田子秋汽

田子秋汽

マガジン

最近の記事

海岸の火

さまよい続ける人の背に差す西陽を 軽やかな視線で振り払う君たちの 鮮やかで透き通るこころの奥に うらびれた海岸の火が揺れる 大きな声で歌い続ける子どもたちの 決して果たされない約束の向こう 誰にも知られずに去っていった さびしがり屋の風たちが吹く 比喩に飲まれて死んだあいつの亡霊 かたちも影もなく朝も夜もなく 遠い空から差す西陽だけがそれを 執拗に浮かび上がらせる

    • Mika Tajima appears in Mori Art Museum:森美術館開館20周年記念展 ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会

      田島美加の、アール・ダムーブルモン(アラベケ):Art d’Ameublement (Araveke)、アール・ダムーブルモン(カレナ・マイヒバ)Art d’Ameublement (Karena Maihiva)を見た。 2022年5月15日 - 2022年10月10日、太宰府天満宮宝物殿および境内に展開された、太宰府天満宮アートプログラム vol.11 田島美加 「Appear」で見て以来である。 今回言いたいのは2点 ①この2作品は太宰府天満宮の所蔵作品! 太宰府

      • Mika Tajima Appear -太宰府天満宮アートプログラム vol.11

         謎めいた言葉に気を取られてしまうのはなぜか。簡潔さを切望するものたちの背に宿る、あのうらぶれたにぎやかさを私はどうしても無視してみたいのである。    田島美加 Appear を見た。  1975年、ロサンゼルスに生まれ、現在はニューヨークで制作活動中であるという田島美加。この作家を、先日太宰府天満宮を訪れた際に初めて知った。   やはりいちばん印象深いのは Art d'Ameublement(Karena Maihiva) アール・ダ ムーブルモン(カレナ マイヒ

        • ダイヴ・イントゥ・コモンセンス

           早晩このようなことになるとかねがね溜め息まじりにつぶやいてきた一つの考えが、今や結晶しつつあり、その姿を十全にわれわれの前に現そうとしている。色とりどりの宝石が並んだショーケースよりも、似たような色がひしめきあう引き出しの中のパレットのほうへずっと心惹かれるようになったのはおそらく、絡み合う蔦を掻き分けるときの興奮や、折り重なった紙を刺し貫く釘の痛快さを知ったからだろうか?  想像力とはつまり、想像できることをしか想像することのできない範疇をあざやかに縁取るものであり、そ

        マガジン

        • A・A'・Z[yyyy.MM.dd]
          17本

        記事

          もういちどナイトランプ

            晴れた日の空のうつくしさに本気でかまけることができていたのは、晴れた日の空のおそろしさについてまだなにも知らなかったからだろう。   激烈なる波浪の最中、肺臓に忍び込もうとするものたちへの抵抗に夢中でいられれば、それが無限に続くかもしれないという恐怖には触れずに済む。なおもあらゆる青年に共通する痴態へのおののきによって回避され続ける私の本生は、それをうまく描くことができないという生来の不感症が拍車をかけながら滲んで消えていく。   何年経っても変わらずに、ついに空転し

          もういちどナイトランプ

          永遠の一コマ

          暖かい迷彩の空を見つめながら にぎやかな音楽を聴き続ける 色のついた風を見たころに 聴き続けていた永遠の音楽を 海の向こうから照らされる雲に 神様が隠れているような気がした みんながシャッター切っていた 僕はうつくしさについて考えていた ピントの合わなくなったカメラを 首から下げて砂浜を歩いていく 波音が聞こえなくなるくらい 胸の奥の音楽が僕の背中を押す ダウンジャケットに染みだした汗 駅前のカフェで改札を眺める それぞれの熱をまといながら それぞれの行き先を目指す人た

          永遠の一コマ

          秋の日

            遠くの誰かに語りかけるような独り言はやめておこう。冷たくなった秋の日の風を共に吹かれた友に捧げるような野暮ったい詩は、書かずに捨てよう。   それにしたって切ない夢を見る夕暮れもある。いくつもの分岐点を点検する夜もある。   ここにいる自分の、素直な今の気持ちは、世界のどこかの網目に引っ掛けておかなければならないと感じることがある。それが今日だ。   例に漏れず、僕にとってのみ有効なことばを使って書き記したいと思う。それが礼儀だ。君の知っていることばと僕の使うことば

          floating in the melody

            両国橋を渡る。西から東へ、風を背負いながら、あの旋律を口ずさむ。即席のにぎやかさによって折檻されたものたちが息を吹き返す。僕はその底知れぬ怯えを川面に溶かす。   紆余曲折をもとめる。ドラマティックなものが人生を後押しすると思っている。でも結局、さまざまな参照点をもつ、僕だけの線路を敷くときのよろこびに勝るものはない。   甘美な雰囲気を剥がされたならば、皮膚にわだかまる恐怖にナイフを突き立てるのだろう。それでもあいつは胸を張ってこの街を出ていった。だから僕もー、と思

          floating in the melody

          空のあいうえお

            寒いですね。さっき、夜の澄んだ空気の中を散歩しました。5年前にやっていた早朝のアルバイトに向かうときの匂いがしました。   あのときの僕はなにを考えて、どういう生活を送っていたんだろ。   なにも考えられなくて、どういった生活も送れていない人がいたとしても、できるだけその気持ちに寄り添えるようになりたい、なんてことをぼんや〜り思いながら、図書館の地下室で色んなことを書いていた気がする。   あのときの僕みたいな、甘い空気を頬張っている人に出会ったら、それとなくお話をしてみ

          空のあいうえお

          Pour se corriger, il faut ajouter.

            前言撤回などしても意味がない。ポンジュの言う文脈など、この際思い出さないことにする。   葉々を落とし続ける木々たちを見よ。銀色の航路を残し続けるかたつむりたちを見よ。   あらかた無聊な文言は、すべて唾棄したまえ。書き加え続けよ。歌い続けよ。

          Pour se corriger, il faut ajouter.

          これを読んだらさ

            これを読んだらさ、ひとまず連絡してくれよ。あいつの話がしたいんだ。この街から離れていったあいつが、あの日、お前に話したことについて、一度しっかり話したいんだ。   歌を歌っていたあいつが、あの高台からこの街を見下ろしたとき、俺は何か言うべきだったんだ。それがどんなに野暮ったくても、面倒臭くても、きちんと言葉にするべきだったんだ。   秋の日の匂い立つ葉っぱたちが落ちてきたとして、まっさきに思い出すべきなのは、お前の姉さんのことではなくて、あいつのことだよ。この世に重た

          これを読んだらさ

          無限の夏休み

            入道雲が僕の家の真上に立ち込める。庭の池には鯉が泳いでいて、もう何年も見ているはずなのにその姿にじっと見入る。夏の光は濃い。木立の影はくっきりと地面を切り取る。  晩春に飛び立った鳩たちのシルエットも遥か遠景に退いた盛夏の真昼に、僕は君の夢を見る。汗だくで走り抜けた畦への憧憬を、どうか嘲笑ってくれはしないか?

          無限の夏休み

          祈りにこたえて

            山頂に建つ灯台は、よく晴れた日の空にするどく伸びていた。電車を何本も乗り継ぎ、たくさんの人の顔を見て、僕はこの街へ来た。   水道に反射する光の源を求めて、必死に目を凝らす。でも、加速する近視によってそれを探り当てられない。   昨夜の出来事は忘れよう。新しい祈りにこたえるべく、すべての放たれた光に目を見開いて、僕だけの歌を歌おう。

          祈りにこたえて

          手紙を書けよ

            異なる速さの時間をかわるがわる生きていくことを容易に見せかけている人たちの背中が、大きく見えたり小さく見えたりする。ある時は尊敬の眼差しを向けるし、ある時は憐憫めいた気持ちで眺める。   18の頃、カルト的なグループからの勧誘を受けた。結論としては、そのグループと関わることは後にも先にもないが、しかしその時に受けた質問と、それに応じた私の言葉を今でもはっきり覚えている。 Q.大学生活で充実させたいことはなにか A.自分の軸をもつこと。絶対的な軸をもちたい。   その

          手紙を書けよ

          Illuminate your shot

            はしゃぎすぎた時間を見つめるとき、自分のほんとうの姿がわからなくなって落ち込んでしまう、というようなことはすでに辻仁成が歌っている。   吉田拓郎と釜萢弘が歌っていたのは、人混みの中で自分を見つめたときの気持ち。   暗い、重い、面倒臭い、と一蹴されてしまうものたち。即席のにぎやかさによって折檻されてしまうものたちを丁寧に見つめたいと思うのに、焦りばかりが積もってゆく。あなたとわたし、たった二人の間に交わされるものを強いものにしていきたいのに、それがうざったく感じる瞬間

          Illuminate your shot

          Frame your shot

            地下街の喫煙室に入って、辛気臭いたばこを吸う。辛気臭い、とは雰囲気のことであり、味のことではない。   言葉を云々した挙句の夕暮れは空の動悸がはげしくなる。残暑にたたずむ私の面影が、世界のどこかの水面で揺らめいていてほしい。   

          Frame your shot