世を渡る橋のない人々~『反社』と呼ばれる人々~
ハウス加賀谷さんの質問箱に、こういう投稿があった。
「反社と付き合いがあることを堂々と twitter に書いてどういう神経してるんですか?統合失調症の症状ですか?」
ハウス加賀谷さんは、「極道の家に生まれ落ちた人間(同級生)の苦しみがわかるか!」と憤っていた。
頭に来て、加賀谷さんの質問箱に先の投稿に対する反論を送った。
後から加賀谷さんに反論を送ったことについて謝った。
出過ぎたことを書いてしまったと思ったからだ。
私には かつて、いわゆる 部落出身で、ヤクザになるしかなかった友達が二人いた。
その生い立ちの、壮絶な差別の苦しみ。
のし上がって生きていくには、人を殺すことも、殺されないために強くなることも、そうやって生きてきてヤクザになることも、それしか道がなかったんじゃないだろうかと思うぐらいだった。
普通に生まれて普通に生きて、ぬくぬくと義務教育を受け、中学 高校へ行き、趣味を仕事にできるような私のようなお嬢ちゃんには、彼らに対して、その人生を否定できるような言葉など欠片もなかった。
世の中は理不尽だと、神も仏もないと、不公平で優劣 ばかりで差別にまみれて臭いものには蓋をする、それが社会だということを彼らに知らされた。
道玄坂のヤクザ ビルで風俗をやっていた頃。
「ヤクザ」という職種の若者たちがたくさん来た。
これから 鉄砲玉に行く人、これから無期懲役になるようなことをする人、ムショ帰り。
まだ20代30代で、死刑を覚悟していたり、無期懲役を覚悟していたり、不条理と理不尽だらけだった。
「ヤクザ」という職種の彼らに、そういう理不尽を命じた「ヤクザ」という存在が憎たらしかった。
親がヤクザだった人、両親に捨てられた人、施設で育った人、いわゆる部落出身の人、在日の人。
そういう生い立ちをした人も多かった。
アダルト業界でもそうであった。
両親に虐待されるため、渋谷の路上で眠ってはアダルトビデオに出る子、両親がいなくなっちゃったため、渋谷の路上にたむろって、そこからアダルト業界に来た子。
そして 施設で育った子。
私は刺青が入っていたので、いわゆる「ヤクザ」と呼ばれる人たちには同業者と間違われ、すぐに打ち解け何でも話した。
そして話すだに、世の中の不公平と理不尽と世知辛さと優劣、差別と偏見と「臭いものには蓋をする」そんな世間の現実ばかり思い知らされたものだった。
精神病棟の慢性期病棟の閉鎖病棟。
そこにどれだけの「両親に捨てられた子」「施設で育った子」たちが、リストカットだらけになってやってくることか。
社会に馴染めず、入退院を繰り返し、自殺未遂を繰り返し、そんな子たちをたくさん見てきた。
「ヤクザ」と呼ばれる職種に足を突っ込むしかなかった人達。
私は彼らの話を聞いて、それを正すだの、諭すだの、そんな言葉は一切持ち合わせられなかった。
ただ聞くしかなかった。
ただただ、「哀しい」、それしか思えなかったのだ。
隘路の隘路で這いずり回って生きてきて、行く道がなくて、本当に行く道がなくて、「精神を病んだり」「ヤクザになったり」、それに対して私は、私のようなお嬢ちゃんは、何を言えただろうか?言えるだろうか?
ただ笑って抱きしめて、酒を飲んで、冗談を言う、それしか出来なかった。
悩みを聞いて、自殺未遂をすれば救急車を呼び、病院に見送るだけ。
甘えるだけ甘えさせてあげて、だけれども私は役に立たない。自殺未遂は止められない。
生まれた頃から弾き出された人々は、渡っていく世の中がないことだってあるのだ。
この世に神などいない。
この世に仏などにない。
確実にあるものは「地獄そのもの」だけではなかろうか。
私には今そういった 友人は一人もいない。
そして 法律も厳しくなった。
今後付き合いが出るということはもうないだろう。
だけど振り返る。
時々振り返る。
彼ら彼女らはどうしているだろうかと 振り返る。
もう 塀の中から出られなくなった人もいる。
慢性期病棟に移されたまま、出て来られなくなった自殺未遂の常習者もいる。
そして死んだ人もいる。
私はそういった生い立ちを持った人達と縁がなくなり、そういった環境からも遠くなり、そうこうしているうちに 法律が変わり、今はもう一切 縁がない。
関わりがあった時代を思うと、彼ら彼女らの、涙だったりとか、笑顔だったりとか、絶望だったりとか、流した血だったりとか、そんなもので苦しくなって来ることがある。
「反社」と、吐き捨てられる言葉。
人々。
「反社」という職業を選んだ人々を、肯定しているわけではないが、私は否定もできないのだ。
そうなるしかなかったかも知れないからだ。
生きるためにだ。
私のような一般のお嬢ちゃんは、一般のおばちゃんは、かつて袖振り合ったそういった人々の、「救われなさ」のみをただただ呪うしかない。
再三言うが、この世には神もなく、仏もなく、不条理で理不尽で、優劣 と差別がおおかたを支配し、地獄だけは確実にある。
「哀しい」としか言えないものを抱えた人々が、存在することだけは確かだ。