実家の高齢母が骨折した件②
放置された青椒肉絲
11月13日は母の大腿骨の手術日だった。病院側の都合により、手術は当初予告されていた15:00から急遽前倒しで14:00に始まることになった。
病院からの「13:45までに来てください」という連絡が来たとき、私も弟もそれぞれ病院から離れた場所にいた。
私は実家の台所で昼食の青椒肉絲の仕上げをしようとオイスターソースを手に取ったときだったし、弟はその青椒肉絲を食べるため実家に向かう車の中だった。2人で昼食を摂ってから病院に向かう手はずだった。
ベッドに載せられた母が手術室へ入るわずか5分前、すべり込みセーフで私たち姉弟は緊張した面持ちの母に会うことができた。もちろん完成直前の青椒肉絲はフライパンの中にそのまま置いて来た。
外科医は連日満員御礼大忙しのようだった。手術が終わればすぐまた次の手術、その隙間を縫って患者や家族への面会などというように効率よく進めていくため、患者側に告げられる面会や手術の時刻はおおまかなもので決して確かなものではないということが今回の入院でよくわかった。
手術中にもう退院後の話?
母が入室してからは弟と家族控室での長い待機時間がはじまった。控室は相部屋で、薄汚れた合成皮革のソファ5脚と小さな洗面台とゴミ箱があるだけの殺風景な部屋だった。先客が2組、家族の手術が終わるのを待っていた。
青椒肉絲を食べ損ねて空腹だったため私は弟を控室に残して階下の売店へ昼食を買いに向かった。ふと時計を見ると14時をとっくに過ぎていた。
想像どおり店の棚はスカスカ。食べたいと思うものは何も残っておらず、仕方なく好みではないケチャップ味のおにぎりや惣菜パンなどを買い込んで控室へ戻った。
もそもそと食べ終わり弟と昔話や近況報告をして過ごした。控室ではスマホの電波は入らないため、連れと話すほか時間の使い途がない。1人で待つにはあまりにも暇過ぎて時間を持て余してしまうだろう。何かしらの暇つぶしアイテムが必要だと感じた。
しばらく経って退院支援の看護師がやって来て今後の流れを説明してくれた。
手術中にもう退院後の話である。まあそうは思っても現在の日本の保健医療制度がそうなっているのだから末端の看護師に文句を言っても仕方がない。
母が現在入院している急性期病棟からはおよそ2週間前後で退院する必要がある。これには今年度改定された診療報酬の事情がからんでいる。病院としては報酬が極端に下がる16日目以降の入院継続は望まないのだ。
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001224803.pdf
退院後は、大腿骨を折った母の場合は確実にリハビリが必要なため回復期リハビリテーション病棟に移ることになる。傷病によるが大腿骨骨折の場合は最大90日間の入院が可能である。
入院中の病棟の1階下がこの病院の回復期リハビリテーション病棟となっているためそちらに移るのが一番現実的ではあるが、満床の場合は近隣の回復期リハビリテーション病棟がある病院への転院が必要になってくる。そのため看護師から第3希望くらいまで考えておくようにと病院の一覧表をもらった。
また、同時に介護保険の要介護認定申請についても助言された。高齢者の大腿骨頚部骨折では退院後も骨折前の状態にまで完全に回復することは困難でADLが低下することが見込まれる。そのため、早いうちから要介護認定を申請しておいた方が良いということであった。
医療者側からすれば業務の一部でありいたって日常の流れなのだろうが、患者側としては非日常のまさに家族の一大事の真っ最中に矢継早にあれこれ言われることで頭が混乱する人も少なくないだろうと感じた。
幸い私は社会福祉士国家試験対策で社会保障制度などの勉強をしている身なので全体の流れはざっくり把握できていた。だが、医療や介護業界とは無縁の弟はやはりちんぷんかんぷんな様子であった。
つづく