 加湿器に入った 4.5リットルの水は ぼくの鼻とのどを潤すために 一晩かけてこの部屋に分散する ぼくはアフリカの子どもたちを思う のどが渇いた子どもたち 4.5リットルのきれいな水で 救われたたくさんの命を思う 明日の朝、ぼくの快適な鼻腔は 湿度38%の澄んだ空気を吸い込む どこか遠

          この部屋の水

          タトゥーが威圧的で怖いので・・・

          タトゥーが威圧的で怖いなら、上腕二頭筋も威圧的で怖いと思う。むしろ、タトゥーはパンチ力を一ミリも上げないけれど、上腕二頭筋はパンチ力をかなり増強させるので、上腕二頭筋の方が怖い。 ということで、上腕二頭筋がある人は、プロ野球でピッチャーが7回110球で降板したあとに肩に巻くようなアイシングを着けて、上腕二頭筋を隠して銭湯に入るようにするべきだと思う。 大胸筋はもっと怖いので、乳首の周りにマッキーで丸を描いて、面白くするべきだと思う。 あと、身長が175センチとかあるとま

          タトゥーが威圧的で怖いので・・・

          無限でんぐり返し地獄に堕ちた森光子

          森光子は、無限でんぐり返し地獄に堕ちた。暗い空間を転がり続ける彼女は、やがて肉の塊と化した。脂肪と筋肉がくっきりとした塊になり、彼女は痛みを感じることができなくなった。 周りには何もなく、ただ転がるだけの森光子。時間の経過もわからず、ただひたすらに転がる。彼女は何度も何度も考えた。なぜこんな目にあわなければならなかったのか。どうして自分がこんなにもひどい状態にならなければならなかったのか。 やがて、彼女の周りには他の肉の塊も現れ始めた。それらは、彼女と同じように転がり続け

          無限でんぐり返し地獄に堕ちた森光子

          ルッキズムと心身二元論のあぶないカンケイ

          ルッキズム(Lookism)と心身二元論(Mind-body dualism)は相性が良いのではないか、と思い、ChatGPT師匠に訊いてみた。すると、"lookism can be seen as a result of a belief in mind-body dualism"(ルッキズムは心身二元論から生まれたものと見ることができる)というパンチ力のある回答が返ってきた。以下がそのやりとり。 たご Explain the relationship of lookis

          ルッキズムと心身二元論のあぶないカンケイ

          「可愛くてごめん」の闇 ー女をナーフしたい男たち、女をナーフしたい女たちー

          海外インスタのリールを見ていたら、「可愛くてごめん」という曲を耳にした。 この曲、歌詞がすごい。 まず、「可愛くてごめん」って、誰に謝ってるか気になりますよね。これはもうわかりやすく、「可愛くない女」に謝っている。 こんな調子である。 あるいは、 これは明らかに、女性から女性へ、同性に対するメッセージである。 いや、「可愛い女」から「可愛くない女」への挑発であり、攻撃だ。 問題が複雑なのは、歌っているのは可愛い女の子たちでも、この曲を聴いているのはおそらくアイド

          「可愛くてごめん」の闇 ー女をナーフしたい男たち、女をナーフしたい女たちー

          自由意志は、弱い意志から生まれるーーあるいはプーチンであるとはどのようなことか

          この文章では、「自由意志は、弱い意志から発生する」というアイデアを紹介して、なぜそのように考えたのか説明しています。普通、自由意志っていうのは自分で「こうしたい」と選び取るものだ、というイメージを持たれていると思います。だからこそ、自由意志は「強い意志」から生まれるような気がするものです。ところが、僕はそうではなく、前述のように「自由意志は、弱い意志から発生する」と考えています。 このアイデアは、読者の自由意志についての直感に反するかもしれないから、ちょっと丁寧に書いていき

          自由意志は、弱い意志から生まれるーーあるいはプーチンであるとはどのようなことか

          2022年は日食暦9836年--新たな「2000年問題」を2022年に考える

          「西暦2000年」などというと、「2000年も歴史を積み上げて、人類はとうとう大台に乗った」感がある。下三桁がぜんぶ0なので、なんとなく「人類が新時代に突入した」みたいな勘違いをしてしまう。これは非常に良くない。驕りが出る。 ぼくは2000年から2100年くらいに起こる人類史の悲劇は、のちの人類から見ると「2000というキリ番に興奮し、"新しくなった"人間の理性と未来を盲信したバカたちが連鎖的にもたらした悲喜劇」として捉えられるのではないか、と思っている。 「西暦1000

          2022年は日食暦9836年--新たな「2000年問題」を2022年に考える

          なぜ空気を読むと失言するのか--葉梨法相、あるいは腰が浮いたおじさんの空転について

          「死刑のはんこを押してニュースになる、地味な役職」とパーリーで発言をした葉梨法相のニュースを見た。いまだに桜田五輪相を事あるごとに思い出し、愛おしく感じている身としては、放って置けないニュースである。 つくづく、人間は余計なことを言って失敗するものだ。僕自身のこれまでの人生を振り返ってみても、失言のオンパレードである。毎日、「なんであんなこと言っちゃったんだろう」という後悔とともに布団に入っている。 ぼくの話はどうでもいい。葉梨さんの話をしよう。まず、葉梨さんは立派な人物

          なぜ空気を読むと失言するのか--葉梨法相、あるいは腰が浮いたおじさんの空転について

          「○×問題」問題——フェイクニュースは10年後の爆弾である

          テストで間違った文章を選ぶ問題がある。あれはよくない。たとえば運転免許の学科試験で、「ワイパーが故障していても走行してよい。」という○×問題があるとする。答えは「×」である。たとえ晴れていても、ワイパーが故障した車は運転してはいけないらしい。 ところが、「ワイパーが故障していても走行してよい。」に○をつけたテストが返ってくるまで、頭のなかではこの文章に暫定的に○が付いている。テストが返ってきたときに、改めてこの○を×に上書きしなければならない。大抵の人は返却されたテストなん

          「○×問題」問題——フェイクニュースは10年後の爆弾である

          白井聡『武器としての「資本論」』の回想と、内外上下の左右論

          白井さんは労働者の敵なのか?早稲田大学で、社会福祉について研究をしている先生のゼミに入っていた。その先生は左翼といっていいであろう思想の持ち主で、社会的弱者との連帯を訴えていた。今でもたまに相談に乗ってくれる、いい人である。 大学生の当時、ぼくの高卒の両親は賃貸アパート暮らし、親戚を見渡しても大卒がほとんどいない中流(?)家庭で育ったがゆえに、その先生が教えてくれた社会の格差について「由々しき問題だ」と思った。当時はむしろ、先生の言うことに感化されるのに忙しく、彼自身の出自

          白井聡『武器としての「資本論」』の回想と、内外上下の左右論