痛みの尺度
子どもの頃に、疲れたと言う母に向かって、疲れは自分以外の人には強さがわからない、ようなことを言ってこっ酷く怒られたことがあった。
そういうのを、思いやりがない、と言うらしい。
母は自称我慢強いので疲れや痛みの尺度は「私が愚痴を言うくらいだから相当」なのである。
そして痛みに弱い父や私などに対しては「大袈裟だ」と冷ややかだ。
思いやりがないのはどっちだ!?という話である。
そんな母のせいにするつもりじゃないが、私には自分の抱える痛みや苦痛の程度というのがよく分からない。
二十年近く前のこと。
庭に植えて大きく育ち過ぎたゴールドクレストを切っていると、引き換え線を張ったにも関わらず自分の方向に倒れ込んできた。
慌てて脚立のほんの二、三段から後ろ向きに飛び降りたら、右脚の脹脛の辺りに強い衝撃があった。
バキッというような音がしたので、倒れてきた木が当たったと思った。
脚が動かせたので折れてはいないと思った。
脂汗が滴る痛みのなか、這ってどうにか家に上がり、病院に行かなくてはとシャワーをした。
当然立てないので壁で身体を支えた座位である。
そのうち気が遠くなってきて、しばらくタイルの床に横たわっていた。
普通、この時点で救急車を呼ぶまではしなくても、市内に勤める夫にでも連絡するだろう。
しかし自分は、脚を打ったぐらいに思っているのである。
私は大袈裟だから…
どうにか浴室から部屋に移動して着替えようとして、また気分が悪くなってきたのでしばらく休んでいた。
それから夫に連絡するのだけれど、ちょっと脚を打ったから病院に行ってくるとしか言わないのである。
タクシーを呼びもせず車を運転して整形外科を受診すると、はたしてヒラメ筋断裂だった。
よくひとりで来れましたね…と医師や看護師は呆れ顔だった。
※ヘッダー画像は ソエジマケイタ(キャラナカテン写真・似顔絵)さんよりお借りしています。
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