安全衛生マガジン2月号
.【日々安全】
【墜落災害事例 「吹き抜けで金具を取付中」】
発生概要
吹き抜けの屋上部分に渡り廊下用の鉄骨桁を架ける前の段階で、
作業員が作業床にしゃがみ、桁を載せて支持する金具を、壁のボルトに
ナットで固定する作業をしている時に、17メートル下の3階床まで墜落し
脳挫傷により死亡した。
なぜこのようなことになったのでしょうか。
予想される危険としては
後ろにひっくり返り墜落する。
足場が動いて墜落する。
足場板を支持しているパイプが下がり、墜落する。
が考えられます。
詳細な発生状況分析
「吹き抜けには、3階床から足場が組まれており、最上部には、作業床が
3枚、それぞれ51cm位の隙間がある状態で架けてあった。 作業者は
幅25cmの作業床にしゃがんで、桁を載せて支持する金具を、壁のボルトに
ナットで固定する作業をしていたが、バランスを崩して後ろにひっくり返り、
作業床と作業床の隙間から墜落した。」
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高さが17mの箇所で作業をするときに、幅25cmの作業床を架け渡して
いたが、51cmの隙間があり、開口部となっていたのですから、極めて危険な
状態です。
ここでの作業に際しては、作業床の隙間がなくなるように、作業床を全面的に
敷き並べるか、法規で規定しているように、隙間は3cm以下にするべきでした。
また、それらが困難な場合でも最低でも墜落制止用器具(安全帯)を使用する
ことが必要でした。
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労働災害における墜落、転落災害は、全災害の30%以上を占めています。
また、建設業だけでなく、製造業、サービス業等の第三次産業でも大きな比率を
占めています。
1. そもそも「高所作業をしなくてもよい方法はないか?」
(危険・有害要因の排除)
2. それができないならば、徹底的に設備の安全対策を講じる。
(工学的対策)
3. 法令遵守の徹底と高所作業時のルール明確化及びその遵守の徹底
(管理的対策)
4. 上記がすべて排除できないなら、最後に墜落制止器具等の保護具の着用の徹底
(有効な保護具着用)
以上の優先順位で作業の徹底を図ることがすべての労働災害防止に必要です。
以上
2.【日々健康】
【高年齢労働者の安全と健康確保対策】
我が国の健康寿命は世界最高水準となり、今後さらなる延伸が期待される人生100年時代を
迎え、高齢者から若者まですべての人が元気に活躍でき、安心して暮らせる社会づくりが
求められています。総務省の労働力調査によれば、60歳以上の雇用者数は過去10年間で、
1.5倍に増加しており、我が国では、高齢者が働くことは特別なことではなく、年齢に
かかわりなく働く社会へ向かいつつあります。
こうした中で、労働災害による休業4日以上の死傷病者のうち、60歳以上の労働者の占める
割合は増加傾向にあり、令和4年には、休業4日以上の死傷病者の28.7%が60歳以上という
ことになっています。
高齢者の身体機能は、近年向上しているとはいえ、壮年者に比べて聴力、視力、平衡感覚、筋力等の
低下が見られ、高齢者の労働災害を防止するためには、その特性に応じた的確な対応が必要です。
一方、厚生労働省の発表(令和3年「労働安全衛生調査」)によると、高齢者の労働災害防止対策に
何らか取り組んでいる事業者の割合は78%であり、取り組み内容(複数回答)別にみると、「本人の
身体機能、体力等に応じ、従事する業務、就業場所等を変更」が41.4%、「作業前に体調不良等の異常が
ないかを確認」が36.1%となっています。
【高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン】
厚生労働省は令和2年3月16日に「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」を
公表しました。
【事業者に求められる取り組み】
具体的な取り組み
安全衛生管理体制の確立
職場環境の改善
高年齢労働者の健康や体力の状況の把握
高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応
安全衛生教育
【労働者に求められる取り組み】
具体的な取り組み
健康診断等による健康や体力の状況の客観的な把握と維持管理
日常的な運動、食習慣の改善等による体力の維持と生活習慣の改善
以下略
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高年齢者にとどまらず、ハンディキャップを持つ労働者、妊産婦、
外国人労働者に対する適切な対応は、ひいては健常者の労働者に
とっても快適な職場となります。
可能なことから、順次対策を進めましょう。
3.【日々生活】
【「強い現場」をつくる七つ道具】
強い現場は一朝一夕にはつくりえません。現場力は、様々な要素が複雑に絡み合う
「連立方程式」のようなものです。どれか一つの要素だけをいじっても、それだけでは
効果は限定的です。
「強い現場」を構成する要素を構造的に理解した上で、それぞれの磨き上げていかな
ければなりません。
ここでは、「強い現場」を構成する要素を七つ道具として解説します。
「すべてはお客様のために」という基本理念のため「圧倒的な業務効率性の実現に
よるコスト優位性」と「新たな顧客価値の創出」を同時に実現することが、オペレーショナル・
エクセレンスの目標です。その目標の実現のためには「七つの条件」をクリアしなければ
なりません。その際に必要なのが次に述べる七つ道具なのです。(図1)
図1 「強い現場」をつくる七つ道具
業務連鎖
オペレーションの基本である「仕事の流れ」、すなわち業務プロセスが整流化されて
いなければなりません。どういう手順で仕事が流れ、その中で誰がどのような役割・
責任を負うのか、業務を遂行する上でのルールは何かなど明文化され、共有化され
なければなりません。
人
業務連鎖を設計しても、それを実行するのは「人」です。業務のオートメーション化でも
できない限り、仕事が自動的につながることはありえず、それをつなげているのはあくまで
も人です。実際の運営を通じて、問題点を発見し、改善していくことのできる人材育成、
「人づくり」こそが業務連鎖を進化させていくポイントです。
場
属人的な業務上の問題点であれば、自ら改善することはできます。しかし、部門をまたがる
ような問題点は、関係者がその問題点を共有し、解決のための知恵を絞る「場」がなければ、
なかなか解決が進展しません。 職場ごとの朝礼や全社的な業務改革会議など、取り組む
テーマの大きさに応じて継続的にPDCAを回す場を用意することが肝要です。組織
命令・指揮系統、責任・権限が不明確な組織のもとでは、スムーズな業務運営はできません。
可能な限り組織の階層を少なくし、フラットでシンプルな組織にすることで、スピード感が高まり、
現場の自主性が増していきます。業績評価
それぞれの部署・個人のパフォーマンスなどのような評価指標(ものさし)で評価するのか
についても留意が必要です。ものさしの設定が適切でないと、自部門や自己の成績だけを
上げることだけに奔走し、全体最適の視点が欠けてしまいます。組織の全体目標と整合性
のとれたものさしでなければなりません。情報技術(IT)
オペレーショナル・エクセレンスの追求において、情報技術はあくまでもツールです。
しかし、組織間の壁を乗り越えて迅速な業務運営を行ったり、組織学習をより加速する上で、
きわめてパワフルなツールであることも事実です。情報技術の持つ可能性と限界を見極めた
上で、現場からの視点で効果的に活用する必要があります。基本哲学
現場力で競争上の優位性を確立しようとする「経営の意志」が、基本思想、哲学として組織に
根付いていなければなりません。こうした基本思想、意志を組織の隅々まで徹底することに
よって、「自分たちが経営を支えている」という信念が現場に生まれ、粘り強さ、継続性が
確保されるのです。
図2 「オペレーショナル・エクセレンス追求の全体像」
「現場力を鍛える」 遠藤 功著 東洋経済新聞社刊 より抜粋編集
現場力を強くすることこそが、製造業だけでなく建設業、サービス業、
あらゆる業態含め、日本復活の礎ではないでしょうか。私はそう信じています。