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ノベライズコント「金庫破り」







注:是非ライスYouTubeチャンネル、コント「金庫破り」を観てからお読み下さい。 









『金庫破り』








 界隈では生きる伝説となっていた老練の金庫破り、杉岡のジイさんが失敗したという情報は裏で生きる全ての人間に瞬く間に広がった。

 中には「杉岡は泣きながら自首をした」などという信憑性の低そうな噂話まで回る始末。
 面白おかしく尾ひれが付けば付くほど其の実、彼らにとってそのニュースがいかに衝撃的だったかを物語っていた。

 情報共有が欠かせないこの業界には時折、「あの金庫には手を出すな。」といった注意を促す情報も回ってくる。
 それを聞いた金庫破り達の反応は毎度、面白い様に二つに別れた。

 怖気づく者。そして火がつく者だ。







 一辺が一メートルほどの鉄の六面体。
 扉にはダイヤル式の錠が取り付けられた何の変哲も無い金庫を前に、田所と関町は落胆の色を隠せずにいた。
 この金庫に辿り着くまでのセキュリティもハッキリ言ってザルだった。
 余程金庫に自信があるんだろうと期待してのコレだったので正直拍子抜けと言わざるを得なかった。

 杉岡のジジイも老いたものだ。
 歳は取りたくないな、と思いながら田所は仕事の準備を開始し、頭の中はもう夜に飲むビールの事を考えていた。

 そのくらい簡単な仕事だった。
 目の前にある様な旧式のタイプは、ダイヤルと連動する内部の数枚のディスクをくるくると回していき、正しい位置に来た時の微妙な音の違いを聞き分けて解錠する。
 その、普通では聞き取れない音を拾う為の聴診器を金庫にあて、田所はゆっくりとダイヤルを回し始めた。 

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