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ノベライズコント「想像」
注:是非ライスYouTubeチャンネル、コント「想像」を観てからお読み下さい。
『想像』
「20年後、自分達がどのような大人になっているのか、想像して書いてみましょう。」
小学生時代、『未来の自分』というテーマで作文の宿題が出された際に先生が言った言葉だ。小さい頃から、一人妄想に耽ることを日課にしてきた私にとっては何とも容易い課題であった。
周りがやれ野球選手だ、やれお嫁さんだと語る中、進学から就職、独立、それに並行した結婚、出産、離婚、再婚までの人生プランを年表形式で発表した私は、先生からの『よくできました』のハンコと引き換えに、大量の友人を失った。
癖(へき)とも言える妄想は歳を重ねる毎に酷くなっていった。二十歳を超える頃には、他者がとった行動をまず自分に置き換え想像し、それが納得いかなければ直ぐ意見してしまう偏屈な人間になってしまった。
なので今、目の前の友人が喫茶店で注文した飲み物がどうにも理解する事が出来なかった。
「え?お前、トマトジュースとか飲むの?」
私は野菜や果物は出来るだけ加工せず、素材そのままで味わいたいタイプだった。果汁を楽しむオレンジやグレープフルーツは百歩譲ったとしても、食感を楽しむトマトをジュースにしてしまうメリットがどうしてもあるように思えなかった。
絶対にトマトはそのままが一番旨いのだ。
そう告げると友人は少し不機嫌になり言った。
「馬鹿かお前。ここ喫茶店だぞ?喫茶店でトマトがぶがぶ齧り付いてる奴、相当やばい奴だからな?」
言いたい事は分からないでもないが、腹の立つ顔面をしている友人に“馬鹿”と罵られた事がどうしても頭に来て受け入れを拒否してしまった。
お前自体が腐ったトマトみたいな顔してるんだから大丈夫じゃない?と言いたいのをグッと堪え「そうかなぁ。」と言うに留めた。
友人はその光景を想像してみろと続けた。
望むところだ。彼はまだ私が想像のプロフェッショナルだと知らないようだ。
威圧的に続ける友人の頭にげんこつを喰らわせて黙らせるのは簡単だったが、ここは言う通りに得意の想像で検証してやろうじゃないか。
ちなみ私はいつも想像する時、音をイメージする。
子供の頃に一番良くした妄想が『もしも某ネコ型ロボットがいたら』だった為、自然とアニメ風の効果音をイメージする様になったのだ。
今日は特に深く潜ってやろう。そう決意させる程、友人の顔は生理的に私を苛つかせた。
ファンファンファンという間の抜けたようなお決まりのBGMが脳内で再生され、目の前の景色がゆっくりと歪み始める。全てが暗闇に溶けて無になる。
パズルを組み立てるように再構築された視界には、見慣れた喫茶店とトマトを鷲掴みにして一心不乱に齧り付く友人が現れた。
相手の一手目で投了する棋士の様な気分だった。見た瞬間に負けを認めざるを得なかった。人間の知性を失った様なその姿は、たとえ喫茶店でなくとも知り合いである事を隠したくなる程だったからだ。
今すぐにでも現実の友人に謝罪したい。
「いや、気持ち悪いわ。」
“参りました”という意味も込められた〆ゼリフと共に、私は友人の頭をはたく事でこの想像を締めくくった。
静まり返った店内に咀嚼音だけが響く。
ゆっくりと息を整える。
居酒屋で店員さんを呼んだが反応がなく、再びボリュームを上げて呼び直す様にもう一度強めに友人の頭をはたく。
ふむ。
とにかく冷静になる様に言い聞かせ、状況を整理する。
うむ。
これはもう間違いない。
戻れない。
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