こっそり改正。職務発明報酬の法定基準額(中国専利法実施細則)
先週、12月21日付で、中国の改正専利法実施細則が公布されました。施行は、2024年1月20日からとなります。
1.専利法実施細則の位置づけ
ちなみに、中国では、特許+実用新案+意匠の3つの権利をまとめて「専利権」と称し、この3つがまとめて1つの「専利法」に規定されています。
そして、この専利法に関しては、
①最高人民法院が、主に権利解釈などを含めたエンフォースメント関連で具体的な解釈基準を示した各種の「司法解釈」
②日本でいうなら、特許庁が出してる審査基準に相当する「専利審査指南」(←これも先日改正されました。)
③出願の様式等が記載されている点で、日本の施行規則に近いかもしれないが、それ以外にも、例えば、発明者の定義だったり、実は重要なことが色々規定されている「専利法実施細則」
の3つが、主要な法規定として存在しています。
2.こっそり改正の概要
今回の専利法実施細則の改正は、部分意匠制度や開放許諾制度、薬品特許の存続期間の延長等、2021年の専利法改正に伴い導入された諸制度の詳細規定の新設が、やはりメインだとは思いますが、
それよりも私が気になったのは、その陰でこっそり、職務発明の奨励金・報酬の法定基準額が改正されていたこと!
本実施細則の改正草案は、パブコメに付されるために2020年に公表されていますが、その時には全くなかった話です。
ちなみに、これとは逆に、改正草案には規定があったものの、今回の改正では採用されなかったのは、「ライセンス契約の届出が第三者対抗要件となる」旨の規定です。
話を戻し、前提として、中国における職務発明に対する対価(※日本と同様、金銭以外に株等でも可)について簡単に説明しますと、
この2段階での支払いが専利法上の義務として規定されている(16条)点が、日本法と異なるところです。
①、②の奨励金・報酬の法定基準額は、従来から実施細則の方に規定されており、それが今回、改正されていました。具体的な額は以下の通りです。
3.実務への影響は?
上記の法定基準額は、職務発明規程等の労使間での約定がない場合に適用されるものであり、実務上は職務発明規程でこの法定基準額よりも低い基準を定めることも多く、また、過去のいくつかの裁判例を見ても、そのこと自体は許容されているといえます。
ただし、この法定基準額よりもあまりに低額な場合、裁判に持ち込まれると、裁判所が額を調整して支払いを命じる可能性が高いと思われます。
少し古いのですが、今でも実務上、参考にされている、上海市高級人民法院の 「職務発明創造発明者又は設計者奨励、 報酬紛争審理の手引」には、以下のような規定があります。
コカ・コーラ社の事件(上海市高級人民法院2020年7月22日判決)でも、会社側が支払った実施報酬(1,500元)があまりに低額であるとして、会社側にその100倍の15万元の支払いが命じられました。
(ただ、この件では、職務発明規程には出願時と登録時の支給しか規定されておらず、実施による支給についての規定がなかった点も大きかったと思われます。)
実施報酬については、本細則の改正前も改正後も、営業利益の所定割合が法定基準額とされていますが、コカ・コーラ事件もそうであったように、実際には、そのまま法定基準額の計算式に当てはめるのではなく、当該特許等の寄与率等の要因を総合考慮して裁判所の裁量で「合理的」な額が決定されることが多いと考えられます。
以上より、既に実施報酬について定めのある職務発明規程がある場合、今回の改正によって、直ちに実務に大きな影響は生じないと思われるのですが、今後、裁判所が考える「合理的」な金額が高まっていくことは想定されます。
中国では、職務発明の報酬についての紛争が多いですが、職務発明規程の改訂手続きは結構煩雑でもあるので、売上高の大きい製品に係る発明等については、特別賞与などの形式で個別に手当てすることにより、紛争リスクを低下させることは一案です。
中国法上の留意点を踏まえた日本本社・グローバル職務発明規程の中国への導入時のレビュー、修正や改訂手続きのアドバイスについての経験が多数ございます。どうぞお気軽にご相談下さい。