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母の教え№23  嫁と姑たちの戦い(5)  5 嘘(うそ)


〝嘘は泥棒の始まり〟と言われ、一般的に子供が嘘をつくことを戒めていたが、母は、よく私たちに嘘をつくように指示していた。
 母の持論は、『自分が得をしたり、自分の意見を通すための嘘は駄目で、相手を擁護したり、相手のためになる嘘は、時にはついても良い』というのである。「嘘も方便」というのが母の方便である。
 姑たちは、芝居や見世物が大好きだったが、全然収入がなかったので、正月と旧正月にある小中学校合同の学芸会と青年団主催の演芸会以外は、ほとんど見に行くことはなかった。
 私の家の裏口から出たところに、「久美愛座」という劇場があり、年に何度か芝居や見世物がかかっていた。
 母も芝居等が好きだったので、地方巡業にきたときは、有り金を叩いてでも、ほとんど観に行っていた。

 『芝居は、世の中の縮図を短時間で見せるので、人生の参考になる』と言って、私たちも貧乏人の割には、良く連れて行ってくれた。
 劇場の〝こけら落とし〟の歌舞伎とか、大友柳太郎・羅門光三郎という、後に映画俳優として活躍した人の芝居、引田天功の手品や人形芝居など、当時、地方巡業に来たものは、私たち兄弟は、ほとんど観た記憶が残っている。
 その時には、必ず、母は、姑たちの入場料を出して誘うのだが、もって行き方が悪いとなかなか出てこないので、困ってしまうことが多かった。
 母が直接誘うと、行きたい癖に『贅沢だ!』とか、『身体の調子が悪い』とか言って断るので、よく私たちを使って誘い出しをしていた。
 『今度は、お前が祖母ちゃん達を誘いに行け、残りのお前らは、早めに劇場に座布団を持って行き、一番良い場所を押さえよ!』と二手に分かれて、交替でよく誘い出しに行かされた。
 特に、長兄が誘いに行くと、ほとんど喜んで出てきたが、常にこの手ばかりを使うと、こちらの作戦がばれるので、毎回、この手は使えなかった。
 姑たちを行かせるために、高い金を出して買った入場券でも、『誰かにただでもらった入場券だ』と嘘をついて進めたこともあった。
 『今回、母ちゃんは、忙しくて行かれないから……』と嘘をついて誘うと、二人共喜んで何時もより早く出てきた。

 母は、芝居が始まる寸前に『用事が済んだので来た』と後から観に来ることも多かった。
 私は、子供心に不思議でならかったので、「どうして、嘘までついて祖母ちゃん達を誘うのか?」と聞いたら……、
 『お祖母ちゃんたちは、芝居が大好きじゃけん、母ちゃんは観せたいだけよ!』と言って笑っていた。

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