官能小説 秘花は妖しくからみ合う 12 観覧車
これまでの話は、こちらのマガジンにまとめてあります。
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里奈と祐一が濃密な夜を過ごした一夜が、明けた。
初冬の空は、よく晴れていた。
ホテルで軽く朝食をとり、二人はみなとみらいを散策した。
だが、あまりウロウロしては誰に見つかるかもしれない。
職場の人間はもとより、取引先の人に出会ってしまったら困る。
「観覧車なら、密室だから大丈夫ですよね」
里奈が、提案した。
もう少し、祐一と一緒にいたい。
みなとみらいにある有名な大観覧車に、二人で乗り込んだ。
眼下に、横浜の風景が広がる。
「課長、奥さん本当に大丈夫なんですか?」
里奈は不安だった。
26歳になるまで、恋愛経験はそれなりにあったが、不倫は初めてである。
不倫だとわかっていても、祐一のことを好きになってしまったのだ。
「大丈夫だよ。出張だといえば、うちの奥さんは疑わないから」
観覧車の席に並んで座り、祐一は里奈を抱き寄せた。
里奈は素直に身を預け、幸せをかみしめていた。
一抹の不安は残るが、今回の小旅行は里奈にこの上ない幸せをもたらした。
ロマンティックなホテルでの、濃密な一夜。
抱き合ったまま、目覚めた朝。
今思い出しても、体が震えるほどの嬉しさである。
ただ。
里奈の胸中に、わずかな疑問も生じ始めていた。
セックスって、あんなものなのかな…?
これまで、男性経験がなかったわけではない。
だが、「セックスが気持ちいい」と思ったことはなかったのだ。
当然、エクスタシーを感じたことも、ない。
祐一に抱かれた時、心の底ではもっと期待していたのかもしれない。
年上の落ち着いた男性だから、ひょっとしたらセックスも上手なのかも…
だから、以前の出張の時に、自分から誘ってみたのだ。
でも、ねぇ…
気持ちいいかというと…
里奈はぼんやりと考えていた。
もちろん、好きな人に抱かれるという幸福感はある。
しかし、心と体は別物なのか。
隣に座る、祐一の横顔を見上げる。
「ん?どうしたの?疲れちゃった?」
祐一の手が、里奈の髪をなでた。
その優しさに、胸がときめいた。
里奈は何も言わず、祐一の胸にもたれかかる。
胸板の厚さが、心強かった。
今は、このままでいい。
この人のことが、大好きなのだから。
里奈は、心を決めた。
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挿絵は伊集院秀麿先生の描きおろしです。
ありがとうございます。
ひょんなことから、伊集院先生に挿絵を描いていただけることになったのですが…
毎回イメージがドンピシャすぎて、驚いております。
伊集院先生は、多岐にわたるジャンルのnoteを書いておられます。
ここに、尊敬の念をこめて、伊集院秀麿先生をご紹介させていただきます。