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黒田杏子俳句鑑賞③〜句集「八月」より

      薄念佛
一叢の薄のひかり拝しけり              黒田杏子
                    (P199)


野や山に、薄(すすき)の花穂が光る季節です。冬近しでもあります。

さて、黒田杏子先生のお句を写生句として読みますと、ああそう、という感じかもしれません。変哲もない句かもしれません。(…のように読む方がいるかも、の意味です。)

もとより先生は「季語の現場」に立つことを標榜されてきましたから、たんなる想像句であるはずもありません。

そこで添え書きに注目です。先生のお句ではあんまりないと思うのですが、この句には「薄念佛」という添え書きがあるのです。

念佛は、元来仏陀を思い描いて瞑想修行することであるといいます。また「念」は「唸(うなる)」であります。これらのことと「薄」が合体しますと、どうでしょう、一瞬にして薄が風に揺れている神々しい映像が現出しませんか。

「一叢(ひとむら)」とありますが、これは精神世界における「一つ」という意味であって、目の前にあるのは、確かに薄の群落に違いありません。(ほんとにそうか?)

光り浴びて唸るように波打つ薄の群落の前で、礼拝、賛嘆する対象は、むろん薄の花穂なんですが、同時にそれは仏陀でもいいし、俳句の先達でも、あるいは人生の目標でもいいと思います。
先生のお心のうちまで計り知ることは出来ませんが、この句のおかげで、現実世界において、普通に見る薄の中に、たとえ一瞬でも真なるものの光りを感じることができれば、最高に嬉しい。

「ひかり拝」するとき、ひかりは見る人の心の奥にまで到達しているのだと思います。


※写真は生石高原(和歌山県紀美野町、有田川町)の薄の群落。2923.11.1撮影しました。


2023.11.3

(はじめに)
2023年10月、黒田先生の最終句集「八月」から一句選んで鑑賞しようとする試みを始めました。おそれおおいことですが、先生は許して下さるでしょう。たぶん。

最初に一句選のルールといいますか、考え方を整理しておきたいと思います。今後変更しまくるかもですが、まずは、心構えですね。

[心構え五則]
一 一句はその日、(不遜にも)先生から呼びかけられていると感じた作品を選ぶ(ランダムです。したがって、作品の季語と本投稿時の季節が一致しないことがある)。
二 鑑賞する、ということはできの悪い弟子(自分)にはできませんから、先生の句を鏡として自らを映すような文章になると思います。たぶん。
三 投稿頻度は週一ぐらい。文字数は400字以内。(とりあえずスタートします)
四 過去撮影を含む自分で撮った写真を一枚貼り付ける。このnoteが見つけてもらいやすいように、あるいは見栄えするように。(マッチングにおいて先生に叱られるかもですが)
五 真面目にやる、急がば回れ、志を高く(先生の教え三訓)
以上

2023.10.16