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“思い立った日が吉日”とは限らない。
私は普段、思春期女子達を子育てをしながら、フリーランスのデザイナーとして仕事をしている。デザイナーとして、まだまだ「スキル」という厳しい上り坂を駆け上がらねばならない立場なので、思春期女子との戦闘の合間をぬって、日々なんとか学びに喰らいついている状態である。
また、それとは別に、私は「ひろしまクリエイターズギルド」(略して「ひろクリギルド」)の運営メンバーとして、クリエイターの「脱」孤独、「脱」不安、そして業界の質向上のため、自分たちにできることはないかを日々考えながら企画運営に奔走している。
そんなある日のこと。
ひろクリギルドメンバーが利用する連絡ツール「Slack」を、より気軽に使ってもらえたら、という下心もありつつ『#宣言の部屋』で、何気なく「今月の自分」について宣言してみた。
2024年9月、私は自分と向き合ってみます。
詳しくはこんな感じ。
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言ったからにはやらねば!
ということで、数日ではあったがノートに向かって「自分の理想形」について考えてみた。
家庭での理想形はすぐにイメージができた。
家族みんなが健康かつ笑顔で、各々が目標にしている夢を金銭不足のために断念させることのないだけの財力を確保できていること。
よし。次に仕事での理想形を考えた。
考えて、考えて、、、、・・考えた。
数日かけて一生懸命、考えた。
突如襲ってきたスランプ
結局、脳みそを絞りまくって自分と向き合って考えてみたが、なんてことだ。頭にモヤがかかって思考能力が停止したみたいに、仕事の理想形がまるで思い浮かばなかった。
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「え?今まで目を輝かせながらデザインの勉強に取り組み、案件に取り組んできたのに・・? ここにきて目標が見えなくなった…?」
想像してみてほしい、今まで普通にあったものが気がつけば急になくなっているという焦りを。
その時の私は、ジジの声がただ猫の鳴き声にしか聞こえなくなってしまったキキと同じくらいの焦りを感じ、失望していた。
そしてその日を境に、案件でデザインの方向性を考える速度が目に見えて遅くなったし、何者にもなりきれていない自分を恥じる悪夢を見るようになった。仕事への意欲も湧かなくなり、お客様に納期を長めにとってもらって、秋に向かっていく空を眺めたり、ベッドに転がってぼんやり過ごすことも多くなった。
ゆるやかな死
かつて𝕏で、デザイナーのモンブランさんが『ゆるやかな死』と題して書かれたポストが強烈に頭に残っている。
アダルト業界のグラフィックデザイナーとして働いていた頃、⁰あるデザイナーの「ゆるやかな死」を見たことがある。
— モンブラン|Designer × VTuber (@MontBlanc04) March 6, 2023
ここでいう「ゆるやかな死」というのは、「アウトプットの決定的な低下」のこと。… pic.twitter.com/xgccbgFNBa
久しぶりにモンブランさんのポストを読み返してみた。そして、もしかしたら、私もデザイナーとしてのゆるやかな死に向かっているのかも知らん、と思った。確かに、あの失望事件以来「すごく良い成果物を作ってやろう」とか「もっともっと自分のキャパを越える世界を見たい!!」っていう気持ちが薄らいでいっているのがわかったからだ。
ちょっと気を抜くと「テンプレでなんとかしようかなー…」とか「出来上がってるデザインをもとに展開すれば楽かも知れない…」という気持ちが湧いては、情けない気持ちに襲われた。
リハビリ
「やる気が出ない自分」という現実。
やる気が出ない分、それについて考えるのも超面倒だったが、付き合っていかねばならないと腹を括った。
やる気のなさはある意味「病気みたいなもの」と捉え、
とりあえず… 0からデザインの勉強を・・・
とはいかず、近所のトレーニングジムに入会してみた。
朝昼夜、いつでも思いついた時にジムに行って、トレーニングしたり、ダンスの練習をしたり、ジャグジー風呂やサウナを堪能した。時々電話をくれるひろクリギルド代表マスべさんが「やんこさん、またジムですかぁ?!」って笑うくらい、とにかくがむしゃらに汗を流した。それで答えが見えてくるなら儲け物だ、くらいの気持ちで体を動かしまくった。
ゆるやかな再生
気がつけばトレーニングジムに通い始めて1ヶ月が経った。空いているスタジオでダンスの練習をすれば おばあちゃんファンがたかるし、洗面スペースでは体の不具合についておばあちゃんたちと会話が弾むようになった。
(日中のトレーニングジムは老人の会員人口が99%なのだ)
そして、ぼちぼちではあるが、ジムの帰り道に「早くデザインしたいな〜」という気持ちが芽生えるようにもなってきた。
仕事が手につくようになり、自己肯定感も時々取り戻せて、清々しい気持ちを感じることも増えてきた。
やっぱ、デザインに打ち込むって楽しい…!!!
スランプの原因
今、考えると、デザイン業界に入って7年以上、座りっぱなしで画面に向かいっぱなしだったことが私の人間らしさをむしばんでいたのかも知れない。
脳みそをフル活用する仕事だからこそ、脳だけではなく、体も動かさないといけないし、画面ばかり見る仕事だからこそ、自然や風景を眺めなきゃいけなかったのかも知れない。
(いや、嘘かも?…ただの堕落癖なのかも知れないがw)
でも、今回のスランプの一番の原因。
それはやはり、軽々しく『自分と向き合う』宣言をしてしまったことかも知れない。時期が悪かったのかも。(宣言に時期ってあるんだね。)
〜 思い立った日が吉日。人は、思い立った日に 自己を見つめ直し、開拓し、成功への階段を駆け上がっていく 〜
そのイメージは決して間違ってはいないだろうし、それで成功する人も多くいるだろう。が、思春期絶頂の娘を抱え、日々精神的にビリビリしながら「今この瞬間」を綱渡りしているような人間は、ずっしり地に足つけて毎日をこなすべきだったのかもしれない。
スランプのその先
ということで、真剣に自分と向き合うのはもうしばらくはお預けにして、私は今をただ生きることに専念すると決めた。
そして、今回のスランプを振り返り、全国の悩めるパパママに伝えたい。
妊娠出産渦中とか、思春期などの爆弾を抱えてる、親の介護・施設入居問題に直面しているなどの慌ただしいパパママは、今、目の前の生活をこなしているだけで100点満点。そこに「自分とは」とか「未来の自分は」なんて無理に考えなくていい。自分の理想を追い求める必要なんてない。
とにかく今は無理をせず、英気を養いながら、自分なりの日々を乗り越えていってほしい。