【チラシの裏】私家版「80年代アメリカの金融を知るため」の用語集 ver 1.0
前回に続き、チラシの裏的な内容。80年代アメリカの金融政策、70~80年代に猛威を奮ったマネタリズムとは何だったのか?を知るための個人的な用語解説集です。なんか用語が解らなかったら参考にでも。随時改訂の予定。
金融商品
要求払預金(demand deposits)
預金者の要求でいつでも払い戻しができる預金。普通預金や当座預金などを指す。アメリカでは小切手振り出し可能な預金。支払い手段として小切手が広く流通しているアメリカでは重要な地位を占める。当座預金(checking acount)は利付が禁止されているが、NOW勘定、MMDA(短期金融市場金利預金)、スーパーNOWといった、その他の要求払預金は利付される。
貯蓄預金(saving deposits)
日本でいうところの普通預金。小切手は振り出せないが利付である。
有期預金(time deposits)
日本でいうところの定期預金。小切手は振出せないが利付である。それぞれ満期限を持っている。
MMC(Money Market Certificates : 市場金利連動型定期預金)
非譲渡性の6ヶ月定期預金。金利は6ヶ月物財務省短期証券(TB)の平均入札レートに僅か上乗せして連動している。1978年に提供開始。
MMF(Money Market Funnds : 短期金融市場資産投資信託)
最頻出用語の一つ。1971年に創設されたミューチュアルファンド(アメリカにおける一般的なオープンエンド型投資信託、請求により随時解約できるファンド)の一種。資金は短期金融市場で取引される高利回りで安全な金融資産に投資され、通常はコマーシャル・ペーパー(CP)、譲渡性定期預金(CD)、買戻条件付取引(RP)、銀行引受手形(BA)、財務省短期証券(TB)の順序で投資される。普及し始めた1970年代当時は預金金利が規制されていたので、小口投資で市場金利を受け取れるMMFには大きな利点があった。請求により随時解約できるので短時間で現金化でき、流動性が高い。
ATS(Automatic Transfer Service : 自動振替サービス)
銀行が要求払預金に貯蓄預金をセットして、要求払預金の残高が不足すると貯蓄預金から不足分を移すサービス。MMFに対抗するために開発された。
NOW勘定(Negotiable Order of Withdrawal Account : 譲渡可能支払指図書)
こちらも最頻出用語。アメリカの小切手の振り出しが可能な譲渡可能貯蓄預金。貯蓄預金を引当に第三者払いに使える、小切手類似の譲渡可能支払指図書。レギュレーションQにより、通常の小切手は利付が禁止されていたが、NOW勘定は貯蓄預金なので利付が許可されている。決済機能も備える。
上限金利は当初5.25%と高く、利付が禁止されていた要求払預金の有力な対抗商品となった。1970年マサチューセッツ州のコンシューマーズ貯蓄銀行が開発。1980年金融制度改革法の成立により、すべての預金金融機関にNOW勘定の提供が認められた。現在マネーサプライM1の重要な構成部分になっている。NOW勘定は貯蓄預金と要求払預金を合体させたものであると言える。
金融規制
レギュレーション(Regulation)
アメリカの金融監督当局が定めた規則ルール。通貨監督官(COC)、州銀行当局、連邦預金保険公社(FDIC)、連邦住宅貸付銀行理事会(FHLBB)、証券取引委員会(SEC)といった監督当局は金融機関や証券会社の行動を規制する基準として、レギュレーションの制定と改廃を行い、関係者へ通達し一般に公表する。レギュレーションはAからZまである。
レギュレーションQ(Regulation Q)
1933年グラス=スティーガル法(銀行法)により規定されたFRBの銀行法施行規則の一つ。要求払預金への付利禁止および貯蓄・有期預金の金利上限が定められていた。預金獲得のため過当競争が生じて金利が必要以上に高くなり、銀行の経営を危うくさせて信用秩序の維持に有害であるなどの理由が預金金利規制の根拠となっている。FRBの預金金利に関する規制権限は、1980年の金融制度改革法によって預金金融機関規制緩和委員会へ移管され、1986年までに預金金利は自由化されることになっていたが、1980年代初め預金金利規制は完全に無くなった。法文は残っているが事実上今は使われていない。
金融制度改革法(DIDMCA)
正式名称は、1980年預金金融機関規制緩和および通貨量管理法(Depository Institution Deregulation and Monetary Control Act of 1980) 略称DIDMCA。
預金金利上限規制の撤廃、NOW勘定などの各種預金種目の提供の自由化、銀行を含むすべての金融機関がFRBに必要準備を持つことなどが定められた。また預金の定義変更が行われ、要求払預金、NOW勘定及び同等の預金をまとめて取引勘定(transaction account)とし、自然人以外が保有する定期預金を非個人定期預金(nonpersonal time deposits)」として、2種類の預金区分を新たに定義した。
FRB
連銀貸出
連邦準備銀行(連銀)による市中銀行に対する貸出。その際に適用される金利が公定歩合(discount rate)である。公定歩合を手段とする政策を割引政策(discount policy)と呼ぶ。連銀貸出は通常なら短期に限られ、2~3日間であることが多い。小規模金融機関には季節的信用(seasonal credit)の利用が認められ、借入期間は4週間以上に渡ってもよい。これらの両者の借入に適用される金利が基本公定歩合で、公定歩合とは普通はこれを指す。連銀は貸出を受けた金融機関を厳しく管理しており、金融機関は連銀貸出を受けると健全性に劣る金融機関と市場で見なされてしまうため、できるだけ連銀貸出を避けていた。そのため、伝統的に金融機関は連銀借入にほとんど頼らない傾向があった。このことから割引政策は飽くまで補完的な政策とされている。
公開市場操作(Open Market Operations)
FOMC(Federal Open Market Committee : 連邦公開市場委員会)で政策方針が決まると、ニューヨーク連邦準備銀行がこれを受けて実務を担当し、連邦準備制度公開市場勘定を通じて政府証券などの売買操作を行う。ニューヨーク連邦準備銀行は公開市場操作を実施する唯一の連銀なので、特別な地位を与えられている。
準備(Reserves)
アメリカの場合、FRBの準備供給は借入準備と非借入準備とで構成される。借入準備(borrowed reserve)は、連邦貸出によって供給した準備であり、金利は公定歩合に関係する。非借入準備(nonborrowed reserve)は、公開市場操作の買いオペにより供給した準備で、金利ではFFレートに関係する。
新金融調整方式
1979年10月のFOMCで決定された金融政策方針。金融政策の操作目標が、FFレートから非借入準備に変更された。これは、市場の準備需要に対して非借入準備の供給を受動的に行うのではなく、意図的に非借入準備の量を絞ることで、マネーサプライ(通貨集計量)の増加を減速させ、インフレを抑え込むという、極めてマネタリスト的な金融政策方針であった。しかし、NOW勘定の全米的な導入や1980年の金融制度改革法による預金金利の自由化といった金融環境の変化により、ターゲティングである通貨集計量の定義そのものが大きく変わっていた。政策はうまく行かず、3年後の1982年5月FRBは通貨集計量のターゲティングを停止した。
(今のところの)参考文献
M・G・ハジミカラキス『米国の金融市場と金融政策 ボルカー時代とその後』(東洋経済新報社, 1986年)
高木仁『アメリカの金融制度』(東洋経済新報社, 1986年)
高木仁『アメリカの金融制度』(東洋経済新報社, 2006年)
翁邦雄『ポストマネタリズムの金融政策』(日本経済新聞社, 2011年)
田中隆之『世界の中央銀行 アメリカ連邦準備制度(FRS)の金融政策』(金融財政市場研究会, 2014年)
川波洋一・上川孝夫[編]『現代金融論』[新版] (有菱閣ブックス, 2016年)