これを読んだらさ

  これを読んだらさ、ひとまず連絡してくれよ。あいつの話がしたいんだ。この街から離れていったあいつが、あの日、お前に話したことについて、一度しっかり話したいんだ。

  歌を歌っていたあいつが、あの高台からこの街を見下ろしたとき、俺は何か言うべきだったんだ。それがどんなに野暮ったくても、面倒臭くても、きちんと言葉にするべきだったんだ。

  秋の日の匂い立つ葉っぱたちが落ちてきたとして、まっさきに思い出すべきなのは、お前の姉さんのことではなくて、あいつのことだよ。この世に重たい話なんてない。面倒臭いこともない。お前が忙しない日々を生きているのは、俺にだって分かるさ。

  俺はさ、あのとき、この街から離れていったお前と連絡は取らないつもりでいた。長い人生、なんの連絡もない数年間があっていいと思っていたんだ。つまり、いつだってどこにいたって連絡しようと思えばできてしまう世界の中で、そういう沈黙の年月に憧れていたんだ。でも、やっぱりそれは違うんだね。あいつとはもうどういう意味でも連絡を取ることはできない。そりゃ、俺が一方的に電話をかけることはできる、手紙を書くこともできる、呼びかけることもできる。でもさ、あいつから連絡が返ってくることはないんだよ。

  だからさ、そんなしょうもない憧れはもうやめようと思ってる。本当のお別れがある世界の中では、沈黙の数年間を過ごすなんて意味のないことはやめたいんだ。

  これが重たくて面倒くさい話だって思うんなら、俺は、それでいいと思う。答えを急ぐことはないんだから。世界は広くて、人生は長い。でもやっぱり俺は、お前としか語り合えないなにかを持っているんだ。そうだな、これを伝えたかっただけさ。じゃあ、また、元気で。とにかく、また連絡してくれよ。

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