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母の教え№18 しつけと子育て(4) 6 うちの重喜ちゃん
6 うちの重喜ちゃん
近所には、いろいろと豪快なおばさん達がたくさん住んでいた。特に、戦後間近の私達の地域には、各家庭にたくさんの子供がいて、夜遅くまで戸外で遊んでいる姿がよく見られた。
子供達が危ないことや悪い事をすると、どこの子であろうと、近くにいた大人が厳しく叱るのが常識となっていたように思う。
隣の八人の子供を持つおばさんは、特に、豪快な人で、自分の子も他人の子も同じように怒ることで有名だった。
ある日の夕方、戸外で皆が遊んでいると、そのおばさんが来て……、
『敦! うちの重喜ちゃんを知らんか!』と言って、自分の子供を捜しにきた。その声は、大きくそこら中に響いたので、当然、私の母もその顛末を聞いていた。その晩の話し合いの中で、夕方のこのことが話題となった。
『よその子を〝敦〟と呼び捨てにして、自分の子に〝重喜ちゃん〟と〝ちゃん〟付けに呼ぶのはおかしいと思う』と母が指摘した。
この他にも、『この間、このおばさんのうちに回覧板を持って行った時、座敷に立ったまま上から見下ろしながら話されたが、こんな時は、座敷に膝をついて、相手と同じか、より低い目線で話さなければならない』とか、『襖は、座って閉めろ……』『座布団は、勧められて、初めて座れ……』などと、いろいろと常識的なことをたくさん話してくれた。
今はよく覚えていないことも、その場に当たった時に、自然と思い出すことが多い。
今だに、『大人になってするかせんかは、お前らの勝手だが、一応、母ちゃんの考え方を教えておくから……』と言って、くどいように言われた母の顔を思い出してしまう。