
妄想家族 『トイレで首つり』
これは本気で妄想もいいところ
我が家のトイレはぼっとん便所
取っ手を引くと男子便所があり、その先の取っ手が女子便所になっている
今じゃ水洗が当たり前だが、その便所は覗くと真っ暗で、
またぐと下から風が吹いてくる
それは換気の音だったのかもしれない
いつもボーっと、音がしていた
便所の灯りは白熱灯ではなく、40wのオレンジの灯り
夜はその灯りと、ボーって音が、子どもには充分すぎるくらいに怖かった
だからといって夜のトイレを避けられるわけではない
なぜか、いつも、扉を開ける時、妙な考えが頭に浮かんだ
このドアを開けるとばーちゃんが首を吊っている
なぜそう思っていたのか、なぜそう思ったのか、不思議でたまらなかった
それは前世の記憶なのだろうか?
あの家は、わたしが生まれる前の年に建てられた家なのに、だ
ばーちゃんは、とても自殺をするような人ではない
100まで生きて、新聞に載る…それが彼女の夢だった
残念ながら、新聞に載ることはなかったが、
いつもいつもブラックな皮肉を述べながら、大往生した
どうして?…と首をかしげたくなるほど、ブラックな言葉を並べる人だった
さみしさなのか、性根が腐っているのか、時代なのか解らないが
とにかく黒い言葉がたくさん出てくるかわいそうな人だった
わたしは首を吊ることを望んでいたわけではない
でも、いつも彼女の首吊りシーンが頭に浮かんだ
首吊りシーンなど、見たこともないのに、いつも浮かんだ
現在では、そのぼっとん便所も水洗になり、内扉もなくなった
首吊りシーンもいつの間にか浮かばなくなった
いいなと思ったら応援しよう!
