子どもと育つ「子ども時計」
時計の読み方は、小学校で習う。
でも、幼稚園児も時計は読めた方がいい。
起きた時間、公園から帰る時間、寝る時間、彼らだって時間を知りたい機会はたくさんだ。
2009年、北海道の家具メーカーcosineとの仕事で、幼稚園児でも読める子ども時計を作ることになった。cosineは無垢のメープルを主材料として、ドレスラックや時計など比較的小規模な家具を丁寧に作っている会社だ。シンプルでナチュラルなライフスタイルにぴったりで、子ども用のアイテムもたくさんある。
そのcosineの製品ということで、コンセプトは「子どもも読める」「大人になっても使い続けられる」の二本立てにした。良い材料を使った長く使える家具だから、子どものとき重宝して、ずっと使って大人になって、家を出るときも連れて行きたくなる、生涯使い続けたい時計を作りたい。子どもと一緒に成長する時計。どんな工夫が必要だろうか。
書体が教科書体に決まったいきさつ
まず、子どもが読みやすい書体について調べた。
当時5歳になったばかりの息子に、ゴシック体や明朝体などいくつかの書体を壁に貼って見せ、読みやすい数字を選んでもらった。
書体の総当たり戦だ。「あれとこれは? じゃあ、これとあれは?」と何度も繰り返し、決まった書体は“教科書体”。敗者復活戦(個人的に使いたい書体)もやったが、不思議なことに選ぶのは“教科書体”。
教科書体ってすごい! と思って調べたら、教科書体は文部省の学習指導要領で提示されている字体なのだそうだ。その名の通り、小学校の教科書で使われていて、子どもに読みやすい手書き文字を目指して考えられた、筆で書いた楷書に近い書体とのこと。
書体は教科書体に決まった。
その教科書体で、時間を示す大きな数字を緑で印字。横には小さく飴色で分表示を添えた。子ども時計だから、時間の読み仮名みたいなものだ。
でも分表示は、子どもが時計の読み方を習ったら必要なくなる。
そこでこの飴色だ。
この仕掛については後の項で説明しようと思う。
秒針は必要なのか?
次に検討したのは“時計の機能” について。
幼稚園児が時計を読むのに、秒針は邪魔なのではないかと思った。
「時間を読む」機能に特化したい。「時間の仕組みを知る」機会は……大事だけど、ここでは思い切ってなくすことに。よりシンプルにすることで、盤面が読みやすくなるはずだ。長針と短針だけが、時間を指し示す。
子ども時計からは、秒針を取り去った。
残った針は長短の差に加え、色違いにした。ひと目で違いが分かるし、大人が「緑の針はどこ?」などと伝えやすい。
時を刻む時計。子どもの成長とともに、時計も育つ。
cosineの扱うメープルという木は、とてもおもしろい魅力的な材料だ。経年変化で飴色になる。
最初は白くてきれいで、上品な風情がある。時間が経つとどんどん色が変わって、味わい深い色に育つのだ。
子ども時計は、このメープルの特性を生かすことにした。
いつか役割を終える飴色の分表示は、子どもの成長とともに経年変化して飴色になった盤面のメープルに馴染み、見えにくくなっていく。
これがcosineならではの、子どもと一緒に育つ「子ども時計」だ。
時間を楽しむ仕掛けとなるワンポイント
読みやすさ重視で、シンプルデザインを極めた「子ども時計」。でも、あまりにシンプルだと味気ない。子どもが時間をイメージできる“何か”を、デザインし過ぎずに作れないか。
そこで「8時」を丸く囲み、ポイントにすることにした。
なぜ8時かというと、8時って時計が読めないぐらいの幼い子どもにとっては一日の節目なんじゃないかと考えたから。幼稚園に行く時間。楽しみなテレビが始まる時間。寝る時間。などなど。
とくに寝る時間は、子どもにはとても大切。
今どき8時に寝る子はいないかもしれないけど、8時に寝て、成長ホルモンマシマシで大きくなってほしい、そんな親心もあったかも……。
8時になったら寝る準備、お風呂に入る、ごはんを食べる、お父さんが帰ってくる、……そんな家庭ごとの目安になったらいいなと思う。
子ども時計は子どもの誕生日やお祝いに贈って、ずっと大人になるまでその子が使い続けて、独立して家を出るときの荷物にも入っていてほしい。一生その子と共に時を刻んでほしい。そんな思いが詰まっている。