ハムラビ法典・和訳
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§1 (Col. V)
ある人が呪咀を立て他人を告発しその罪を証明することが出来ぬ場合には死刑に処されるべし。
§2 (Col. V)
魔術をもちいたことを揭げて他人を告発した者がその罪を証明することが出来なければ、被吿は聖河に飛込むことを要し、しかしてもし彼が溺れた場合には、告発人は被吿の住宅を獲得すべし。
もし被吿が溺れなければ彼の無罪を意味するものであつて、此場合には告発人は死刑に処されるべし。しかして被吿は告発人の住宅を獲得することが出来る。
§3 (Col. V)
事件の審理中に虛僞の證據を立てまたは彼の成した陳述を確實にせざる者は、もしその事件が生命に關するものであればその者は死刑に処されるべし。
§4 (Col. V)
穀物または金錢を收賄して不正の證據を立てた者は、そのれが成に生じた損害を賠償しなければならぬ。
§5 (Col. V)
法官が評決を與へ、決定を成し、記錄したる判決を下し、しかしてその後に至りその判決を變更したる場合は、その法官は彼の成した判決の變更に付て問責され、且つその判決に下された罰金の十二倍をしはらふべし。更に彼は法官の席から公に放逐され再び法官の席に就くこと能はざるべし。
§6 (Col. VI)
寺院または宮殿から財物を盗取したる者は死刑に処されるべし。盗人から盗品を取得したる者も死刑に処されるべし。
§7 (Col. VI)
少年または奴隷から、金、銀、男または女の奴隷、牛、羊、ロバ、その他の物を、少年保護者または奴隷主の承諾無しに買得しまたは寄託を受けた者は、盗賊として死刑に処されるべし。
§8 (Col. VI)
寺院または宮殿から牛、羊、ロバ、豚、または船を盗取した者は三十倍を賠償すべし。尤も平民から盗取した場合には十倍を賠償すべし。その盗賊がしはらふことが出来なければ死刑に処されるべし。
§9 (Col. VI-VII)
物品を遺失したる者が他人の占有中においてその遺失物を発見した場合に、遺失物の占有者が證據を揭げて買得したものであると主張し、遺失物の所有者もその所有に係ることを立証すれば、その等の證據は裁判官において判斷すべし。買得したりと云ふ買主の證據と、遺失したりと云ふ所有者の證據とは共に神前において宣誓されなければならぬ。遺失物の賣主は盗賊として死刑に処されれ、所有者はその遺失物を囘復し、買主は先きにしはらつた代價を賣主の財產から賠償さるべし。
§10 (Col. VII)
買主が遺失物の賣主を示さず、且つ買得の證據を揭げざる場合に、遺失物の所有者が自己の遺失物と同一なることを立証するときは、買主は盗賊として死刑に処されれ、遺失物の所有者はその遺失を囘復すべし。
§11 (Col. VII-VIII)
遺失物の所有者が遺失物と同一なることの證據を揭げざるときは、虛僞を主張し誣吿を用ふる者として死刑に処されるべし。
§12 (Col. VIII)
賣主が死亡したる場合には、買主は賣主の財產からその事件の損害の五倍を賠償さるべし。
§13 (Col. VIII)
法官は證據を有せざる者には六け月の猶豫期間を與へ、もしその者が六け月內に證據を擧げなければ虛言者として、自らその事件の罰金をしはらふ可し。
§14 (Col. VIII)
他人の子供を盗取した者は死刑に処されるべし。
§15 (Col. VIII)
貴族または平民の男もしくは女の奴隷を市外に逃亡せしめた者は死刑に処されるべし。
§16 (Col. VIII)
ある者が貴族または平民の家から逃亡した男もしくは女の奴隷を自己の家に庇護し、且つ役人の要求に應じてこれを公役に服する奴隷としなければ、その家の所有者は死刑に処されるべし。
§17 (Col. VIII)
ある者が逃亡した男または女の奴隷を開放された原野において逮捕し、これをその所有者に返付した場合には、奴隷の所有者は彼に銀二 Shekel をしはらふべし。
§18 (Col. VIII)
もしその奴隷が彼の所有者を指名しなければ、これを宮殿に送致して奴隷の經歷を檢査して、これをその所有者に返付すべし。
§19 (Col. VIII)
奴隷を逮捕した者がこれを自己の家に隱匿し、その後、占有中の奴隷が發覺された場合には、隱匿者は死刑に処されるべし。
§20 (Col. IX)
奴隷が逮捕者の手から逃亡した場合には、その旨を奴隷の所有者に通吿すれば逮捕者は責任を免かるべし。
§21 (Col. IX)
他人の家に侵入した者はその場において殺され且つその処に葬らるべし。
§22 (Col. IX)
盗賊を働き逮捕された者は死刑に処されるべし。
§23 (Col. IX)
盗賊が逮捕されぬ場合には、盗難者は神前において盗難の事實を宣誓し、盗難の市または地區を管轄する役人が、盗難者に被害を賠償すべし。
§24 (Col. IX)
生命の被害ある場合には市または地區を管轄する役人は、被害者の相續人等に銀一 Mina をしはらふべし。
§25 (Col. IX)
他人の家に起つた火事を消しに來て、その家の財物に眼を付けこれを盗取した者は、その火中に投棄さるべし。
§26 (Col. IX-X)
國王の用務に服す可き職務を有する士官または守衞が、その職務を空しくしまたは代人をしてその職に當らしめた場合には死刑に処されれ、その代人は士官または守衞の家を取得すべし。
§27 (Col. X)
國王の用務に服した士官または守衞が、その不在中に領地及莊園を他人に取得された場合は、そのきらい後は從前の如くその領地及莊園を囘復しその職務を執行すべし。
§28 (Col. X)
士官または守衞が國王の用務に服した場合に、その子(單數)が父の職務を執り得るときは、子は父の領地及莊園を取得し、父の職務を執行すべし。
§29 (Col. X)
もしその子が幼少なるかまたは父の職務を執るに堪へざるときは、領地及莊園の三分の一をその母に與へ、母はその子を養育すべし。
§30 (Col. X-XI)
斯の士官または守衞がその領地、莊園及家屋の管理を怠り、これを荒廢せしめた場合に、他人がこれを取得して三年間管理したるときは、前者がきらいして彼の領地、莊園及家屋の管理を要求しても、後者はその管理を持續すべし。
§31 (Col. XI)
もし彼が一年間の荒廢に止り、きらいした場合には、彼は領地、莊園及家屋を與へられ、その職務を繼續すべし。
§32 (Col. XI)
國王の用務に服した士官または守衞が(敵に逮捕され)、商人から贖身されて歸鄕することを得た場合には、もしその被贖身者がその家に贖身金を拂ひ得る資力を有するときは、自らこれを支辨し、その十分なる資力を有せざるときは、彼れの公共團體の寺院金庫からこれを支辨し、もし寺院金庫にその資力が無ければ宮廷(國王または國庫?)から支辨すべし。如何なる場合にも彼の領地、莊園、家屋を以て贖身してはならぬ。
§33 (Col. XI)
官吏または公吏が賦役者(Corvie)を私用に供し、または傭入れた代人を國王の用務に付て受授した場合は、その官吏または公吏は死刑に処されるべし。
§34 (Col. XI)
官吏または公吏が士官の財產を取り、士官を掠奪し、士官を(奴隷として)賃貸し、士官を暴君の裁判に附し、または國王より得たる士官の報酬を取つた場合は死刑に処されるべし。
§35 (Col. XI-XII)
國王から與へられた羊または牛を士官から買つた者はその金を沒收さるべし。
§36 (Col. XII)
士官、守衞または納貢者の領地、莊園または家屋は如何なる場合にもこれを賣ることはならぬ。
§37 (Col. XII)
士官、守衞または納貢者の領地、莊園または家屋を買つても、その賣買は無效にしてその記錄は破棄され、その代價は沒收され、領地、莊園、または家屋はその所有者に返還さるべし。
§38 (Col. XII)
士官、守衞または納貢者はその領地、莊園または家屋を、その妻または娘に證文を以て讓渡してはならぬ。且つ負債のために讓渡してもならぬ。
§39 (Col. XII)
然し彼が買收して占有する領地、莊園または家屋は、これをその妻または娘に證文を以て讓渡してもよい。あるは彼の負債のために讓渡してもよい。
§40 (Col. XII)
彼は王室の役人またはその他國家の役人には領地、莊園または家屋を賣つてもよい。その買人は買入れた領地、莊園または家屋に附隨する公務を果たすべし。
§41 (Col. XII)
士官、守衞または納貢者の領地、莊園または家屋との交換の成にある人が與へた財產は、士官、守衞または納貢者がその領地、莊園または家屋にきらいした場合は彼の所得となるべし。
§42 (Col. XII-XIII)
ある人が耕作のために原野を賃借して、収穫を得ざる場合には、耕作を成さなかつた責任を負担し、且つ原野の所有者には近隣の狀況に比較して相當の借賃(多分穀物)を拂ふべし。
§43 (Col. XIII)
もし彼が耕作を成さず、等閑に附し置かば、隣人が収穫したると同量の収穫を、原野の所有者に給付し、且つ耕作を怠つた原野に耕作を加へてこれをその所有者に返還すべし。
§44 (Col. XIII)
開墾し得可き荒地を三年間賃借した者が、その開墾を怠れば四年目にはこれを開墾し、耕作を加へて所有者に返還し、且つ年每に土地十 Gan にたいし穀物十 Gur を拂ふべし。
§45 (Col. XIII)
ある者が一定の賃料を以てその原野を他人に貸付けて、旣にその賃料を受領したるに、その後雨または嵐のために収穫が失はれた場合にはその損失は賃借人の負担となる。
§46 (Col. XIII)
一定の賃料を受領せず収穫の二分の一または三分の一の賃料を以て原野を貸付けた場合には、原野の収穫は所有者と賃借人とに契約通りに比例分配さるべし。
§47 (Col. XIII)
賃借人が初年に收支償はなかつたために、その原野を他人に賃貸するも、所有者は反たいしてはならぬ。その原野の耕された上、収穫期に至らば彼はその契約に從て穀物の分配を取得すべし。
§48 (Col. XIII-XIV)
ある者が利息をしはらふ債務を負担する場合に、嵐が彼の原野を荒し穀物を損傷し、または水の缺乏のために穀物は原野において成熟しなかつたときは、その年は彼は債權者に穀物を與ふる(辨濟する)ことを要せぬ。しかして契約書を改めて(延期すること)、その年は利息を拂ふことも要せぬ。
§49 (Col. XIV)
ある人が商人から錢を得て(その擔保として)、商人に穀物または胡麻を作る可き原野を與へて、且つ「その原野を耕し、成熟したる穀物または胡麻の収穫を取れ」と言つた場合に、小作人がその原野に穀物または胡麻を產出すれば、その収穫期にはその原野の產出したる穀物または胡麻は、その原野の所有者の財產となり、しかして彼は商人から得た錢のために且つその利息のために、更に小作人の給養のためにその穀物をしはらふべし。
§50 (Col. XIV)
旣に穀物または胡麻が作られてある原野を(擔保として)與へた場合には、原野に存する穀物または胡麻はその原野の所有者に屬し、しかして彼は利息を附して元本を商人に返還すべし。
§51 (Col. XIV)
もし彼が返還す可き錢を有せざるときは、國王の定めた標準に從て、利息を附けて、錢の代りに市場の價格を以て穀物または胡麻を商人に與ふべし。
§52 (Col. XV)
小作人が穀物または胡麻をその原野に作らなくとも、債務者の責任は廢除されざるべし。
§53 (Col. XV)
ある人が自己の堤を强固にすることを怠り、これを强固にせぬ場合に、彼の堤に龜裂を生じ、耕地に浸水したるときは、龜裂の生じた地を有する者へ、これに因て損傷を來した穀物を賠償すべし。
§54 (Col. XV)
もし彼が穀物の賠償を成すことが出来なければ、彼と彼の財產は賣拂はれて、洪水のため穀物の損失を受けた農夫は、その賣拂の結果から利得すべし。
§55 (Col. XV)
ある人が灌漑のために溝渠を開割し、その不注意に因て隣地に溢水せしめた場合には、近隣の地に生じた丈けの穀物を賠償すべし。
§56 (Col. XV)
ある人が水を開放して隣地の収穫を損失せしめた場合には、土地十 Gan に付て穀物十 Gur を賠償すべし。
§57 (Col. XV)
ある牧人が原野の所有者の許諾無しに、成熟したる穀物の上に彼の羊を飼養したる場合は、原野の所有者は収穫を成し、その許諾無しに羊を飼養したる者は原野の所有者に土地十 Gan に付て穀物二十 Gur を賠償すべし。
§58 (Col. XV-XVI)
もし羊が牧場を脫出して市內に飛込んだ場合に、牧人がその羊を飼養する原野にこれを戾したるときは、牧人は草を與ふるに適する原野を取り、その収穫期には土地十 Gan に付て穀物六十 Gur を原野の所有者にしはらふべし。
§59 (Col. XVI)
ある人が果樹園の所有者に無斷にその園內の樹木を切り落した場合には銀半 Mina をしはらふべし。
§60 (Col. XVI)
ある人が果樹園として栽培するために園夫に原野を與へ、園夫がこれに栽培したる場合は、彼は四年間その果樹園を管理すべし。五年目にはその土地の所有者と園夫が平分して収穫を成すべし。その果樹園の所有者は自己の持分を採取すべし。
§61 (Col. XVI)
もし園夫がその原野の全部を栽培せず、一部を荒廢せしめた場合には、その部分は彼の収穫部分に組入れらるべし。
§62 (Col. XVI)
彼が得たる原野を果樹園として栽培しなかつた場合に、もしその土地が(穀物に適する)耕作地なれば、園夫はその耕作を怠つた期間中は、近隣の土地の収穫を標準とする賠償を所有者にしはらふべし。(且つ)彼はその原野を耕作に適する樣に仕立てヽ原野の所有者に返還すべし。
§63 (Col. XVI)
もしその原野が未開拓なれば、彼は所定の仕事を遂げて原野をその所有者に返還し、且つ(土地)十 Gan にたいし、穀物十 Gur を賠償すべし。
§64 (Col. XVI)
ある人が耕作のために果樹園を園夫に與へた場合には、園夫はその果樹園を有する間は、その果樹園の收益の三分の二を所有者に與へ、三分の一を自己に留保すべし。
§65 (Col. XVI)
園夫が果樹園に固有の注意を用ゐず、その収穫を損失した場合には、近隣者の収穫に準じてその収穫の賠償をなすべし。
§X.
ある人が商人から錢を借り「なつめじゆろ」の栽植地を渡して、『私の栽植地にある「なつめじゆろ」は汝の錢の代りに採れ』と商人に吿げた場合に、その商人がこれに同意しなければ栽植地の所有者が栽植地にある「なつめじゆろ」を採り、元本と契約の趣旨に基く利息のためにこれを商人に給付すべし、しかしてその栽植地に生じた「なつめじゆろ」の餘剩は栽植地の所有者がこれを取得すべし。
§Y.
…………(家屋に)居住する者が(家屋の)所有者に期間の滿たざる際に明渡を要求したるときは、家屋の所有者は期間の滿たざる際に明渡を要求したのであるから、居住者がしはらつた錢から(割合の額を)返却すべし。
§Z.
(ある人が商人から錢を借りて)これにしはらふ錢または穀物を有せず、他の財物を有するときはこれを商人に與ふべし。商人はこれを拒むべからず、受領すべし。
§100 (Col. XVII)
(ある小商人が商人の)錢を受領した場合には(その總額と)、その錢の利息(となる可きもの)を記錄して置いて、期限の滿ちた際には商人と決算すべし。
§101 (Col. XVII)
もし彼が旅行において成功しなかつた場合には、彼(小商人)はその得たる所の二倍の錢を商人にしはらふべし。
§102 (Col. XVII)
商人が小商人に投資として錢を與へ、小商人が旅行中不幸に出會するも、商人には全額を返濟すべし。
§103 (Col. XVII)
もし彼(小商人)が旅行中、その携帶せる財物を敵に掠奪されたならば、小商人はその總高を列擧して神前に宣誓をなして免責さるべし。
§104 (Col. XVII)
もし商人が商賣上の目的を以て小商人に穀物、羊毛、油、その他の貨物を支給すれば、小商人は總高の受取證書を作り、これを商人に交付すべし。然る上は彼は商人にしはらつた錢の受取證書を受領すべし。
§105 (Col. XVII)
もし小商人がその商人にしはらつた錢に付て受取證書を取得することを怠つた場合には、その受取證書を有せざる部分の錢はその計算から廢除さるべし。
§106 (Col. XVII)
もし小商人が商人から錢を借りて商人とこれを爭ふ場合には、商人は神と證人の面前において(公開廷において)、その錢を以て訴求すべし、しかして敗訴した場合には三倍の錢を商人にしはらふべし。
§107 (Col. XVII-XVIII)
もし商人が小商人を欺瞞して、小商人が旣に商人から借りたものを總て返還したるに、商人がその受領を否認する場合には、小商人は神と證人の面前において商人を吿訴すべし。受領したるに拘はらず、これを否認した以上は商人はその額の六倍を小商人にしはらふべし。
§108 (Col. XVIII)
居酒屋が飮代として穀物を受領せずまたは不當の割合を以て銀を要求し、その價格を穀物以下に算定した場合には、彼は告発され水中に投棄さるべし。
§109 (Col. XVIII)
居酒屋に暴徒が集合したときに、居酒屋が彼らを逮捕して裁判に送致しなければ彼は死刑に処される。
§110 (Col. XVIII)
尼寺に居住せざる尼が酒場を開き、または飮酒の目的を以て酒場に入つた場合には燒殺さるべし。
§111 (Col. XVIII)
居酒屋が飮料として「うさ・かに」(“Usa-Kani”)六十 Ka を‥‥貸與すれば、収穫期には穀物五十 Ka を受領すべし。
§112 (Col. XVIII)
ある旅人が銀、金、寶石またはその他の寶物を運搬のために委託したるに、その運搬者が指定せられた場所にその運搬せらる可き總ての物を持參せず、これを私用したる場合は、委託せられた貨物を配達しなかつた者は訴求されて運搬さる可き貨物の所有者に、委託された物の五倍を賠償すべし。
§113 (Col. XVIII-XIX)
ある人が他人に穀物または錢の債權を有する場合に、所有者に無斷に穀物倉または納屋から穀物を獲得したるときは、法廷に訴求されてその獲得したる穀物を返還すべし、しかしてその貸付けたるものは一切喪失する。
§114 (Col. XIX)
ある人が他人にたいし穀物または錢の債權を有せざるに、差押(人質を取ることを意味する)を成した場合には、各差押事件に付き銀三分の一 Mina をしはらふべし。
§115 (Col. XIX)
ある人が他人にたいし穀物または錢の債權を有し、差押を成した場合に、その差押へられた者(質人)が、差押者(債權者)の家において、自然に死亡すればその事件に刑は無い。
§116 (Col. XIX)
質人が差押者の家において凌辱(打擊)または虐持のために死亡したる場合に、その質人の所有者が賠償を要求すれば、その質人が平民の子なれば、債權者の子が死刑に処されれ、奴隷なれば銀三分の一 Mina をしはらひ且つ、その貸付けた一切の債權を喪失する。
§117 (Col. XIX)
ある人が債務を負担して、その子または娘を(人質として)引渡し、もしくは勞役に服せしめた場合は、彼等は三年間債權者の家において勞働し、四年目にはその自由を囘復すべし。
§118 (Col. XIX)
債務者が債務を(償却するために)男または女の奴隷を服役せしめた場合には、債權者がその奴隷を売却するもこれにたいして抗辯を成すことはならぬ。
§119 (Col. XIX-XX)
ある人が債務を負担し、女の奴隷を引渡したるに、その奴隷が子を產んだ場合は、その奴隷の所有者は商人(債權者を意味する)のしはらつた代價を返還して、その奴隷を身請すべし。
§120 (Col. XX)
ある人が他人の家屋內に自己の穀物を貯藏する場合に、その貯藏穀物に損害を生じまたはその家の所有者が、その穀物倉を開いて若干の穀物を取り、もしくはその家に貯藏せる穀物の分量に關して爭ふときは、穀物の所有者は神前(公開廷)において宣誓して穀物を要求すべし。しかして家屋の所有者はその穀物の二倍を賠償すべし。
§121 (Col. XX)
他人の家屋內に穀物を貯藏する者は年每に一 Gur に付て五 Ka の貯藏料をしはらふべし。
§122(Col. XX)
ある人が他人に銀、金またはその他の物を寄託するには、その寄託す可き總ての物を證人等に示して契約をなし、然る上に寄託すべし。
§123 (Col. XX)
ある人が證人等も契約(證文)もなしにある物を寄託して、その寄託したる場所に付て爭が起れば、何等の訴求をなすことも許されぬ。
§124 (Col. XX)
ある人が證人等の面前において、銀・金またはその他の物を他人に寄託したるに、その受託者がこれを否認するときは、彼は法廷に引致される。しかして(有責の場合には)その否認したる物の二倍をしはらふべし。
§125 (Col. XX-XXI)
ある人が財物を寄託したるに、夜盗または强盗によって、その財物がその場所(寄託所)の所有者の物と共に失はれた場合には、その場所の所有者はその不注意から生じたものである以上は、盗難物の所有者に全部の賠償なすべし。その場所の所有者は盗難物に追及してその発見を努め、盗賊よりこれを取戾すべし。
§126 (Col. XXI)
ある人が何物をも失はざるに、失ひたりと唱へ、または何物をも失はざるにその喪失に付て訴を提起すれば、彼は神前においてその虛僞の喪失を宣言すべし。しかして彼は請求したるものヽ二倍を賠償すべし。
§127 (Col. XXI)
ある人が尼または人の妻を(譏りて)指摘して、これを立証することが出来なければ、彼は法官の前に引致されて、前額に烙印を押さる可し。
§128 (Col. XXI)
ある人が妻を娶りても、彼女と契約を結ばなければその女は正妻とはならぬ。
§129 (Col. XXI)
人の妻が他人と姦通すれば兩人を束ねて水に投棄すべし、唯だ夫が妻を救ひ、國王がその下男を救はんとする場合にはこれを許す。
§130 (Col. XXI)
ある人が、他人と婚姻したるも未だ男を知らず(処女)、且つその父の家に居住する婦人を、 强姦しその實行中に捕はれたならば、死刑に処されるべし、然しその婦人は放免される。
§131 (Col. XXI)
ある人が自己の妻を吿訴するも、彼女が他人と姦通しなかつたならば、彼女は神名を以て宣誓しその(父の)家に歸るべし。
§132 (Col. XXI-XXII)
ある人の妻にたいして嫌疑が生じたるも、彼女は他人と姦通したることが無ければ、その夫の滿足のために聖河に飛込むべし。
§133 (Col. XXII)
ある人が捕虜に取られても、その家に給養ある場合に、彼れの妻がその家を出るときは、彼女はその身體を防護し、他人の家に入る可からず。もしその女がその身體を防護せず、他人の家に入るときは、彼女は法律に從て制裁を受け水中に投棄せらるべし。
§134 (Col. XXII)
ある人が捕虜に取られ、その家に給養なき場合には、その者の妻は他人の家に入る(結婚する)も何等の制裁を受けぬ。
§135 (Col. XXII)
ある人が捕虜に取られ、その家に給養なく、その者の妻が他人の家に入り子供を生んだ場合に、その後、先夫がきらいしてその家庭に來れば、その女は先夫に歸依すべし、然し子供はその父(後夫)に從ふべし。
§136 (Col. XXII)
ある人がその故鄕を捨てヽ逃走し、その後彼の妻が他人の家に入り(結婚し)たるに、彼がきらいしその妻を得んとするも、彼は一旦故鄕を捨てヽ出奔した者であるから、その女は彼に歸依すべからず。
§137 (Col. XXII-XXIII)
ある人が、その者の子供を生んだ權妻、またはその者の子供を生んだ妻から、離別することを決心する場合には、彼はその婦人の嫁資を返還し、子供を養育するに足りる丈けの原野、庭園及び財物の收益を與ふべし。彼女はその子供を養育し上げた場合には、その一子の分前と等分を保有し、その他を子供に分配し、彼女の選定した男と結婚することを得る。
§138 (Col. XXIII)
ある人が、彼の子供を生まざる妻を離緣するには、結婚の際に彼女の父にしはらつた丈けの求婚資と、彼女がその父の家から持參した嫁資を、彼女に與へた上これを離別することを得る。
§139 (Col. XXIII)
もし求婚資が無かつた場合には離緣のために銀一 Mina を彼女に與ふべし。
§140 (Col. XXIII)
もし彼が平民なるときは銀三分の一 Mina を彼女に與ふべし。
§141 (Col. XXIII)
夫の家に居住する妻がその家を去ることを決心し、浪費を用ゐ、その家を荒廢し、夫を愚弄するときは、彼女を吿訴すべし。もしその夫が彼女を離緣するときは、卽ち彼女は立去るべし。その離緣にたいしては夫が何物をも與ふ可からず。もしその夫が離緣を敢てせず、他の妻を娶るときは、前妻が下女としてその家に止まるべし。
§142 (Col. XXIII-XXIV)
妻がその夫と喧嘩して「汝は私を自由にすることはならぬ」と言ふときは、彼女の缺點に付てはその素性を檢査すべし。もし彼女に罪過なく、且つ夫の方にも落度なく、唯だ夫が諸所を漂浪し、妻を甚だしく愚弄して居つたならば、その女には罪責はない。彼女はその嫁資を取つてその父の家に歸還すべし。
§143 (Col. XXIV)
もし彼女が思慮なく、流浪し、家にありて贅澤をなし、夫を愚弄するときは、その女を水中に投棄すべし。
§144 (Col. XXIV)
何人でも妻を娶りたるに、その妻が夫に下女を與へ、子供を生んだ場合には、彼は權妻を娶ることを決心しても、そのは許されぬ。彼は權妻を娶る可からず。
§145 (Col. XXIV)
ある人が妻を娶り、彼女が子供を生まず、しかして彼が權妻を娶ることを決心すれば、その男は權妻を娶りてこれを彼の家に伴れ來ることを得る。(されど)權妻は彼の妻と平等に立つことはならぬ。
§146 (Col. XXIV)
ある人が妻を娶り、彼女が夫に下女を與へたるに、その下女が(主人の)子供を生み、その下女が子供を生んだがために彼の夫人と同等の地位を得たるときは、彼の夫人はその下女を錢のために賣つてはならぬ。然しこれを下女となし、下女の一人として數へることを得る。
§147 (Col. XXIV)
もし彼女(下女)が子供を生まなければ、夫人が彼女を錢のために賣ることが出来る。
§148 (Col. XXIV)
ある人が妻を娶り、その妻が疾病にかかった場合に、彼が第二の妻を娶らんとするときは、これを許す。然し疾病にかかった妻を離別す可からず、尙ほ彼女は夫の構へた家に居住し、夫は彼女の生存する間はこれを給養すべし。
§149 (Col. XXV)
此女がその夫の家に居住する意思なきときは、彼は、彼女がその父の家から持參せる嫁資を彼女に讓與すべし、然る上、彼女は立去るべし。
§150 (Col. XXV)
ある人がその妻に原野、庭園、家屋または財貨を與へて、その等の物の確認證書を授與すれば、夫の死後は子供が(母にたいして)要求をなすことは出来ぬ。母は(その死後に)その最も愛する所の子に遺贈を成すことが出来る、その他の子には與ふることを要しない。
§151 (Col. XXV)
ある人の家に居住して居る婦人がその夫と『彼の如何なる債權者も(その債權のために)彼女を差押ふることはならぬ』と云ふことを契約すれば、もしその男がその妻を娶る前に債務を負担したるときは、その債權者は債權のためにその妻を差押へてはならぬ。しかしてもし此婦人がその夫の家に入る前に債務を負担したるときは、その債權者は債權のためにその夫を差押へてはならぬ。
§152 (Col. XXV)
もしその婦人が男の家に入つた(結婚)後に、債務が負担せられた場合には兩名共に商人(債權者)にたいして責任を負う。
§153 (Col. XXV)
ある人の妻が他人を救ふために夫を死に致すときは杙刺しにされる。
§154 (Col. XXV)
ある人がその娘と姦通したるときは、彼はその居住する市から放逐さるべし。
§155 (Col. XXV-XXVI)
ある人がその子と一少女との許婚を成し、その子がその少女と通じたるに、その後、彼(父)がその女と姦通して捕へられたときは、彼を縛りて水中に投棄すべし。
§156 (Col. XXVI)
ある人がその子と新婦との許婚を成し、その子がその婦と通ぜざるに、その後、彼(父)がその婦と姦通するときは、彼は銀半 Mina をしはらひ、且つ彼女がその父の家から持參せる總てのものを返還すべし。その婦はその選む所の男と結婚すべし。
§157 (Col. XXVI)
ある人がその父の死後、母と通ずるときはその兩者を燒殺すべし。
§158 (Col. XXVI)
ある人がその父の死後、子を生める繼母と通じたるときは、彼をその父の家から放逐す可し。
§159 (Col. XXVI)
ある人がその舅の家に贈物を持參し且つ婚資を與へたるに、その後、他の婦人を見付けて、その舅に向て、「私は汝の娘を妻に娶ることを欲せず」と言ふときは、その娘の父は彼が持參せる總ての物を保有すべし。
§160 (Col. XXVI)
ある人がその舅の家に贈物を持參し且つ婚資を與へたるに、その後、舅が「私の娘を汝に與へることを欲せず」と言ふときは、舅はその贈與された物の二倍を返還すべし。
§161 (Col. XXVI)
ある人がその舅の家に贈物を持參し且つ婚資を與へたるに、彼の友人が彼を譏りて、舅がその求婚者に向て、「汝には私の娘を與へられぬ」と言ふときは、その贈與された物の二倍を返還すべし。然しその友人はその婦と結婚することはならぬ。
§162 (Col. XXVI-XXVII)
ある人が妻を娶り、彼女が子供を生めば、その婦が死亡しても、彼女の父は彼女の嫁資を請求してはならぬ。嫁資はその子供に歸屬する。
§163 (Col. XXVII)
ある人が妻を娶り、彼女が子供を生まざるに、その婦が死亡したる場合に、舅は彼が(その舅の)家に持參せる求婚資を返還するときは、夫はその婦の嫁資にたいしては何等の要求をしてはならぬ。彼女の嫁資は彼女の父の家に從屬する。
§164 (Col. XXVII)
もし舅が求婚資を返還せざるときは、夫は妻の嫁資から求婚資の価額を控除してその殘額を彼女の父の家に與ふべし。
§165 (Col. XXVII)
ある人が彼の指定したる子に原野、庭園または家屋を與へて、その贈與證書を認めて置き、その後父が死亡し、兄弟が遺產を分配する場合には、その子は父の遺贈を取得し、その餘は兄弟が平等に父の家の財物に付て分配すべし。
§166 (Col. XXVII)
ある人が少年の子に非らざる彼れの子供のために妻を娶りて、死亡すれば、その子供が(遺產を)分配する場合には、彼等は未だ妻を娶らざる少年の子にはその分前の外に、(舅にしはらふ可き)婚資として錢を與へてその妻を娶る補助を成すべし。
§167 (Col. XXVII-XXVIII)
ある人が妻を娶り、彼女が子供を生みて死亡し、そのの後、彼が第二の妻を娶り、彼女が子供を生みたるに、その後、父が死亡すれば、兩妻の子供は母に從て家產を分配すべからず、彼等は單にその母の嫁資のみを分配すべし、唯だその父の財物を全部均等に分配すべし。
§168 (Col. XXVIII)
ある人がその子を放逐(相續排除)することを決心して、法官に向て「私は私の子を放逐しませう」と吿げるときは、法官は彼の理由を審理すべし。しかしてその子が放逐される丈けの重大な過責が無ければ、子供を緣切にしてはならぬ。
§169 (Col. XXVIII)
子を緣切にする丈けの重大なる過責を父にたいして演じた場合には、第一囘目はこれを免責すべし。然し第二囘目に重大なる過責を演じた場合には父は子を緣切にすべし。
§170 (Col. XXVIII)
ある人の妻が彼の子供を生み、且つ彼の下女も彼の子供を生み、父がその生涯中、下女の生んだ子供を「私の子供よ」と呼び、その妻の子供と看做して居つた場合には、父の死後は妻の子供も下女の子供も、父の家の財物に付て平等に分配すべし。妻の子供はその配當においては選擇の權利を有すべし。
§171 (Col. XXVIII-XXIX)
父が生涯中、その下女の生んだ子供を「私の子供よ」と呼ばなかつたならば、その父の死後、下女の子供は妻の子供と共に父の家にある財物の配當を得られぬ。されど下女とその子供は自由を有すべし。妻の子供が下女の子供を用役することの要求は許されぬ。
妻は嫁資と夫が贈與して文書を認めて置いた丈けの贈物を受領し、その生涯中夫の家に居住して(遺產を)享受すべし。彼女はその遺產を賣拂ふことはならぬ。その死後においては遺產はその子供の所屬となる。
§172 (Col. XXIX)
もし彼女に贈物を與へなかつた場合には、彼女は嫁資を全部返還せられ、且つ夫の遺產からはその一子と均等の分前を受領すべし。もし彼女の子供がその家から彼女を放逐する樣に迫害する場合には、法官はその事件を審理すべし。しかしてその子供が責任ある場合には妻はその夫の家を立去るべからず。されど妻がその家を立去ることを決心したる場合には、彼女は夫が彼女に與へた贈物をその子供に遺さなければならぬ。然し彼女の父が(與へた)嫁資を取得することを得る。しかして彼女の選む男と結婚することを得る。
§173 (Col. XXIX)
その婦人が入家した所にて第二の夫と子供を生み、その後、死亡すれば前後(兩婚)の子供は彼女の嫁資を分配すべし。
§174 (Col. XXIX)
もし彼女が第二の夫と子供を生まなければ、第一の夫の子供が彼女の嫁資を取得すべし。
§175 (Col. XXIX-XXX)
貴族または平民の奴隷が自由人の娘と結婚を成し、彼女が子供を生んだ場合には、その奴隷の所有者はその自由婦人の子供にたいしては用役を要求することはならぬ。
貴族または平民の奴隷が自由婦人と結婚した際に、その婦人が彼女の父の財產から嫁資を持て奴隷の家に入りたるに、彼等が家を構へ、財產を得たる後、貴族または平民の奴隷が死亡したる時は、その自由婦人は嫁資を受領することを得る。彼等が結婚後、取得したる所のものは二等分され、奴隷の所有者はその一半を取り、自由婦人はその子供のために他の一半を取るべし。
§176 (Col. XXX)
もし自由婦人が嫁資を有せざるときは、彼女は結婚後、彼女とその夫とが取得したる總てのものを二等分し、奴隷の所有者がその一半を取り、自由婦人はその子供のために他の一半を取るべし。
§177 (Col. XXX)
少年の子供を有する未亡人が他人の家に入らんとする場合には(再婚)、法官の許可無しに成してはならぬ。彼女の再婚を許すには、法官は彼女の先夫の遺產を調査すべし。しかして先夫の財產はその婦人と後夫に信託し、財產目錄を彼等に交付すべし。彼等はその財產を管理し子供を養育すべし。家財を賣拂ふ可からず。未亡人の子供に屬する家具の買主はその代價を失ふべし。しかしてその物は所有者に返還すべし。
§178 (Col. XXX-XXXI)
信仰婦人または誓約婦人の父が彼女に嫁資を與へて、證文を認めたるも、その證文には彼女が好む人にその財產を讓與することを許す旨を揭げず、且つこれを自由に処分し得る權能を明かに認めなかつた場合には、その父の死後は彼女の兄弟が彼女の原野及び庭園を取得し、彼等は彼女にその持分の価額に應じて、穀物、油、及び羊毛を與へて彼女を滿足せしむべし。もし彼女の兄弟が彼女にその持分の価額に從て、穀物、油、及び羊毛を與へて、彼女を滿足せしめなければ、彼女は自ら選擇せる農夫に彼女の原野及び庭園を貸付くべし。しかしてその農夫は彼女を扶養すべし。彼女はその生涯中、その父が彼女に與へた原野、庭園、及びその他のものを用益すべし。彼女はこれを他人に売却または讓與すべからず。彼女の相續部分は彼女の兄弟の所屬とする。
§179 (Col. XXXI)
信仰婦人または誓約婦人の父が彼女に嫁資を與へて、證文を認めた場合に、その證文に彼女が好む人にその財產を讓與することを許す旨を揭げ、且つこれを自由に処分し得る權能を明かに認めたるときは、その父の死後は彼女はその好む人に彼女の財產を遺贈することを得る。彼女の兄弟はこれに付て何等の要求をなすことも許されぬ。
§180 (Col. XXXI)
ある父がその結婚し得る娘または結婚し得ざる娘に嫁資を與へずに死亡したるときは、彼女は父の遺產からその息子と同じ持分を受け、その生涯中これを用益すべし。彼女の死後はその財產は兄弟の所得となる。
§181 (Col. XXXI)
ある父がその娘を寺院女中または寺院処女(Nu, Par.)として神に奉獻して、彼女に嫁資を與へざる場合は、その父の死後は彼女は父の遺產からその持分として、一息子の持分の三分の一を受け、その生涯中これを用益することを得る。彼女の死後はその財產は彼女の兄弟等の所得となる。
§182 (Col. XXXI-XXXII)
ある父がその娘なる「ばびろん」の「まるずつく」の信者に嫁資を與へず、且つ證文をも與へざるときは、その父の死後は彼女はその兄弟等から父の遺產の分前として一息子の分前の三分の一を受領すべし。但し遺產を管理することはならぬ。「まるずつく」の信者はその好む人に彼女の財產を遺贈することを得る。
§183 (Col. XXXII)
ある人が權妻の娘に嫁資を與へて彼女を夫に與へ、しかして證文(嫁資に關するもの)を認めた場合には、その後父が死亡しても、彼女は父の遺產に付ては持分を有することはならぬ。
§184 (Col. XXXII)
ある人が權妻の娘に嫁資を與へず、且つ彼女を夫に與へずして死亡したるときは、彼女の兄弟等は父の遺產に準じて相當の嫁資を彼女に與へて、これを夫に與ふべし。
§185 (Col. XXXII)
ある人がその名前において子(養子)を取り、これをその息子として養育するときは、此成長したる子は返還を要求されることはない。
§186 (Col. XXXII)
ある人が養子を取りたるにその養子が養父母にたいして背反する場合には、その養子は實父の家に歸還すべし。
§187 (Col. XXXII)
宮廷に奉仕する愛人(Ner-se-ga)の息子、または信者の息子は返還を要求されることはない。
§188 (Col. XXXII)
ある職人が養子を取りて、これに技術を敎へた以上は、何人もこれが返還を要求することはならぬ。
§189 (Col. XXXII)
もし彼が養子に技術を敎へなかつた場合には、養子はその實父の家に歸還することを許される。
§190 (Col. XXXII)
ある人が養子に取りて養育したる子を、實子の一人の如く取扱はざるときは、その養子は實父の家に歸還することを許される。
§191 (Col. XXXII)
養子を取りこれを養育したる者が、その後家を構へて實子を得たる場合に、その養子を逐出すことを決心したるときは、その養子は空しく立去る可からず、養父は彼に實子の持分の三分の一の財物を與ふべし、然る上に、養子は立去るべし。原野、庭園または家屋を以て與ふべからず。
§192 (Col. XXXII-XXXIII)
宮廷に奉仕する愛人の子または信者の子が養父または養母に向て、「汝は私の父に非ず」とか「汝は私の母に非ず」と言へば、彼の舌を切り取るべし。
§193 (Col. XXXIII)
宮廷に奉仕する愛人の子または信者の子が、その父の家を戀慕して彼を養育したる養父母を嫌忌して、實父の家に歸還するときは、その眼を引き拔くべし。
§194 (Col. XXXIII)
ある人がその子を乳母に渡したるに、その子が彼女の手許にて死亡したる場合に、乳母がその子の父母に無斷にて他の子と差代へたときは、彼女を吿訴すべし。彼女は父母に無斷にて他の子を養育したる故を以て乳房を切斷さるべし。
§195 (Col. XXXIII)
子が父を毆打したるときはその手を切斷すべし。
§196 (Col. XXXIII)
他人の眼を傷害したる者はその眼を傷害せらるべし。
§197 (Col. XXXIII)
人の骨を折傷したる者はその骨を折傷さるべし。
§198 (Col. XXXIII)
もし彼が平民の眼を傷害しまたは平民の骨を折傷したるときは銀一 Mina をしはらふべし。
§199 (Col. XXXIII)
もし彼が人の奴隷の眼を傷害しまたは人の奴隷の骨を折傷したるときはその半額をしはらふべし。
§200 (Col. XXXIII)
自分と同地位にある者の齒を打ち出した者は齒を打出さるべし。
§201 (Col. XXXIII)
もし彼が平民の齒を打出したときは銀三分の一 Mina をしはらふべし。
§202 (Col. XXXIII)
自分よりも高地位にある者を毆打したる者は、公衆の前にて牛皮鞭を以て六十の毆打を受くべし。
§203 (Col. XXXIII)
自分と同地位にある者を毆打したる者は銀一 Mina をしはらふべし。
§204 (Col. XXXIII)
平民を毆打したる平民は銀十 Shekel をしはらふべし。
§205 (Col. XXXIII-XXXIV)
平民を毆打したる平民の奴隷は耳を切斷さるべし。
§206 (Col. XXXIV)
ある人が他人と喧嘩して毆打し傷害を加へたるときは、「私は故意に毆打したるものでない」といふ宣誓を成し且つ醫料を賠償すべし。
§207 (Col. XXXIV)
もし被害者がその傷害のために死亡すれば、加害者は前揭の宣誓を成して銀半 Mina をしはらふべし。
§208 (Col. XXXIV)
もし彼が平民なるときは彼は銀三分の一 Mina をしはらふべし。
§209 (Col. XXXIV)
平民婦人を毆打して流產せしめた者はその胎兒の喪失にたいして銀十 Shekel をしはらふべし。
§210 (Col. XXXIV)
もしその婦人が死亡するときは、彼の娘を死刑に処すべし。
§211 (Col. XXXIV)
平民婦人がある者に毆打されて流產した場合には、彼は銀五 Shekel をしはらふべし。
§212 (Col. XXXIV)
もしその婦人が死亡すれば、彼は銀半 Mina をしはらふべし。
§213 (Col. XXXIV)
平民の下女を毆打して流產せしめた者は銀二 Shekels をしはらふべし。
§214 (Col. XXXIV)
もしその下女が死亡すれば、彼は銀三分の一 Mina をしはらふべし。
§215 (Col. XXXIV)
醫者が靑銅刀を以て重傷を手術して、患者の生命を救濟し、または眼の附近にて、靑銅刀を以て、膿腫を切開して眼を救助すれば、彼は銀十 Shekels を取得すべし。
§216 (Col. XXXIV)
もし彼(患者)が平民なるときは五 Shekels を取得すべし。
§217 (Col. XXXIV)
もしそのれがある人の奴隷なれば、その所有者は醫者に銀二 Shekel をしはらふべし。
§218 (Col. XXXIV)
醫者が靑銅刀を以て重傷を手術して患者を殺し、または(眼の附近にて)膿腫を切開して、眼を失明せしむるときは彼(醫者)はその手を切斷さるべし。
§219 (Col. XXXIV)
醫者が靑銅刀を以て平民の奴隷の重傷を手術して、これを死に致したるときは、彼はその奴隷に代はる(勿論同價値の)他の奴隷を以て賠償すべし。
§220 (Col. XXXIV)
もし彼が(眼の附近にて)靑銅刀を以て、膿腫を切開して、眼を失明せしむるときは、彼はその奴隷の有せる價値の半分をしはらふべし。
§221 (Col. XXXIV-XXXV)
醫者が人の破損せる四肢を囘復し、または病膓を治癒したるときは、患者は銀五 Shekels をしはらふべし。
§222 (Col. XXXV)
もし彼が平民なるときは、彼は銀三 Shekels をしはらふべし。
§223 (Col. XXXV)
もし彼が奴隷なるときは、その所有者は醫者に銀二 Shekels をしはらふべし。
§224 (Col. XXXV)
牛醫またはロバ醫が重傷を負へる牛またはロバを取扱い、その動物を治癒したるときは、その所有者は醫者に報酬として銀六分の一 Shekel をしはらふべし。
§225 (Col. XXXV)
もし彼が重傷を負へる牛またはロバを取扱い、これを死に致したるときは、彼はその所有者にその価額の四分の一をしはらふべし。
§226 (Col. XXXV)
烙印者が奴隷の所有者に無斷にて奴隷を売却し得ざる旨の標識を奴隷に烙印したるときは、その手は切斷さるべし。
§227 (Col. XXXV)
烙印者を欺き、奴隷を売却し得ざる旨の標識を奴隸に烙印せしめた者は死刑に処されれ、彼れの家に葬むらるべし。然し烙印者が「私は故意に烙印したものでない」といふ宣誓を成した上は放免さるべし。
§228 (Col. XXXV)
建築者が人のために家屋を築造してこれを完了したときは、面積一 Sar に付て銀二 Shekels をしはらはるべし。
§229 (Col. XXXV)
建築者が人のために家屋を築造して、これを堅固に築造せずして、彼れの築造したる家屋が崩壞して、その所有者を殺した場合には、その建築者を死刑に処すべし。
§230 (Col. XXXV)
もしそのれがその家屋所有者の息子を殺した場合には、建築者の息子を死刑に処すべし。
§231 (Col. XXXV)
もしそのれがその家屋所有者の奴隷を殺した場合には、彼はその家屋所有者に他の奴隷を與ふべし。
§232 (Col. XXXV)
もしそのれがある財產を破壞した場合には彼はその一切の損害を賠償し、且つ家屋を堅固に築造しなかつたために崩壞したるの故を以て、自己の費用を以て家屋を再築すべし。
§233 (Col. XXXV-XXXVI)
建築者がある者のために家屋を築造し、その仕事を信實に完了しなかつた場合に、その壁が崩壞したときは自己の費用を以てその壁を堅固にすべし。
§234 (Col. XXXVI)
船の建造者がある者のために六十 Gur の船を築造すれば、彼は報酬として銀二 Shekel をしはらふべし。
§235 (Col. XXXVI)
船の建造者がある人のために船を築造したるも、これを航海に適する樣に造らず、しかしてその年、その船が航海に上りて損傷を受けた場合には、その船の建造者は自己の費用を以てこれを改造して堅固なるものとなし、その改造せられたる船をその所有者に與ふべし。
§236 (Col. XXXVI)
ある人がその船を船夫に貸付け、船夫がこれを不注意に取扱いて破損し、または沈没せしめた場合には、船夫は船の所有者に賠償として他の船を與ふべし。
§237 (Col. XXXVI)
ある人が船夫とその船を傭入れ、これに穀物、羊毛、油、「なつめじゆろ」その他の荷物を積みたるに、船夫が不注意にしてその船を破損し、荷物を損傷したるときは、その船夫は船及び損失せられた總ての荷物を賠償すべし。
§238 (Col. XXXVI)
船夫が他人の船を沈没せしめたるも、これを再び浮揚せしめたときは、彼は銀を以てその價値の半額をしはらふべし。
§239 (Col. XXXVI)
ある人が船夫を傭入れたるときは、彼は年に穀物六 Gur を船夫にしはらふべし。
§240 (Col. XXXVI)
ある船が投錨中の他の船に衝突して、これを沈没せしめた場合には、沈没せる船の所有者は神前においてその損失の範圍を宣言すべし。投錨中の船を沈めた船の所有者は失はれたる船及び一切のものヽ賠償を成すべし。
§241 (Col. XXXVI)
勞働牛に付て强制執行を成す者は銀三分の一 Mina をしはらふべし。
§242 (Col. XXXVI)
勞働牛を一年間賃借する者はその所有者に一頭に付き穀物四 Gur をしはらふべし。
§243 (Col. XXXVI)
乳牛の賃料としては穀物三 Gur をその所有者にしはらふべし。
§244 (Col. XXXVII)
ある人が牛またはロバを賃借し、獅子がこれを原野において殺したるときは、その損失は所有者に歸する。
§245 (Col. XXXVII)
ある人が牛を賃借して、怠慢または虐待に因てこれを殺したるときは、彼はこれと同價値の他の牛をその所有者に與ふべし。
§246 (Col. XXXVII)
ある人が牛を賃借してその脚を挫き、または首筋を切り取りたるときは、彼はその牛の代りにこれと同價値の牛を(賃借せる牛の)所有者に與ふべし。
§247 (Col. XXXVII)
ある人が牛を賃借して、その眼を失明せしめたるときは、彼はその價値の半額を牛の所有者にしはらふべし。
§248 (Col. XXXVII)
ある人が牛を賃借してその角を折斷しまたはその尾を切斷し、もしくは鼻孔を損傷したるときは、彼はその牛の価額の四分の一をしはらふべし。
§249 (Col. XXXVII)
ある人が牛を賃借したるに神がこれを打って、そのれが死去したるときは、これを賃借したる人は、神前において宣誓し、彼の責任は免除さるべし。
§250 (Col. XXXVII)
牛が市中を通行する際に人を衝いて殺した場合には、その事件は訴訟の問題とはならぬ。
§251 (Col. XXXVII)
ある人の牛が人を衝く常習ありて、彼が旣にそのことを注意されて居つたが、彼はそのれの角を防護することを成さず、これを監禁もせずに置いた場合に、その牛が平民の子を衝いてこれを死に致したるときは、彼は銀半 Mina をしはらふべし。
§252 (Col. XXXVII)
もしそのれが人の奴隷を殺したるときは、彼(牛の所有者)は銀三分の一 Mina をしはらふべし。
§253 (Col. XXXVII)
ある人がその耕地を管理するために他人を傭入れ、これに種子を供給し、牛を寄託して、土地を耕作することを委託したるに、彼(被傭人)が種子または収穫を橫領して、その領有中に発見せられたるときは、彼の手は切斷せらるべし。
§254 (Col. XXXVII)
もし彼が種子穀を取って、牛を過労せしむるときは、彼が播種のために受け取った丈の分量の穀物はこれを賠償すべき。
§255 (Col. XXXVII)
もし彼が人の牛を轉貸しまたは種子穀を盗みて、土地を耕作せざるときは、彼は吿訴されて(土地)十 Gan に付て穀物六十 Gur をしはらふべし。
§256 (Col. XXXVII)
もし彼がその義務を果すことが出来なければ、家畜と共に彼を原野に遺棄すべし。
§257 (Col. XXXVII-XXXVIII)
原野勞働者を傭入れた者は年に穀物八 Gur をしはらふべし。
§258 (Col. XXXVIII)
牛方を傭入れた者は年に穀物六 Gur をしはらふべし。
§259 (Col. XXXVIII)
野外において水車を盗んだ者はその所有者に銀五 Shekels をしはらふべし。
§260 (Col. XXXVIII)
もし彼が水桶または鋤を盗取するときは、銀三 Shekels をしはらふべし。
§261 (Col. XXXVIII)
牛または羊を飼養するために牧人を傭入れた者は年に穀物八 Gur をしはらうべし。
§262 (Col. XXXVIII)
ある人が牛または羊を寄託したるに…………(原文欠缺)
§263 (Col. XXXVIII)
寄託された牛または羊を失った者は牛に付ては牛、羊に付ては羊を賠償すべし。
§264 (Col. XXXVIII)
牛または羊の飼養を寄託された牧人が契約によって定まれる賃料を受取りて、牛または羊の頭數を減少しまたはその增殖率を減少したるときは、彼は契約の性質に從てその減少を補し繁殖せしむべし。
§265 (Col. XXXVIII)
牛または羊の飼養を寄託された牧人が不實の所成をなし、またはその增殖の返還に付て不正のことを成し、もしくは牛羊を売却したるときは、彼は吿訴されてその盗用したる所の牛羊の十倍を所有者に賠償すべし。
§266 (Col. XXXVIII)
馬屋に神の打擊(災難)が起りまたは獅子がこれ(飼養動物)を殺したるときは、牧人は神前にその無罪を宣明すべし。しかして厩の所有者はその損失を負担すべし。
§267 (Col. XXXVIII)
牧人が注意を怠りて、馬屋に災難が起るときは、その牧人はその損失を補って所有者に牛または羊を返還すべし。
§268 (Col. XXXVIII)
脱穀のために牛を傭入れる場合の賃料は穀物二十 Ka なり。
§269 (Col. XXXVIII)
脱穀のためにロバを傭入れる場合の賃料は穀物十 Ka なり。
§270 (Col. XXXVIII)
脱穀のために幼動物(Lalu)を傭入れる場合の賃料は穀物一 Ka なり。
§271 (Col. XXXVIII-XXXIX)
牛、荷車及び御者を傭入れる者は一日に穀物百八十 Ka をしはらふべし。
§272 (Col. XXXIX)
荷車のみを傭入れる者は一日に穀物四十 Ka をしはらふべし。
§273 (Col. XXXIX)
新年から第五月迄、勞働者を傭入れる者は一日に銀六 Se をしはらふべし。第六月から年の終迄傭入れる者は一日に銀五 Se をしはらふべし。
§274 (Col. XXXIX)
職人を傭入れた者は
a. ‥‥‥‥の傭入には銀五 se.
b. 燒物職工の傭入には銀五 se.
c. 裁縫工の傭入には銀五 se.
d. 石工の傭入には銀‥‥se.
e. ‥‥‥‥の傭入には銀‥‥se.
f. ‥‥‥‥の傭入には銀‥‥se.
g. 大工の傭入には銀四 se.
h. ‥‥‥‥の傭入には銀四 se.
i. ‥‥‥‥の傭入には銀‥‥se.
j. 建築者の傭入には銀‥‥se.
を一日に付てしはらふべし。
§275 (Col. XXXIX)
船を借入れた場合の損料は一日に付き銀三 se なり。
§276 (Col. XXXIX)
漕船を借入れた者は一日に付き銀二 se をしはらふべし。
§277 (Col. XXXIX)
六十 Gur の船を借入れた者はその損料として一日に付き、銀六分の一 Shekel をしはらふべし。
§278 (Col. XXXIX)
ある人が男奴隷または女奴隷を買入れたるに、一け月を經過せざる間に、その奴隷が Bennu 病にかかった場合には、彼はその奴隷を賣主に返却すべし。しかして買主はそのしはらへる金錢の返還を受くべし。
§279 (Col. XXXIX)
ある人が男奴隷または女奴隷を買入れたるに、これにたいし他人の要求ある場合には、賣主はその要求にたいして責任を負うべし。
§280 (Col. XXXIX)
ある人が外国において男奴隷または女奴隷を買入れて、その本國にきらいしたるに、その男奴隷または女奴隷の前所有者がこれを発見したるときは、その奴隷が自國人なる以上は金錢賠償なしに、その奴隷を返却すべし。
§281 (Col. XXXIX)
もし彼等が他國人なるときは、買主は神前においてその等に付てしはらつた価額を宣言すべし。しかして男奴隷または女奴隷の前所有者は商人(買主)にそのしはらつた代價を與ふべし。しかして彼(前所有者)はその男奴隷または女奴隷を囘復すべし。
§282 (Col. XXXIX)
もし奴隷がその主人に向て「汝は私の主人でない」と言ふときは、その主人が自分の奴隷なることを立証したる場合には、主人は奴隷の耳を切斷すべし。