コリン・ウィルソン『超越意識の探求―自己実現のための意識獲得法』学研

コリン・ウィルソン(以下、CW)は、『アウトサイダー』において19世紀のロマン主義のアーティストを取り上げ、彼らの多くが超越意識というべき至福のヴィジョンを体験し、世界に対する全面肯定を行いながらも、その意識を維持することができず、あの至福は幻想で、人生は無意味であるとして、高い確率で自殺や悲惨な最期を遂げていることを問題視した。
 CWによると、現代の実存主義は、「ロマン主義マークII」であり、その出発点は人間は自由であるという認識であったにも関わらず、人生は不条理であるというペシミズムに蝕まれていたと判断される。これに代わって、CWが打ちたてようとしているのは「ロマン主義マークIII」としてのポジティヴで、オプティミステックな新実存主義である。
 CWは『心理学の新しい道(邦題:至高体験)』において、心理学者エイプラハム・マズローに接近、その自己実現の心理学を評価したが、「絶頂体験(PE)」を自らの意志で引き起こすことに懐疑的なマズローを批判し、自らの意志でPEに至る道を探求しようとする。
 CWの転換点となったのは「オカルト・サイクル」と呼ばれる一連の著作である。ここで、CWは百科全書的な膨大なデータをもとに、人間の未知の能力の存在可能性を探求し、合理主義では捉えきれない人間存在の全容に自由の領域を見出そうとした。
 本書は、そうしたCWの総決算であり、いかにして「強化意識」を獲得できるかという実践的マニュアルとなっている。そこで言及されるものは、分割脳の話(人間の左脳は科学者であるが、右脳は芸術家である!)であり、人間は日常生活を円滑にすすめるためにロボットのような人格を作り出しているが、それは真の自己と現実の間に溝を作ることに繋がり、時として生きることの歓びを見失わせることが説かれる。これに対抗して、CWが打ち出すのは、ニヒリズムが主調低音を成している現代思想の批判であり、性的神秘主義と想像力の復権であり、機械的に進行してゆく日常意識に楔を打ち込む意識的行為であり、梵我一如の瞑想……である。
 CWは7段階の意識のレベル論を展開し、深い睡眠状態から、通常の意識状態、そして至高体験を経て、X機能の発現に至る意識のスペクトルを描いてみせる。生命エネルギーが枯渇すると、通常の意識状態は、すべては無意味で不条理という意識状態に陥る。だが、逆に生命主義を基底に、調和的で創造的な成長を遂げ、高次の意識状態に至ることもできるというのである。
 私はCWの生命主義を評価すると同時に、その思想に社会的パースペクティヴが欠けていることに満足できないものを感じる。ロボット的隷属状態から脱出し、意識の拡大によって、生き生きとした自己を回復した後で、真の意味で私たちは世界を救うことができるはずである。ロボット的人格のもたらす革命は、テロルと専制の恐怖しかもたらさないが、生命の喜悦を解放した人間は、世界に真実の愛と自由をもたらすことができるからである。

初出 mixiレビュー 2007年11月20日 01:32

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TADAO HARADA
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