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『ぐんぐんグルト』

床で、眠ってしまったお父さんが、寒さに声をあげた。

慌てて、毛布を二つに折りたたみ、お父さんに被せた。

二つに折りたたんだ毛布の中に、お父さんは すっぽりと包まれた。

お父さんは、病を経て、そして年を経て、こんなに小さくなった。

私はなんだか、あんまり愛しげで、ポロポロポロポロ 涙が出てきた。

昔、私を包んだ、お父さんの筋肉質な広い肩は、今半分くらいだ。

「おめーは全く、ホントにでかい女だな!」

お父さんはそう言ったけれど、お父さんの背骨 はまだ潰れてなくて、お父さんはもっと大きかった。

鉄鍋で中華を作ってくれるから、腕 なんか本当に太くて、たくましかった。

とにかく歩き回る人だったから、足なんか 見事な筋肉だった。

ちょうど バーバラ村田さんの家に居候して、「人間仮免中 つづき」のペンをやっていた時だ。

七十歳になっても、新宿三丁目から新宿駅まで、お父さんは 草履を履いて歩いていた。

あの頃、お父さんは日本酒一升、私はウイスキーの角一本を飲んでいて、飲みに行くと必ず飲みすぎて、最後は二人で喧嘩になり、怒鳴り合いながら笑ったりして、もう訳が分からなくなったものだった。

そのお父さんが、8合しか飲めなくなった時、 

「俺は、もう歳だ。老いたよ」

お父さんは、そう言ったんだった。

飲んだ帰りには、千鳥足のお父さんを肩に背負って帰ってくることが多くなった。

私はその時、お父さんに、

「籍を入れよう。老後の世話がしたい。私に看取らせてくれ」

そう話した。

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