官能小説 秘花は妖しくからみ合う 20 里奈の相談
これまでの話は、こちらのマガジンにまとめてあります。
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美知恵は、自宅を出る直前に、里奈が住むマンションの部屋を借りていたのだった。
ちょうど隣の部屋が空いていたので、すぐに契約ができた。
1DK8畳、家具付きで家賃は10万円。
契約資金は、独身時代に貯めた預金である。
自宅を出るにあたって、生活費を稼がねばならない。
祐一には「実家に戻る」と言ってある以上、生活費をもらうわけにはいかない。
そのあたりは、家を出る前に段取りをつけてあった。
公認会計士の資格を生かして、いくつかの企業の在宅コンサルタント契約を結んだのだ。
これなら、パソコン1台で収入を得ることができる。
もともと、大手保険会社の幹部候補だった美知恵である。
ぬかりはなかった。
帰省と称して引っ越してから、祐一とはほとんど連絡を取っていない。
引っ越した当日に、「思ったより仕事が忙しい」とだけ伝えておいた。
引っ越してから、10日ほどがたった日の夜。
美知恵の部屋のインターホンが鳴った。
この部屋のことは、誰にも知らせていない。
おそらく里奈だろうと、美知恵は予想した。
「こんばんは」
予想は当たった。
玄関を開けると、そこにはワインの瓶を抱えた里奈の姿があった。
「ちょっと相談したいことがあるんですけど、いいでしょうか?」
里奈は、すがるような目で美知恵を見上げる。
「いいわよ。中へどうぞ」
美知恵は余裕たっぷりに微笑んで、里奈を部屋へと迎えた。
「よかったら、飲みません?お酒は飲まれない方ですか?」
「ううん、お酒は好きよ。そんなに量は飲めないけど」
「良かった。じゃ、開けますね」
里奈はポケットからワインオープナーを取り出し、栓を抜いた。
美知恵はとりあえず、冷蔵庫から買い置きのチーズを取り出し、小さなテーブルをはさんで向かい合わせに座る。
「で、相談って?知り合って間もないけど、私でいいの?」
「はい、逆に友達には相談できないことなんです」
「じゃあ、飲みながら聞きましょうか」
ワイングラスに赤ワインを注ぎ、口をつける。
ワインは、やや甘口のものだった。
「私…ずっと悩んでいたことがあるんです」
里奈は、うつむき加減で話しはじめた。
「田中さんが、大人の女性だから相談できるのかもしれません」
美知恵は、里奈に旧姓を名乗っている。
祐一の妻だと気づかれないために、だ。
「どんなこと?」
優しく尋ねてみる。
その様子に、里奈は安心して語りだした。
「私、初体験でいい思いをしなかったんです」
「初めての経験って、女はそんなに気持ちよくならないものだけど…どうだったの?」
「無理やり、というかほとんど犯された感じに近くて」
里奈は、さらにうつむいた。
ワイングラスを持つ手が、わずかに震えているように見えた。
「それ以来、誰とエッチをしても気持ちいいと思えないんです」
「今は、お付き合いしてる人はいるの?」
美知恵は、わかっていながら尋ねる。
「いるんですけど、ここだけの話、不倫なんです。相手に奥さんがいるんです」
それは私よ、とは口が裂けても言えなかった。
「その人とも、エッチは気持ちよくないの?」
「はい。何度か抱かれたんですけど、あんまり気持ちいいとは思えなくて」
ま、彼のあのテクニックじゃ、ねぇ…
美知恵は心の中で苦笑した。
「田中さんは、今まで『イった』ことがありますか?」
里奈は、顔を真っ赤にさせていた。
思い切って相談したものの、やはり恥ずかしいのだろう。
「そうねぇ…男性とのエッチでイったことはあまりないかもね」
「えっ…」
驚いたように、里奈が顔を上げた。
「でもね、相手が男性でなくても、『イく』ことはできるのよ」
美知恵の顔に、妖しい笑みが広がった。
それはまるで、罠にかかった獲物を見る目であった。
『この子を、自分の手で導いてあげたい』
すがるような里奈の視線に、ふとそう思ったのだ。
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挿絵は伊集院秀麿先生の描きおろしです。
ありがとうございます。
ひょんなことから、伊集院先生に挿絵を描いていただけることになったのですが…
毎回イメージがドンピシャすぎて、驚いております。
伊集院先生は、多岐にわたるジャンルのnoteを書いておられます。
ここに、尊敬の念をこめて、伊集院秀麿先生をご紹介させていただきます。