1ダースの恋 Vol.15
・・・・おまえって、そうな
「だからなに?」
・・・・気が強くて、負けず嫌いで
「だからなに?」
・・・・だいたいかわいげがないんだよ、おめ~って女は
「それで?」
「あ?」
「それで終わり?」
ひたすら自分を罵倒する男を前に腕組みをして黙って聞いていた。
「ぁ、あぁ。終わりだよ!」
「そ。なら、さよなら」
くるりときびすを返し、その場を立ち去ろうとする。
「な、なんだよ、それだけかよ」
「おい、待てよ」
「なぜ?」
「これっきりでいいのかよ!」
「えぇ。わたしになにを言ってほしいのか知らないけど、あなたの言いたいことはよく解ったから」
話が終わったのなら、それでいい。もう「用はない」ということだ。
*** *** ***
かれんは、つい先ほどのやり取りを頭の中で繰り返し、なにも言えなかった自分の答えをつぶやいた。
「結局のところ『別れたい』ってことでしょー。自分の浮気のいいわけをあたしのせいにして」
少しだけ目が潤んだ。だがそれだけだ。後悔はない。
怒りに任せてここに来た。
ここまで来てしまった。
『Our dreams kitchen』
看板を見上げながら「なんで?」と、自分に問いかける。
(ダメだ…帰ろう)
「あ…やば…」
(目があっちゃった)
「手、振ってるし…」
ため息ひとつ残し、観念して店のドアを開けることにした。
「いらっしゃい」
「来るつもりなかったけどね」
(あ~かわいくない)
そうしておきながらもしっかりと、陽の目の前のカウンターに座り込むかれん。
「珍しいね。ひとりなんて」
「そうね」
水の入ったグラスを目の前に置き、
「なんかあったとか?」
「そうね」
陽はかれんの反応に小さく笑って、
「ご注文は? それも『そうね?』」
「そう…あ、…もう」
ふたりの言葉が重なった。
水を一口、
「ここのおすすめはシーフードカレーらしいけど、わたし甲殻アレルギーなの。他におすすめは? それに、わたしは苺パフェも欲しくないわ」
「じゃあ 俺が この店 継いでから 考案した 必殺の生姜焼きでもどう? 苺がダメなら…そうだな…今あるのは…ブドウかぁ…タルトなんてどうかな?」
「そういうかわいい食べ物が似合わない女だから」
「まぁまぁ そう言わずに。 食べず嫌いは 良くない。」
「そこまで言うなら 食べてみようかしら?」
やっぱり 可愛くない。
「かれんちゃん…食べる人が 楽しみにしてないと 食べられる側も 嬉しくないもんだよ?」
それは 陽が この『Our dreams kitchen』を 継いで 色々な経験をして 感じている 核心だった。
美味しいモノでも 食べて かれんが 元気になってくれたら 嬉しいと 思っていただけだった。
「そういうものかしら? 作ってくれたなら 食べてみるわ」
どうも 卑屈でならない。
でも 今のかれんには それが 正直な所だった。
「どう? どう? 悪くないでしょ?」
陽は かれんに 元気になってほしいと 願っていた。
かれんは 屈託の無い微笑みに 誘われて 生姜焼きを 頬張った。
「…うん 悪くないかも…」
不覚にも かれんの胃袋を 掴んでしまった。
それから 無言の食事タイムが 経っていった。
かれんは 心の軽さを 感じていた。
言葉だけじゃなくて そこには 陽が作ってくれた『料理』があった。
「あたし、彼と別れたの。性懲りもなく浮気されてね」
「そうなんだ。」
「ま、それもいつものことなんだけど」
かれんにとって その あまりに 自然に 受け取ってくれる陽に 呆気にとられかけた。
「振られた足でここに来たの。なにを期待したのか…」
1度 決壊したダムは 塞き止め方を 忘れる。
「だから 元気無かったんだ。」
陽は かれんの翳りの原因が 漸く 分かった。
「元気ない? そんなつもりなかったけど…だってわたし、怒ってるのよ? これでも」
「誰に対して怒っているのかによるね」
「あぁ、そうね。かわいくなくて、気が強くて、負けず嫌いだから、」
かれんは 素直になれない自分を 責めていた。
「そんなこと無いと 思うけどなぁ…俺は。」
真顔で そんなことを 呟いた陽の瞳に 吸い込まれそうになる。
それでも 放出しきれない 想いが 止まらなかった。
「わたしの性格が浮気で直ると思ったのか、それとも窮屈だったのか」
何故か 陽は 苦笑いを 浮かべていた。
その苦笑いは 何故か かれんを 引き寄せた。
「
とにかくそういうわけで、お兄さん。そんな女は必要ない?」
あくまでも冗談ぽく言っては見せるが、本音は本気の賭けだった。しかし、ふと我に返り、
「あれ、あたし。お兄さんに彼女がいない前提でしゃべってる。やだ、恥ずかしい」
「まぁ 知ってたら 逆に 怖いよね。」
「あなたにそういう余裕があるなら、振られたばかりの女のナンパ、本気で考えてみてよ」
「面白いね かれんちゃんは。 いいよ。 そういうの 割と嫌いじゃない。」
「でもあたし、デザートまで、待ってられないかも」
いたずらっぽく笑って舌を出す。