日本は何処に!?米国スポーツ放送とOTTの融合と進化
(冒頭写真:Sports Video Groupサイトより)
先日、スポヲタ情報局内でYusuke Katokuが「テレビ放映時代の終焉?スポーツでもストリーミング時代到来か!?」でも述べている通り、日本同様ここ米国でもスポーツのテレビ視聴率低下が叫ばれて久しいのは承知の通りである。そのため、AmazonやFacebook、Twitterなどの新興巨大シリコンバレーたちがその巨万の富を背景にいよいよスポーツ配信に本格参入してくるのでは?と言われ続けているが、実際蓋を開けてみると実はここ米国の「スポーツOTT配信」においては、まだまだメジャーネットワークや衛星・ケーブル放送局がイニシアティブを取り続けていると言っても過言ではない。
日本ではスポナビLIVEがそのサービスを縮小してからはスポーツOTT界はDAZN一強体制がしばらく続きそうだが、米国では従来の放送局が新興メディアを上手く取り込み、融合し合いながら視聴体験・サービスを拡充し続けていると言える。その一例を以下で紹介して行きたい。
HuluとYoutube
まずは日本でも馴染み深いHuluとYouTubeだが、この両社は純粋なスポーツOTT配信ではないいものの、彼らの有料サービス「Hulu with Live TV($39.99/月)」と「YouTube TV($40/月)」に加入すれば、ESPNやFOX sports、NBC sportsなどのスポーツ専門チャンネルを含む約60以上のネットワーク(放送局)の番組を視聴することができる。
Hulu with Live TVが独自番組を配信している点を除けば、スポーツコンテンツの観点から言えば両社のサービス内容はほぼ同じであり、「コード(ケーブル)カッター」の権化として従来のケーブル加入者のパイを食い合ってる点でも同じ(完全な同業社)である。また両社はスポーツ協賛を通じて大々的なプロモーションを行なっている点も同じで、先のNBAプレーオフでは、Huluが「NBA playoff on TNT presented by Hulu」、YouTube TVが「The NBA Finals presented by YouTube TV」とそれぞれお互い意識しまくりのプロモーションを展開したのである。
YouTube TVがNBA Finalの事業スポンサーとしてNBAと契約(テレビCMはabc放送中のみ)、HuluがNBA playoffの放送スポンサーとしてTNTと契約しているところに細かな違いはあるが、お互い一大スポーツイベントを各サービスの認知度・視聴拡大の絶好機と捉えて、ここぞとばかりにプロモーションをかけていた。(YouTube TVは昨年のMLBワールドシリーズで、Huluは今年のNHLプレーオフとスタンレーカップでもスポンサーとして大規模にプロモーションを行っていた)。
この期間中、HuluやYouTube TVのロゴやCMが、TNTやabcの放送番組内やスタジオ内の至る所で露出され、しかも放送中のCMでは「NBA Playoffの視聴はHulu with Live TVで」というメッセージや、YouTube TVはCM直前に行われていた実際のプレー動画クリップを即座にCMに挿入して、YouTube TVでのFINAL視聴をプロモートするなど、日本のテレビ業界の常識では考えられない手法で「OTT」が「テレビ」放送上で広告を打っていたのである。
(写真:https://www.youtube.com/watch?v=qnhT_bdQshU より)
これは日本で言えば、例えばプロ野球・日本シリーズを放送するテレビ朝日の地上波放送に「DAZN」が番組スポンサーとして常に露出され、番組内のCMで「日本シリーズはDAZNで観よう!」と言っているようなものであり、まだまだ新興OTT勢力を目の敵にする日本ではまずあり得ない広告手法である(そもそも放送局のCM考査でNGとなるだろう)。
一見、米国でも「従来放送局」vs 「新興OTT」の構図ができているように思われるが、実際はお互いが持ちつ持たれつで、補完し合う関係にあると言える。放送とOTTがうまく融合している一つの例と言えるだろう。
2018年は米国スポーツOTTの新たな戦国時代の幕開け?
さて、上記HuluとYoutubeの例を上げたが、実は純粋なスポーツOTTサービスは、米国では2018年が本格的な幕開けと言っても過言ではない。
下記現在の米国における主なスポーツOTTの比較表を作成したので参照してほしい。
時系列的に言えば、NBCが2016年6月に開始した「NBC Sports Gold」が米国スポーツOTTの始まりだが、そこから少し間隔を置いて2017年末にSports IllustratedがAmazon Video内に「Sports Illustrated TV」を、2018年3月末には大手スポーツウェブメディアのBleacher Report(B/R)が「B/R Live」を、4月にはESPNが「ESPN+」を、そして先月7月にはDAZNもここ米国でスポーツOTTサービスを開始すると相次いで発表した。
コンテンツの豊富さで言えば、やはり放送局・ESPNの豊富なスポーツコンテンツを武器に強気の価格でサービスを運営するESPN+が圧倒的に充実していて、米国新参のDAZNはまだまだ日本のサービスのようにはいかず、既存放送局と複数年契約下にある4大メジャースポーツには手をつけられない状態であるため、一旦はボクシングを中心とした格闘技系専門のOTTとしてのスタートを余儀なくされている。
一方、Sports Illustrated TVはライブ配信権に手を出さず、あくまでストーリーテリングやビハインド・ザ・シーンなどの独自番組をVOD配信することにフォーカス、NBC sportsもプレミアリーグや巨額投資中の「オリンピック」に関連するスポーツのライブ配信権を獲得して独自色を出している。価格やコンテンツ量ではESPN+が他のサービスを圧倒しているものの、それぞれが自らの立ち位置を鮮明にして独自番組やサービス形態を打ち出し、お互いがうまく差別化を図り共存していると言えるだろう。
画期的なB/R Live
そんな中、筆者が圧倒的に注目したいのがBleacher Report(B/R) Liveである。
もともと2007年に高校時代の友人同士3人で始めた素人投稿スポーツブログがBleacher Reportの始まりであったが、これがそのわずか2年後には米国でトップ10に入るスポーツオンラインメディアに急成長し、2012年にはTurnerがB/Rを約$180ミリオン(当時約150億円)で買収。その後もB/RはTurnerの豊富なスポーツコンテンツや制作ノウハウ、様々な大手メディアとのコンテンツシンジケーション提携や新興メディアの買収などで拡大を続け、満を持して2018年4月から「B/R Live」としてOTTサービスを開始したのである。
そしてまた注目が集まったのがその課金方法。
従来の年間や月額、また1試合・1イベントごとの課金ではなく、更に細分化して試合の分数を購入する「マイクロトランザクション」を導入するとNBAと発表したのだ。
この課金体系は今シーズンのNBA配信から実施される予定だが、この課金方法はある意味チケット販売のダイナミックプライシングに近い手法で、各個人の視聴スタイルニーズに合わせた「超パーソナライズド課金」システムということができる。
例えば、たまたまSNSで試合経過を知ってJ・ハーデンが第3Qまでで60点を記録していると知って第4Qから観たくなった、とか、予定時刻まで30分ほど余裕があるから、予定まで観たかった試合の15分間だけを購入する、というようなことが可能になったのだ。つまりこれまでNBAリーグパスで最小でも1試合単位(7ドル)でしか購入できなかったものが、最後の4Qだけで1.99ドル、とか試合途中15分間で0.99ドル、などとその人のニーズに合わせた最小単位での購入が可能になったのである。
こうすると「そこまでお金を払っては観たくない」がNBAは好き、というカジュアル・にわかファン層を有料課金のエコシステムにも取り込むことが可能となり、これまでは多くがコアファン層のためにあったスポーツ有料配信課金ビジネスに、大きな変化をもたらすかもしれない、画期的な取り組みであると考察する。
このB/R LiveのNBA配信の価格形態はもうすぐ(今月中?)発表される予定なので、引き続きぜひ注目してもらいたい。
参照:
https://www.businessinsider.com/turner-sports-to-launch-ott-sports-service-2018-3
https://www.si.com/tech-media/2017/12/15/sports-illustrated-tv-movies-documentaries-tv-shows-listing
http://www.gaebler.com/From-Startup-to-Top-Ten-Sports-Site.htm
Hulu with Live TV、Youtube TV、NBC Sports Gold、Sports Illustrated tvの各サイト参照
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