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妄想家族 『階段にパンツ』

そのままの意味
階段に息子のパンツが落ちていた

単純に考えれば、溜まった洗濯物を自室に運ぶ途中で落としたのだろう
母子家庭だったので、小学校にあがった年から、子どもには自分の身の回りのことをすべて自分でやらせることにしていた

もちろん、手抜きだ
父親も母親も1人でこなさねばならない…というハンデを笠に着て協力要請と言えば格好はつくが、要はズボラな母親の悪知恵だった

洗濯物は自分でたたんでタンスにしまうこと、
毎週持ち帰るシューズを洗うこと、
お弁当の日は感謝を込めて丁寧に洗うこと、

だいたい、自分がやりたくない作業を子どもに課した

当然、上手くできない
きちんとたたまねばタンスは溢れ、
きちんと洗わねば翌週汚れたシューズを履く、
きちんとすすがねばおかずの汁がこびりついたまま乾いてしまう…
もちろん、最初のうちは手を貸す

「お母さんは上手だね」
当たり前である
だが、当たり前を当たり前に使うことを覚えてはいけない
タンスを溢れさせたり、シワのない服を着たければきちんとたためばいい
綺麗なシューズを履きたければしっかり洗って、汚さない工夫をして履く
美味しいお弁当が食べたければ残さず食べ、食べれることに感謝して弁当箱をキュッキュッとさせればいいだけだ
子どもの学習能力は大人のそれよりも発達しているのだから

さて、階段のパンツに戻ろう
階段のパンツを見て、当たり前の発想をせず母親は妄想したのだ
とりあえず、階段にあったのでは危険だ
息子が踏んで、もしくは自分が踏んで階段から落ちるかもしれない
そうなったら大惨事、打ち身だけならまだしも骨を折るかもしれない…
そう想像してまず、どこかに移動しようと手を伸ばす

そこで、

妄想① これは果たして洗いたてのそれだろうか?
妄想② 実は使用済みで洗うために放ったか、もしくは隠そうとして落ちた
妄想③ なら、隠さねばならなかったその意図は?
妄想④ これは本当に洗いたてなのか? 
    使用目的があってここまで来たのではないか?
妄想⑤ では、その使用目的はなに?
            やんごとなき事情の末の出動であるなら息子になにがあった?

あまりに色々妄想してしまったので不安になり、母親はつまんで持上げる前に叫んだ
「階段にパンツ、落ちてるけどー? 洗ったやつ? 使ったやつ?
いや、見るからに洗ってある感はある
だが、あえてそう聞いてみたかったのである
「だれのー?」
ほぅ、確かに、それは正しい答え
母親のかもしれないと思ったのか?
「ボクちゃんの」
「じゃー落とした、洗ってあるやつ」

やっぱり
つまらない答えが返ってきた
なんて捻りのない答えだろう
いや、期待しすぎた母親が暇なせいだろう

こうして母子家庭の、多感な息子を持つ母親の日常は小さな妄想から大きな妄想まで、ありとあらゆるケースを想定して脳内劇場が繰り広げられる

さて、次はなにが階段に落ちていることか…( 一一)フ

まだまだ未熟者ですが、夢に向かって邁進します