第1回:銀行対応の全体像 新任財務担当者のための銀行対応マニュアル
こんにちは。
T&Aフィナンシャルマネジメントのさいとうです。
本連載は、某メガバンクで8年程度法人担当として融資取引の経験を積んだ筆者が、企業の財務担当者に新たに就いた方、または相応の銀行対応経験がありながらも、イマイチ銀行とのやり取りについてわからないことが多いと感じられている財務担当者や中堅中小企業経営者などに向けて、「銀行対応」のイロハについてお話します。
初回である今回は、「銀行取引の全体像」として、「そもそも銀行対応って何?」という、基本的なことからご説明したいと思います。
個人取引においては預金をしたり、住宅ローンを借りたりと、少なからず身近な存在ではある銀行ですが、いざ法人取引となると、なかなかその全体像が見えてこない存在でもあります。
≪T&Aフィナンシャルマネジメント≫
T&Aフィナンシャルマネジメントはベンチャー企業に特化した経営財務支援、クライアント目線に立った中小規模M&Aのご支援をしております。
また、上場企業をはじめとする大企業~中堅企業の経営企画をはじめとする経営管理部門のサポートなど、幅広なご支援をご提供しております。
銀行取引ってなんだろう?
まずは銀行のサービスについてご説明したいと思います。
法人取引での銀行取引は主に4つに分類されます。
融資取引
銀行から運転資金や設備資金など、事業を営んでいくうえで必要な資金を借り入れる取引のこと
為替取引
国内為替においては振込がメインで、自社の口座から他社の口座に資金を異動する取引のこと
外国為替においては、自社の円建て口座から海外の他社に円建てで送金する取引や、円を外国通貨に変換し、外国通貨建てで海外法人の口座に資金を移動する取引のこと
預金取引
自社の余剰資金などを銀行に預かってもらう取引のこと
普通預金に加え、現在は少なくなってきているが、小切手や約束手形、為替手形発行のための当座預金や、納税のための資金を補完する納税預金など、複数の口座種類が存在する
その他ソリューション取引
デリバティブ取引や資金運用サービスなど、従来の「元本保証」に加えたソリューション提供サービスのこと
大手銀行ではM&Aの仲介や、信託銀行と連携して遺言信託などの信託サービスも提供する
銀行が提供するサービスは当然お金に関連するものとなります。
余剰資金を預けることから、資金不足の場合は借入をする。
そして、他社に資金を移動するといったサービスが存在します。
ちなみに個人向けのサービスとしては、法人同様、預金・融資・為替がメインとなりますが、個人にとって大きな取引となるのは住宅ローンではないでしょうか?
一般的に35年という超長期にわたって住宅購入資金を銀行から借り入れ、毎月一定の金額を返済してゆくことで長い取引をしてゆくことになります。
銀行取引の変遷
若い世代(40歳代前半くらいまで)にとってはあまり馴染みのない感覚かもしれませんが、一定の年齢層以上になると、銀行に対する過剰な尊敬や畏怖の念を抱いている方々もいます。
銀行に相当なステータスがあり、「銀行さん(時として「銀行様?」)」の担当者は若くしても社長と相対で話ができ、来社するとお茶やコーヒーを出してお迎えするといった、旧態依然とした対応をする世代がいます。
若い世代にとっては銀行といえども、ごく一般的なビジネスパートナーで、過度な崇敬や畏怖の念などはないのですが、特にバブル時代以前から財務などを担当してきた人々にとっては銀行さんといえば大変「偉い」存在として認識しているようです。
それは、銀行取引の変遷を紐解くとよく理解できます。
銀行取引はバブル崩壊後の「金融ビッグバン」前後で大きく様変わりしました。
金融ビッグバンとは、1997年の時の橋本内閣によって断行された施策で、金融市場を「Free(自由)」「Fair(公正)」「Global(国際的)」なものに変革するもので、従来の「護送船団方式」と呼ばれる、各銀行足並みをそろえた管理・監督から、より銀行に自由度を与える方針に転換しました。
結果、銀行の取引先である企業に対するスタンスも変わり、従来の「メインバンク制」が半ば崩壊し、企業が取引条件や置かれた状況に応じて自由に金融機関と取引ができるようになりました。
したがって、先ほどの銀行に対する特別な感情が残っている世代は、このメインバンク制を知っている世代であり、特にメインバンクの存在は「偉く」、メインバンクから取引を止められることは企業にとっての死を意味していたわけですから、銀行に対して強烈な尊敬と畏怖の念を抱いていたとしてもおかしくはありません。
しかし、現在においてはメインバンク制が崩壊し、自由な取引が可能となったわけですから、企業は銀行をビジネスライクに選べるようになりました。
一方で、メインバンクは取引先がいざというときには資金面で下支えする存在でしたが、それがなくなった現在においては、もしものときでも銀行は助けてくれなくなってしまったともいえます。
銀行の種類
ここで銀行の種類について振り返っておきます。
一言に銀行とっても、以下のように類似のサービスを提供する金融機関の種類は複数存在します。
都市銀行
最近はあまり都市銀行という言葉は聞かなくなりましたが、メガバンク(みずほ、三菱UFJ、三井住友)に加え、りそなといった、全国規模の大きな金融機関のことを都市銀行と呼びます。
地方銀行
地方都市に行くとメガバンクなどよりも、地域に密着した金融機関を見ることが多いですが、基本的に1都道府県に1つの第一地方銀行と、1つの第二地方銀行が存在します(合併や統合による例外や、東京のような大都市は例外)。
主に地域の企業の金融取引を担っています。
信用金庫・信用組合
信用金庫は信用金庫法という法律に基づいた金融機関で、主に小規模事業者のための金融機関です。
株式会社である銀行とは異なり、組織員の出資によって存立しており、限定された地域で一定規模以下の事業者のみを取引先とすることができます。
また、信用組合は信用金庫と似ていますが、根拠となる法律が中小企業等協同組合法に依拠していることが異なります。
信用金庫と同様、信用組合も地域の小規模事業者へのサービスを提供しています。
信託銀行
信託業務を主に営む銀行です。
信託業務とは、他人の財産を自己の名義として預かり、自己の財産と分別して管理する機能のことをいいます。
融資や預金といった、一般的な銀行が行っているサービスも提供していますが、基本的には信託業務がメインとなるので、一般個人にとってはなじみの薄い銀行といえるかもしれません(お金持ちにとっては遺言信託などの信託サービスを活用するケースが多々あるので、なじみの深い金融機関かもしれません)。
政府系金融機関
政府が経済発展などの目的により特別に法律を制定することで設立された特殊な法人です。
主な政府系金融機関としては、日本政策金融公庫や商工組合中央金庫などがあります。
民間金融機関が融資を行うことが困難な分野に対し、財政投融資制度を用いて一般企業などに融資を行うことをしています。
ノンバンク
銀行以外の金融機関で、預金の受け入れを行わずに、融資を行うなどの与信業務に特化した金融機関を指します。
金融機関は事業の成長フェーズによって使い分けることが一般的です。
起業当初の信用力の低いフェーズでは信用金庫や信用組合、または政府系金融機関による制度融資で資金を調達。
少しずつ信用力が増してきた段階で、地方銀行、そして都市銀行といった順で取引金融機関を変えていくものと思います。
「どこの金融機関と取引を行っているか?」という点は、少なからずビジネス上のステータスとなることも多いので、手広くビジネスを行う企業にとっては、信用力の補完として都市銀行と取引を希望する企業が多いのも現実です。
まとめ
初回である今回は、そもそもの銀行取引って何?という点に的を絞ってご説明しました。
次回以降ではより具体的な融資取引の流れや担保・保証といった制度。
そして、その他の金融サービスについて、可能な限りわかりやすくご説明してゆきます。
引き続きご愛読いただき、忌憚のないご意見をお待ちしております!
【新任財務担当者のための銀行対応マニュアル】
第1回:銀行対応の全体像
第2回:銀行対応の一連の流れ
第3回:(コラム)銀行の「稟議文化」を理解する
第4回:(コラム)銀行員の「来年検討します」は信用できるのか?
第5回:融資取引の開始
第6回:資金使途ってなんだろう?
第7回:運転資金借入をしてみよう
第8回:設備資金借入をしてみよう
第9回:その他資金使途借入をしてみよう
第10回: 制度融資(信用保証協会保証付融資)を理解する
第11回:担保について理解する
第12回:融資以外の取引(内為・外為・預金など)
第13回:ビジネスマッチングなど、銀行を使い倒せ!
第14回:個人取引について知る
第15回 まとめ