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ブックレビュー「はじめよう、お金の地産地消」~草の根金融の大いなる可能性を感じてほしい~


(英治出版様HPより引用)

当Noteでは今後、草の根金融などのソーシャルファイナンス・インパクト投資、共助社会づくり(社会的連帯経済)、ファンドレイジングなどに関する文献・資料のレビューを積極的に行い、共に考える素材にしたいと考えます。その第一弾として、多賀とも古くからご一緒してきた木村真樹さんの「はじめよう、お金の地産地消」をとりあげます。
(画像は英治出版様のHPより引用しました)

どんな本か?

両団体を作り、運営してきた経験から、「お金の地産地消」の必要性と可能性、具体的には
・NPOバンクやコミュニティ財団の意義
・NPOバンクやコミュニティ財団の運営の実際
・金融機関との協働で、お金の地産地消を進めるための展望
などをまとめた本です。

出版は2017年と少し古いですが、社会課題の解決や地域コミュニティ活性化などに避けて通れないお金の問題に草の根から取り組むうえで、得るものの多い本だと思います。
木村さん自身も「みなさん一人ひとりにも、それぞれにできることから、『お金の地産地消』に関わってもらいたい」(2ページ)と書いているように、本書を読まれた方とともに「お金の地産地消」にチャレンジできれば、大変な喜びです。

本書の推しポイント

1)NPOバンクの無限の可能性を感じてほしい
まず注目すべきは、第2章で、momoの事業の特徴を余すところなく語っているところです。具体的には、
・融資申し込みの際、借り手の未来にこだわる
・審査には木村さんやmomoの理事・ボランティアなど30名が参加し、「集合知」で審査する
・ボランティア「momoレンジャー」によるハンズオン(伴走)支援
・融資先訪問ツアーなど、出資者と借り手のつながりを重視
など、非常に革新的で、一方で地域金融の原点を思わせる事業モデルだと思います(形ではなく、ここに至るプロセスに胸を打たれます)。
しかもこれが木村さんの特殊能力ではなく、市民が力を合わせた積み重ねの結果ということが素晴らしく、
他の地域でも、工夫と行動次第でNPOバンクを機能させることは可能、と感じさせます。

多賀はmomoの出資者でもありますが、2024年7月の総会に参加して、やはり参加型・地域密着で手作りの融資事業を進めるmomoには、かけがえのない魅力があると感じました。

2)コミュニティ財団もいろいろなことができる!
第3章では、「あいちコミュニティ財団」の設立経緯と取組について述べられています。
「お金のないNPOが、お金を集められる団体になる」(96ページ)というユニークな着眼点に基づき、
・「地域課題の調査→解決策の検討→解決策に必要なお金と人の募集」という3段階の仕組み
・「フレンドレイザー」「モグラー」「ツムギスト」「パパボノ&ママボノ」といった、幅広いボランティア
など、助成先NPOが成果を出すための工夫を凝らしています。
この章を読むと、市民や地域金融機関など、地域のプレイヤーとともに仕組みづくりを進めることで、地域活動団体の成長に役立つコミュニティ財団を創造できることが理解できると思います。

3)事例「ふれ愛名古屋」
第5章ではmomoやあいちコミュニティ財団の支援事例を取り上げていますが、中でも「社会福祉法人ふれ愛名古屋」様が印象的でした。
重症心身障がい児支援のパイオニアである同法人にmomoレンジャーが行った伴走支援の第一歩は、何と野菜の水やりでした。
ここから理事長との交流を通じ、手作りの支援をコツコツ重ねてきた姿は、NPOバンクによる伴走支援の理想像に見えます。
こうして支援した同団体が、成長を重ね、全国ネットワーク設立まで至ったプロセスは、非常に心強く感じました。

4)コラムがわかりやすい
各章末のコラムは、「お金の地産地消」の背景知識がコンパクトにまとまっていて理解が深まります。
例えば「NPOの“志金”調達」(36ページ~)は、ファンドレイジング(NPOの資金調達)の勘所をついていて、よく腹落ちします。

印象に残った記述

・故関戸美恵子さん「NPOバンクのようなものが名古屋にも必要だと思っていたのよ」(51ページ)
・融資審査の質問項目(62~63ページ:ものづくり補助金の事業計画書を思わせるほど、細部に行き届いています)
・「事業が有意義なものか、地域にとってためになるものか、出資者が納得できるような融資先でないと、貸せないのです」(66ページ)
・「ゼロから立ち上げたNPOバンクが、『ここが貸すなら、うちも貸せる』と他の金融機関に思っていただけるような存在になれたこと。」(111ページ)
・「(助成財団などが他の助成金との併用を禁止することについて)それがかえって事業の幅を狭めてしまう恐れもあることを、支援者側も認識すべき」(138ページ)
・「地域の課題解決に挑戦する人を、お金と人のつながりで応援する。その仕組みづくりを通して、『自分たちの地域の未来は、自分たちでつくる』という地域社会を作っていけたらと考えています」(205ページ)

今後に向けて

推しポイントで述べたとおり、多賀はNPOバンクには、手作りの融資や伴走支援、融資先の発掘、新たな金融手法の開発など、無限の可能性があると考えています。
ある地域金融の関係者の方からも多賀は、以下のような言葉をいただき、勇気づけられました。
「日本はオーバーバンキングだというが実はアンダーバンキングで、中小企業やNPO、生活困窮者に必要なサービスが提供されていない。
NPOバンクにしかできないことは確実にあり、日本にはNPOバンクが100個もできて当然だ」

木村さんはmomo・あいちコミュニティ財団退任後、合同会社めぐるを立ち上げ、
https://www.meguru.social/
最近では地域金融機関のソーシャル化を進める「ソーシャルバンク・コミュニティ」
https://deco-boco.jp/projects/view/56
の立ち上げに取り組んでいます。
この取組に参加する地域金融機関にとっても、パートナーとなりうるNPOバンクやコミュニティ財団などが近くにいることは、心強いはずです。

しかし現実にはNPOバンクの解散が相次ぎ、「NPOバンクの役割は終わった」という声も聞かれます。
このギャップがどこにあるかを見つめ、市民が自ら金融事業に取り組むことの意義と可能性を考えるうえでも、本書は有益なのではと思います。

誰に読んでほしいか?

1)草の根金融(NPOバンクやコミュニティ財団など)の立ち上げや出資などに取り組もうとする方々
2)草の根で地域活動に取り組みながらも、お金の問題に悩む方々
3)地域の社会課題解決を目指す地域金融機関の方
4)地域の担い手を発掘・育成・投資したいインパクト投資関係者の方

本書の構成

はじめに
第1章 新しいお金の流れをつくる-いま各地で起きていること
第2章 過去を見るか、未来を見るか-NPOバンクmomoはなぜ貸し倒れゼロなのか
第3章 お金と人のエコシステム-地域に必要な仕事を、みんなで応援する
第4章 仕事の「価値」って何だろう-お金でないものを見つめる
第5章 小さな一歩から始める-地域課題への挑戦者たち
第6章 共助社会をめざして-誰もが当事者になる時代
おわりに

書誌情報

書名:はじめよう、お金の地産地消
著者:木村真樹さん
出版時期:2017年7月10日
出版社:英治出版
https://eijipress.co.jp/products/2167

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