隠さない秘密
私は、上司の秘密に初めから気づいていた訳ではなかった。ただ、自分とは違うなにかを感じていた。結果それが壮大な秘密を知るべくして知ってしまったというだけ。
それは「所帯じみていない」という点だった。彼女は既婚で子どもが3人いる。にも拘らず、たくあん臭くない。つまりは「母」を感じないということだ。むしろ清々しいほど「女」だった。それが違和感。
どんなに彼女が子どもの話をしても、たまに学校行事で外出して行ったとしても、その行動がどうしても頭の中で結び付かなかった。それは彼女が「恋をしているから」だと気づいたのは、それほど時間を要さなかった。
「ケイさんは、どこかにいいひとがいる気がします」
気まぐれに、ほんの思い付きで言った言葉だった。
本気でそう思っていたわけではなかったが、自分の中の違和感を解消するにあたり、なぜかそんな言葉がしっくりくるような気がしたのだ。既婚者である彼女に、その言葉は「失礼」だったのではないかと反省もした。だが。
ある時彼女は、離婚経験者である私に「離婚の理由はなにか」と聞いてきた。そしてさらには「どうやって離婚したのか」と続いた。
「え? ケイさん、離婚したいんですか?」
「そりゃしたいよ。この歳になってしたくないひとって逆にいるの?」
おもしろい言い方をする…と思った。確かに、結婚も10年を越えればいつまでもラブラブというわけにはいかないだろうか。私は子どもができる前に離婚したため、その辺のことはよくは解らなかった。
「なんで離婚したの?」
いつも離婚の理由を聞かれると言葉に詰まった。
なにがあって、どういう流れで、結果離婚…と話すのはとても面倒だったし「不幸」の刷り込みをしているようで気分が滅入る。なにか「ひとこと」で片付けられる理由が必要だった。そんな理由を考えることさえ面倒になった頃、周りの興味もだんだんに薄れて行った。
久しぶりの質問に、久しぶりに詰まった瞬間だった。
つづく・・・・
この作品は『第2回逆噴射小説大賞』に応募するため書きました