教授インタビュー企画vol.3〜筑波大学 生命環境系 八木勇治先生〜
地震学と芸術の出会い
…今年の芸術祭のテーマは『爆゛』。
様々な学問分野に爆散的に関与する芸術の様相を捉えるべく、広報企画の一環として芸術専門学群以外の学問分野の教授に、普段の先生の研究や芸術に対するイメージなどを聞いてきました!
筑波大学 生命環境系
八木勇治先生
今回伺ったのはサイエンスビジュアリゼーションの授業を担当されている、生命環境系の八木先生。サイエンスビジュアリゼーションとは、主に自然科学系の分野の情報をわかりやすく視覚情報化することを学ぶ、芸専の学生を中心に受講されている筑波大学の授業です。いわゆる理系科目の分野と芸術分野の接点となるような授業があるのは筑波大学ならではですよね。
生命環境系の中でも主に地震について研究されているという八木先生、今回どんなお話を聞けるのでしょうか。
―本日はよろしくお願いします。
早速ですが、普段はどのような研究をされているのですか。
「私は基本的に地震という現象に興味を持っています。地震の準備期間というのは下手をすると1000年とか、100年とか、すごく長いんです。そのような長い期間ですごい準備をかけて地下に溜まったエネルギーがですね、1秒とか1分とか、すごく短い時間で解放されるということに興味を持って研究しています。地球って複雑じゃないですか。複雑なのになんでこんなに大きな地震が起こるのか。地震とはどういう現象なのかっていうのを詳しく理解したい。理解すると心理的に怖くなくなりますし。地震というのは存在するけど、昔の人はもっと怖かったはずですよね。今はもうちょっと理解できているから我々の怖さは軽減されたと思うんですね。とはいえ、大きな地震の直後に何が起こったのかわからないというような時にちゃんとわかって、今後どういうことが起こるのか予測できるようなふうにしないといけないと思っています。私は地震という現象にすごく興味を持って研究をやっているんですが、災害現象としての地震を理解することで結果的に社会に貢献できればという風に考えています。」
ー地震を現象として理解するとおっしゃいましたが、現時点でわからないことが多いということなんですか?
「そうですね、結構わからないことが多いですね。地震直後だとどの断層が動いたのかということすらわからないわけですね。2007年の地震を解析すると、当時言われていたこととは全く違うことがわかったりしています。地震とは複雑でいろいろなことが影響しあっている現象で結構わからないことだらけなのに、わかったように説明されることが多いんですね。本当にそれわかっているのか、と私は思う質で。」
ー地理とかの教科書に載ってる図を鵜呑みにしてました。
「ちょっと描いてみようか。」
「たとえば地震で海洋プレートが沈み込んで、歪みが生じた大陸プレートが跳ね返るっていう言うけどさ、そんな現象ほんとは起こるわけないんだよね。」
ーそうなんですか!?
「だって考えてみて、断層のずれっていうのはさ、両方ずれるんだよ。まぁあれは教科書がわかりやすく描いてることに罪があるんだけどね。当たり前だけど、一方のプレートだけじゃなくてもう一方のプレートにも明らかに歪みが溜まるよね。僕も地学の教科書書いてるからあまり言えないんだけどさ(笑)。片方だけがパッと跳ね上がるっていうのは明らかに間違ってるんだよね。しかもプレート境界と言われるところ以外にも歪みは生まれるわけじゃない。それを単純化して物事を理解し、説明しようというふうにすると、将来の本当にヤバい現象みたいなことで起きる現象を見逃しちゃうわけで。地震がこういう現象だって思い込んじゃうと、本当に理解せずに見誤ることにつながるわけですよね。で、最近我々は自信がブーメランみたいに起こるってことがわかってきたんだけど、断層のずれにどんどん広がっていくのが、広がった後にグッと戻ってくるようなそういう地震も起こっているようなことがわかっているんだよね。これは地球が複雑であるからなんだろうけど、多くの研究は地球が複雑であることを受け入れていなかった。オッカムの剃刀って言うんだけど、単純化した、より少ないもので現象が説明できれば正しいみたいなことなんだけど、それって本当なのかなって。友人関係とか人の性格もそうだけど、タイプ分けしてカテゴライズするのは楽なんだけど、そう言うことをするが故に本質的なものが見えなくなっちゃう可能性がある。そういうことがよく地震学の世界にもある。それはあまりよろしくないと僕は思ってたので、複雑な地震現象を複雑なまま解析できるような研究をしていますね。」
―先生が担当されているサイエンスビジュアリゼーションの授業は筑波大学の中でも珍しい、理系の領域と芸術の接点だと思うのですが、どのような授業なのですか。
「サイエンスビジュアリゼーションの授業ではテーマなどを決めて絵を描くというようなことになるんだけど、基本的に、科学も所詮人が織りなす人間活動なんで、その人間活動っていうからにはやっぱり感動みたいなものがいる。どんな素晴らしい理論や結果を持っていても、わかりづらかったり、うまく表現できてなかったりすると、人の心を動かさない。特に新たな視点で整理されていて綺麗だというのは科学では非常に重要なんだよね。で、そういうのって芸術の世界が結構強いのかなというふうに僕は思っています。全く新たな視点を持ち込んで整理しているよなところで評価されている芸術作品があるっていうふうに僕は認識してるんだけど、科学の結果も一つのピクチャーみたいなところがあって、人の心を動かすわけじゃない。だから、科学者っていうのは色づかいなどの芸術の知識を理解した上で、結果の見せ方を工夫してコンテンツにしていくということはすごい重要になってきてるんだと思います。」
ーサイエンスビジュアリゼーションの授業では芸専の学生にどんな印象を持ちましたか。
「面白い学生が多いなとは思いますね。サイエンスビジュアリゼーションでどんな絵を描こうかと議論するんだけど、やっぱり明らかに変わってるよね(笑)。なんて言ったらいいのかな、私は普段、いわゆる理系の学生に接点を持ってるわけなんだけど、芸専の学生はちょっと発想が違うんだよね。たとえば私たちは時々直感に基づいて式を書くことがあるんですよね。こういうふうなものはこういう式だろうと。多分こんな答えになるからこういう式を書こうということがたまにあるんだけど、基本的には地道に解いていくわけじゃないですか。人との会話も基本的に、ひらめきで話題が飛ばないように、飛ばさないようにするんだけど。芸専の人ってちょっと違って、時々変な方向に飛ぶんだよね。そこの過程はわからないんだけど、すごい意外な新しい地点に立てる。そういう"飛び"の可能性を持っているのは芸専の学生のすごくいいところだと思って接しています。」
「だから思うんだけど、芸術系の学生って多分もっと社会で活躍できる素地があって、芸術の分野だけではなく他の分野でそういう特性を強みとして生かせるとおもているから、それは誇っていいんじゃないのかなと思っています。それはなかなか
普通には手に入らないものだからね。」
ーありがとうございます……!
ー重なってしまうところもあると思うのですが、先生の芸術に対するイメージをお聞きしたいです。
「個人的には、小学生の時おじいちゃんに作家の全集みたいなものを見せてもらって綺麗だなと思っていて。だから芸術と言われると絵が最も強いイメージを占めているんですけど。僕の中で一番の芸術のイメージっていうのはやっぱり人の心を感動させることができるわけじゃないですか。それは音楽とか演劇なども含めてだけど。論理じゃないところで人の行動様式を変えうるという存在なのかなと思っています。論理的に説明するのとは全く違うツールだよね。僕は科学もものすごく重要なツールだと思ってるけど、一方で芸術も特別なツールだと思っています。科学の方がすごいってわけでもなくて。ロジカルな科学と、そうでなくても人の認識を変えさせるような芸術がどちらも重要なツールとしてあると思っています。
科学の僕にはできないことだから。」
ー今後先生が筑波大学でやってみたいことなどはありますか?
「たとえば、今複雑な現象を複雑なまま表現しようとしてるわけだけど、どうすればわかりやすく、見た目が綺麗に伝えられるかっていうことはなかなか難しい。頑張ってはいるんだけど、複雑な現象をどういうふうに表現するかっていうことは今後考えていきたいなと思っていて、そういうふうな表現をするときに芸術の方と話をしたりして新しいヒントを得ていきたいとは思ってますね。
筑波大学だからこそそういう交流ができるわけだから、そういうの利用してより良い表現ができたらなと思います。」
ー最後に、筑波大生にメッセージをお願いします。
「筑波ってやっぱり、体専や芸専がいて、多様な学生が集まってるよね。だからそういう自分と違う人と触れ合うってことを楽しんでほしいなというふうに思っていて。自分と違うものっていうのは、正直めんどくさいこともある。考えるとか、理解するってことはちょっとめんどくさくて、同じようなものに囲まれていたら幸せに感じちゃうんだけど、それだとどんどん偏ってしまう。そういうふうにして分断みたいなことが今の世の中起きつつあるよね。今のSNSが発達した今はどんどんいろんな人と繋がることができているように見えて、実際は全く別のインセンティブが働いていて自分が知りたい情報、自分が所属したいコミュニティーに囲まれる安心感ってどうしても強いから、そういうコミュニティーができることで分断が進んだりするんだけど、大学ってそうではなくて。違う人たちと出会えていろんなことができるっていうのは大学のすごいいいところだから。筑波大学っていう多様性の高いところにいるからには、大変なことだと思うけど、いろんな学類の人と出会ってね、そういうふうにしてほしいなって思ってます。」
地震についてのお話から芸専の学生に関するお話まで。
体芸エリアでは聞くことのできない、科学分野の先生の視点から芸術に対するイメージを聞ける機会は本当に貴重だと思います。
論理的な科学にはない構造の回路でモノを考える芸術系の人々がもっとさまざまな分野に進出して、分野の垣根を越えて面白いことが生まれたらいいですよね。
その第1歩が、芸専や様々な学類の学生が交わるこの筑波大学で生じたらもっとおもしろい!
芸術から、芸術以外の分野に爆発していく。
型にハマらない芸術祭の姿お届けできたでしょうか。
教授インタビューはまだまだ続きます!
お楽しみに。