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カウントダウン⑥ 猫が脱走する

猫がうちにやってきて一週間が過ぎた。
地方紙の里親募集コーナーに掲載されていたのを「くるみに似た猫がいる」と夫が私に見せたのが運のつき…

いわゆる保護猫ではなく、言うなれば猫の子をあげるように貰ったものである。

なんでも、飼い猫に紐をつけて庭に出していたところ、子どもを連れた野良猫がやってきて庭に居着いてしまったので家に上げて面倒を見ていたという。

六畳の和室を猫たちの部屋にして、ヒトの居住空間とは分けていたようだ。
ぜんぶ飼うわけにいかないので新聞広告の里親募集に出して、一匹は県西部まで三時間かけて連れて行ったそうである。

譲り主はとても穏やかで優しい猫好きの高齢男性だった。

しかし猫はすでに生後五ヶ月、その間別空間で暮らしていて人に慣れていない。
餌付き屋根付き人間抜きの野良猫なのである。

そんなだから一週間経っても私の顔を見てシャア!という。

背に腹は変えられないのか、手のひらから餌を食べるようにはなった。
そのタイミングで頭や喉を撫でてやると多少はじっとしているが、急に立ち上がったりしようものならフーッと耳を寝かせてヤマアラシみたいに毛を逆立てて怒る怒る。
あんまり気が小さいので名前はビビリ屋のビビにした。

慣れてきたので今朝は調子に乗って身体を触ろうとしたら、くるんとそっくりかえって、闇雲にジタバタした前足か後ろ足の爪が私の小鼻を引っ掻いて出血した。

おまえ、やりやがったな、タダじゃ済まねえぞ?
タダノだけにタダの脅しですが。

その後外出して戻ると猫の姿がない。
注意していたつもりだが隙を見て逃げ出したらしい。

外に出たら最後、絶対捕まらないだろう。懐いている飼い猫だって、外で出会うと何故かツンツンと他人の顔をして逃げてしまうのだ。

猫がいなくなって寂しいとか悲しいより、ちぇnoteに書かなきゃよかった、面目ねえったらないじゃないの!という気持ちがまさった。
身勝手な冷たい女である。

インターネットで調べると、猫が外に出てしまったら警察や動物愛護団体に通報して、近所に迷い猫の張り紙を貼りプロの猫の捕獲業者に依頼して、決して諦めないのが飼い主の義務らしい。
ハードル高過ぎて驚いた。

猫は飼い主と別れたくて逃げて帰らないと決めた、その気持ちを尊重してやればいいのではないか?
なんてことは思っても口にできないな(笑)

猫の気持ちは分からんが、本人の意思とは無関係に好奇心で外に出たわいいが、家の中とのあまりの環境の変化に対応できずパニックになり、闇雲に走りまわり帰り道がわからなくなった…ということはありそうだ。

野生の勘なんて、生まれた時から人間に保護されていたら育ちようもないだろうし。

絶望的な気分で昼に帰った夫に報告した。
己の注意力の無さに苛まれていると、夫は
「縁がなかったんだよ、あの猫はあんなに大きくなるまで人に接してなかったのだから所詮無理だったんだ」
と慰めてくれた。
ちょっとじんとした。

ところがである。
午後から外出するために、さっき探したはずの部屋にコートを取りに入ると、猛スピードで走り抜ける彼奴と目が合った。
なんだいたのか!
呼ばれたら返事くらいしろよ。
このビビリ猫が。

振り出しに戻る。

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