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『冷たい楽園』

ある夏の日、街は灼熱の太陽に包まれていた。人々は暑さに耐え切れず、クーラーの下で涼むか、プールやビーチで涼しい風を求めて過ごしていた。しかし、その中に一人だけ、外の気温が暑すぎて家から出る気が全く起きない男がいた。

彼は自宅の快適な空間にこもり、エアコンの冷気と映画や小説の快適な世界に身を委ねていた。友人たちが遊びに誘っても、外の暑さが彼の意欲を消し去り、どんな誘惑も跳ね返すかのように断っていた。
友人たちからは「冷凍庫になりきっているのでは?」と冗談を言われることもありましたが、彼はただ微笑み返すだけだった。自分が冷凍庫だとしたら、少なくとも外の気温よりはるかに快適だと思っていたのだ。

そして、夏が過ぎ、秋の風が吹くようになった。人々は外に出るのが気持ちよくなり、街は活気に満ちている。しかし、彼だけは依然として家の中にこもり、外の世界に興味を示さなかった。
友人たちは彼の異常な姿勢に困惑し、彼の家を「冷たい楽園」と呼んで揶揄しながらも心配していた。

結局、彼は孤独な冷凍庫のように孤立し、人々との繋がりを失っていった。彼の家からは一切の音も聞こえず、友人たちは彼がいるのかどうかさえ疑問に思うほどだった。

そんなある日、彼の家のエアコンが故障した。冷たい風が途絶えると、彼の世界は一気に崩壊した。外の気温はだんだんと涼しくなっていたにもかかわらず、彼の部屋だけは灼熱の地獄に変わっていたのだった。

それでも彼は家から出る気が全く起きず、ただじっと座っているだけだった。友人たちが心配して駆けつけると、彼は冷たい体をして息絶えていたのだった。

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