バイステックの7原則
ケースワークの初期の段階では、ワーカーとクライエント間での信頼関係の構築(ラポール形成)が必要不可欠です。
アメリカの社会福祉学者であるバイステックは、著書『ケースワークの原則』において、クライエントとの援助関係の形成の際に必要なワーカーの姿勢や態度を7つの原則として提唱しました。
❶「個別化の原則」とは、クライエントの「個人として扱われたい」という特別な欲求に寄り添った考え方で、ワーカーが自己の価値観を押し付けることなくクライエントを一人の個人としてとらえ、他のクライエントと比較せずクライエントの置かれている状況を理解する原則です。
クライエントの苦しみは当人にしかわからない個別性の問題ととらえ尊重します。たとえば、クライエントを「認知症高齢者」や「障害者」などと一括りにとらえず、一人ひとり異なる人生経験を持った個人としてとらえるといったことです。
❷「意図的な感情表出の原則」とは、「自由に感情を表現したい」というクライエントの欲求に寄り添った考え方で、クライエントの感情表現を尊重するものです。
クライエントの感情表出自体が目的ではなく、その裏にある意図を理解し対応することが求められます。
感情を伴いながら自分自身の状況を告白するクライエントも多いですが、中にはマイナスな感情を抑えてしまう人もいます。
そのようなクライエントのニードを認識し、プライバシーの守られる安全な環境の中で安心して感情表現ができるよう支援することが必要です。
❸「統制された情緒的関与の原則」とは、「共感的な反応を示してほしい」というクライエントの欲求に寄り添った考え方で、ワーカー自身がクライエントの感情に呑み込まれないよう自らの情緒的混乱をコントロールできるようにする原則です。
正確に、かつ問題なくケース解決に導くため、ワーカー自身がクライエントの心を理解し、自らの感情を自覚・吟味し統制して接していくことを要求する考え方です。
❹「受容の原則」とは、クライエントの「価値ある人として扱ってほしい」という欲求に寄り添い、クライエントをそのまま受け止める原則です。
ワーカーは、クライエントの行動、態度、価値観、感情を受け容れて反射する。クライエントの言動などを否定せず、命令もしてはなりません。
❺「非審判的態度の原則」とは、クライエントの「批判しないでほしい」という欲求に寄り添い、クライエントを一方的に非難したり判断したりしない原則です。
ワーカーは、自己の価値観を押し付けることなく、クライエントの抱えている問題を頭ごなしに批判したり判断したりしないことを常に心がけます。
❻「自己決定の原則」とは、クライエントの「自分で選び自分で決めたい」という欲求に寄り添った考え方で、意思決定の主体はクライエントであるという原則です。
利用するサービスの選択やお金の使途など、人生の選択、決定はクライエント自身が行うものであり、ワーカーの役割はクライエントの自己決定を促して尊重し、その条件整備に努めることにあります。
❼「秘密保持の原則」とは、「秘密を守ってほしい」というクライエントの想いに寄り添った考え方で、クライエントの情報を他に漏らさない原則です。
クライエントからの信頼を獲得するため秘密保持は絶対に守られなければなりません。
但し、虐待や DV などクライエントの生命が脅かされるような危機的な事態が想定されるときは、しかるべき支援機関に通告することが求められるため、秘密保持が解かれる場合もあります。
ソーシャルワークの理論と方法(専門)