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今思えば、博士課程も理想とは違っていたー②

健康と経済の問題:最も大変だったこと


博士課程で最も大変だったことの一つは、きちんとした健康診断を受ける機会がなかったことでした。
一般的な会社員であれば定期健康診断がありますが、博士課程の学生は30代半ばまで「学生」という立場であることが多く、健康をしっかり管理する機会がほとんどありませんでした。

大学から提供される年1回の基本的な健康診断だけでは、自分の健康状態を詳しく把握するのは難しく、より精密な検査を受けようと思えば、高額な自己負担をしなければなりません。
しかし、研究費や生活費のやりくりで精一杯の博士課程の学生にとって、それは簡単なことではありませんでした。
その結果、健康管理はどうしても後回しになり、無理なスケジュールが続くと体力の限界を感じることも少なくなかったのです。

経済面の問題も同様でした。
どれだけ節約しても、手元に残るお金はほとんどなく、研究費と生活費を捻出するだけで精一杯でした。
この経済的な不安定さが精神的な負担となり、安定した職を持つ友人と自分を比べてしまい、徐々に疎遠になっていくことも多かったです。

周りには、返済義務のある奨学金制度を利用している人も多かったが、
それに頼りすぎると卒業後も返済の負担が続き、経済的な苦しさが長引くことになります。
博士課程は単なる学問的な挑戦ではなく、経済的・精神的・身体的な「生存」の問題でもありました。


研究と家庭の両立:現実的な課題


特に、結婚して子どもができると、研究を続けることはさらに難しくなります。
夫婦二人だけであれば、一方が収入を得ることでなんとか生活できる場合もありますが、博士課程の学生が住宅ローンを組んだり、経済的に自立するのはほぼ不可能に近いです。
そのため、生活費の大部分をパートナーに依存せざるを得ない状況になりやすいのです。

さらに問題なのは、子育てをしながら研究を続けることが現実的に難しいという点です。
国公立の保育園などに子どもを預けるためには、週に一定時間以上の勤労が必須条件になっているケースが多いですが、博士課程の学生は基本的に雇用形態が不安定で、収入も一定ではないため、この制度の要件を満たしにくいのです。
つまり、子どもを預ける手段が見つからず、育児と研究の両立がますます困難になってしまいます。

実際、博士課程の途中で結婚・出産した結果、研究を続けられなくなるケースを何度も見てきました。
夫婦ともに研究者の場合、どちらかが研究に専念する間、もう一方が経済的・家庭的負担を背負うことが多いです。
しかし、研究職はキャリアが一度中断すると復帰が難しいため、研究を中断した側が再び学術の世界に戻るのは非常に厳しいです。

結局、博士課程で研究と家庭を両立することは、個人の努力だけではどうにもならない、社会制度の限界とも関わる問題でした。


それでも続けたのは、研究が好きだから


このような困難の中でも、博士課程を最後まで続けることができたのは、ただ一つ、「研究が好きだから」です。

どんなに大変でも、新しい資料を発見したり、研究が少しずつ進展していく喜びは、何にも代えがたいものです。
深夜まで論文を読んで執筆しながら、
“それでも、自分はこれが好きだからやっているんだ” と何度も自分に言い聞かせました。

そうやって、何度も試行錯誤を繰り返しながら、ついに博士論文を書き上げ、学位を取得することができました。
しかし、博士号を取得したからといって、すべての問題が解決するわけではありませんでした。
むしろ、新たな現実との戦いが始まりました。

次回は、博士論文の提出に向けた計画管理と、個人的な生存戦略についてお話ししたいと思います。

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