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【Y!映画】■映画「それでもボクはやってない」■レビュー★★★★

【最後まで示されない無罪の確証】

果たして主人公は本当に痴漢をやってはいないのか?
観客に対し主人公が無罪であると言う具体的な確証は終始示される事はなく、結果、観客は主人公が無罪であると言う確信が得られない。
裁判官や検察官、弁護士、刑事、家族、友人などと同様、観客も第三者として状況証拠や心証から主人公の罪の有無を推定する事となる。

その辺のミステリー仕立てが当作品の最大のポイントであり、魅力だ。

主人公の心理描写(独白)も最後の最後までされないので、実際の所、主人公が何を考えているか、その言動から推測するしかない訳だが、
主人公の意味不明瞭な弁解や必要以上に感情的になる様は実に不審。
私的には主人公の潔白を充分に信じる事が出来ず、検察官の立場を擬似体験してしまった。

映画の冒頭で「10人の真犯人を逃すとも、1人の無辜を罰するなかれ」とテロップが出る。
しかし、無罪の人間を罰するのは言語道断だが、その為に真犯人を逃がす事を許してしまうのはいかがなものか?
もし自分の家族や友人を殺した犯人が「逃がした10人」の中の一人になるとして、「10人の犯人を~」の意見を容認出来る人は恐らくいないだろう。
実際問題、「疑わしきは罰せず」では多くの犯罪者を逃がしてしまう事になる。かと言って冤罪は断じて許容できない。
冤罪は必要悪とする意見もあるが、明日は我が身。濡れ衣を着せられて「仕方がない犠牲」などと少なくても私には言えない。

正直、私はこの映画を最後まで観て主人公が有罪か無罪か分からなかった。
ただ個人に向けられる国家暴力の恐さだけは痛い程によく分かった。

この映画は推理劇として非常に楽しめた。また色々と考えさせられた。
地味な映画ゆえ若いカップルのデートには向かないが、骨太な社会派作品なので中高年の方は満足出来るだろう。

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