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国内・インバウンド観光産業復興戦略ロードマップ案策定の時期到来(2021年9月)

当方は米国に連続で21年、日本国外は合計29年超在住している社会科学系の米国博士研究者です。 医師(Medical Doctor)ではありません。統計学、ファイナンス、経済効果計算等の授業を米国ホスピタリテイ経営学部の大学院で教えています。

「いつ観光産業は復興するのか」「政府が早く指針を出してくれないともう耐えきれない」「日本はコロナ対策失敗した」という祖国日本の意見をオンラインでまだ見かけます。米国から見ると、上記意見に少なからず違和感を感じるのです。これは日本で日本語報道だけを聞いて日本語で日本人とだけ話をしている環境下での認識と、世界から日本を見た認識に乖離がある点に起因します。

1.日本のCOVID-19対応とワクチン接種状況

世界と比較したワクチン接種進捗状況に関して、日本の方々の多くが日本は遅れている、日本は酷いという認識、それは正しかった時期はありました。今年(2021年) の前半1月から5月までは日本語メデイアはそれをベースに日本は酷いという報道を行ったのだと推察します。

但し、6月以降に、日本は接種ペースを急上昇させ、6月後半には世界の接種率平均を超え、9月9日には何と米国の接種率(最低一回接種者比率)を超えるに至っています。(表1:Our World in Data より:https://ourworldindata.org/covid-vaccinations#what-share-of-the-population-has-been-partly-or-fully-vaccinated-against-covid-19)

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このままのペースだと欧州連合にも英国にも並ぶでしょう。

次に、本当に日本の対策はどうだったのかを客観的に判断するためにデータを見ましょう。総感染者数の英・米・世界全体平均水準との比較と総死亡者数比較をする際には人口規模の差を補正するために「百万人あたり何人」そして「週次の変動を消して中長期トレンドを示すために「一週間値」を見ましょう。(表2:百万人あたり週次感染者数。表3:百万人あたり週次死亡者数:元データ:https://ourworldindata.org/covid-vaccinations#what-share-of-the-population-has-been-partly-or-fully-vaccinated-against-covid-19)

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感染者数は9月に若干増えましたが、沈静化に向かっている様です。英米の比では無いです。死亡者数は一貫して抑制されており、世界平均以下。英米のような急上昇の山も無く、世界と比較したデータ見る限り、日本は卓越して優秀に見えるのが理解出来ると思います。

どうですか、少しは明るくなってきましたか? 日本が酷いという印象操作を一生懸命する日本語メデイアだけ見ていると政府が悪いという印象を持ちすぎてしまいますが、自分で英語で世界データを見る癖をつければ、もっとバランスのある客観的世界観を持てます。

2.日米の観光産業復興に関する意識の差異

ここが今回の投稿の強調したい点です。まず、日本の観光業界の認識と米国で最高数の観光客が訪れる(年間75百万人:2019年)市区町村であるフロリダ州オーランド(行政単位はオレンジ郡)の観光業界の心持ちを比べます。

(1)日本の観光関連業界の典型的な発想

COVID-19の最中に、日本での宿泊産業経営者が政府に対して不満を述べている記事がいくつかあったのでその不満を発言部分だけ引用します。
• 「宿泊事業者に対する補償などの明確な措置、方向性が示されておらず、苦情の声も聞かれる。県は休業補償などを含めさまざまな対策を講じてほしい」
• 「県からはまだ基準が示されておらず、何も決められない。方針を早く示してほしい」
• 「政府の指導に従って休業するが、(首長は)再開時期や具体的な新オペレーション案を明示してくれ。」
つまり日本では、COVID-19対応案や経済再開のロードマップは政府(役所)任せの意識です。

(2)米国観光業界の典型的な発想

オーランドは以下の通りです。

• 「政府の緊急命令に従って休業するが、各産業界はそのまま座して死を待つよりは、再感染拡大リスクを取っても、業務再開したいので、そのリスクを業界に取らせてくれ。当然我々産業界で調整相談し、協調して段階的再開案を作る。」 
• (首長)「ならば、民間経済再開委員会を作って、広く産業界と医療機関も含めて私が任命するから、再開案作成してくれ。内容が妥当ならばそれに従って実行してみよう。でも再感染したら再度閉鎖するリスクがあるから慎重に。自宅待機賛成派が安心して往訪してみる気になるような目に見えるCOVID-19対策を提案してくれれば自分が認可する」

つまり、オーランドでは、産業界が広く協調して委員会で自らの産業セクターの再開案を作成。首長が委員会案を承認・実施する際には当然に産業界の全面的賛同が得られます。故に対応が早く、各産業のオペレーション詳細が詰められている訳で、産業界の詳細がわからない役所(国・都道府県・市区町村)に任せてその仕事を非難するのではなく、産業界が自分で運命を切り開いているのです。

なお「民間経済再生委員会」は2020年5月頃に発足し、民間事業者50名が委員です。そこにはデイズニーやユニバーサルスタジオのような大手企業も居れば、教会、街の床屋や美容院、タクシーバス会社、小売店やモール、ホテル、そして空港と地元大手病院複数、大学学部(当方勤務先)も入っており、そこで医療的にも安全な復興案を話し合って自分の産業を安全に操業継続するにはどうしたらよいかを議論しています。詳細は前にNoteで書いています。(1. フロリダ州観光産業現状報告(1)6/7/2020の一番最後部分)

3.観光産業需要急復興に役立つ米国事例の研究と模倣

これについては小生のNoteで米国観光産業が如何に急復興したのかの理由をデータ引用して提示しています。日本はそれを忠実に真似た政策を実行すれば良い訳です。

復習するならば、要は2つの材料があれば、観光関連産業(外食・芸術エンターテインメント・宿泊、交通、小売り、その他観光関連産業セクター)は消費者のリベンジ消費が向かう産業として需要急拡大が起こります。

観光産業界は突如労働力不足になり、労働需給市場崩壊で時給は急騰し、低賃金で魅力に欠ける職場というイメージは短期に解消され、国が抱える問題の構造的解決(非正規女性の貧困レベル年収解消&国家デフレ環境破壊)まで何と観光関連産業が主導出来てしまうという事が起きます。では二つの材料はというと、(1)ワクチン接種率向上、と(2)個人給付金給付、(特に最後のダメ出し分)、です。

但し、「政府が悪い」という認識については、これは政府が悪いのではなく、他人任せにして政府や他人の批判ばかりしている観光産業界の皆様にも責任があるのではと言う観点は、日米比較をして頂くと気付かれると思います。苦い意見ですみません。良薬は口に苦しです。

では他人任せではなく、自分で、民間主導で観光産業復興戦略、具体的なロードマップを作りましょうというのが今回のしめです。

4. 観光産業復興戦略のロードマップを民間主導で作成(しましょう)

COVID-19を抑制共存していく世界の経済復興には国民のワクチン接種率向上が鍵です。明るい事例を見たければ、昨日デンマークから出てきた国家戦略が役立ちます。ワクチン接種率向上すれば出口はあるのだというメッセージです。

「デンマーク、国民のワクチン接種率80%達成を期に、全てのCOVID-19関連制限を撤廃」 2021年9月10日記事

アクションの指標となるのが日本国内のワクチン接種率です。基本的に完了した人とカウントするには2回接種が必要なワクチンは2回接種済者を完了と見做します。で、それに呼応する具体的アクションは日本国内客とインバウンド客に分けた方が良いでしょう。

またCOVID-19関連の最重要指標を一日あたり感染者数で一喜一憂する現状から、G7を中心とする先進国と合わせて一日あたり死亡者数(前7日間データで一日平均値を計算して、週次の変動を消す)にすると、政府や皆様の政策選択肢の幅がぐっと増えます。あとはロードマップ試案を作りましたので、ぜひ民間観光産業の皆様が自分の運命は自分で切り開くという精神でこういう案を作られたら、日本の観光産業復興は皆様の想像よりも早くなります。

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これ一カ月前から試案作成していたのですが、デンマークが80%を選んで国内全ての行動や経済制限撤廃したのは嬉しい話でした。

日本国内観光需要を復興させようという話は自然に日本国内で出ると思いますが、インバウンド客について産業界からの声が無かったり無策だとインバウンド客復興議論が後回しになり、せっかく日本の「安心安全清潔に卓越」した世界でのイメージを戦略的に外貨獲得・地方創生・経済復興に使える機会が放置させるのはあまりに残念なので、きちんと復興戦略ロードマップに明記すべきです。

「外人はまたCOVID-19持ってくるから嫌だ」というレベルの意見には今から「いえ、ワクチン接種済外国人は未接種の日本人より安全です」というような株主総会想定問答集のような物をつくり、各地のDMOが即座に地ならしをしておくべき内容です。

この試案を見た方が「原さん、これ総裁選とか総選挙で選挙公約に使ってもらえそうですね」と言われました。確かにこれと類似の「観光産業復興ロードマップ」を民間観光産業界主導で作成し、候補者にこれを公約にしてもらうという手はあります。政治家や役所の方々は他の仕事で忙しいので、こういうの作ってくれというおねだりはダメです。役所や担当の方々が残業して作った物を批判するという日本の悪しき慣習は止めて、民間業界の方々が自分で案作って持っていく事で自分の運命を自分でデザインし、早期復興の当事者になる心持ちが大切です。

(実は既にオーランドでは地元ホテル協会がそうして観光宿泊業界の政治力増加のために、観光産業に理解のある候補者を選挙前に推薦しています。大きな献金は出来なくても、「産業従事者数多い=有権者が多い」という点を逆手にとって、観光立地オーランドでは選挙前はホテル業界の政治力が上がるのです。)

それでは、Good Luck!

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2021年9月4日、オーランドから車で1時間少々のフロリダ州東海岸New Symerna Beach のレストランにて。外食産業の復興の様子を実査に行った時に撮影。



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tadhara
大変恐縮でございます。拙文、宜しくご笑納頂ければ幸甚です。原 忠之(はらただゆき)