見出し画像

母の教え№17 しつけと子育て(3)   4 敷居の上に立つお嬢さん      5 鯖の煮つけの話



4 敷居の上に立つお嬢さん

 最近の家には、ドアのある玄関が多く、敷居のある出入口は少なくなった。『玄関の敷居は、その家の主人の頭だから、踏んではいけない、必ず、跨いで入れ!』
と何時も言われていたが、ついつい忘れて踏んでしまい、怒鳴られることが多かった。


 家が床屋だったので、店に出入する玄関と家の者が出入する玄関と、二か所に敷居があった。どちらもよその敷居よりも、5~6㎝高かったので、子供が跨ぐには少し高すぎたように思う。その分、敷居を踏むことも多く、怒られる機会も多かった。


 ある日、母が、近所に用事があって店を留守にし、帰宅したところ、お客さんが来ていた。お客さんは、地域の良家のお嬢さんだったが、店の敷居の上に立って、首を長くして私達の帰るのを待っていた。
 『小母ちゃん、どこに行っていたの?』とニコニコしながら、愛らしく手を振って迎えてくれた。背が高く器量よしで、地域でも評判の娘さんだったので、子供心にもワクワクした気分だった。
 お嬢さんが用事を済ませて帰った後、母が私に向って、さも残念そうにポツリと呟いた。
 『可哀そうに、敷居の上に立ったらいけんことを、親は教えていないのかねえ!』『機会があったら、一度、話してあげんといけんね!…』
とポツンと母が言ったが、そのお嬢さんは間も無く嫁いで行かれたので、その機会はなかったように思う。


 私は、余りのショックな出来事だったので、今でもその時の状況をハッキリと覚えている。


5 鯖の煮付けの話

 近所の一人息子のところに、お嫁さんが嫁いできた。大変控えめで優しいとの評判の人で、お姑さんとも仲良く過ごされていた。


 一ヶ月ほど経ったある日、そのお嫁さんがしょんぼりされていたので気になり、母が声を掛けたら、次のような話があったとか…
お嫁さんの話によると…、
 『晩御飯の御数に鯖の煮つけを作った時は、毎回、三等分して、一番真ん中をご主人に、その上の美味しい栄養のある腹の部分をお母さんに差し上げ、やせこけた尻尾の方を自分が取っていたら……
 主人の母が……、
 『うちの嫁は、“一番嫌いな油の濃いい腹の部分ばかり、私にくれる”と ご主人に愚痴を洩らされた…』と悩んでおられたそうだ。


 話をよく聞いてみると、主人の母は、鯖の腹の油身の部分が一番嫌いで、お嫁さんは、油の乗った鯖のお腹の部分が、一番食べたかったようだ。
 しかし、何時もその部分を大切なお母さんに差し出し、自分は美味しくない尻尾の方を食べていたと言うのだ……
 『嫁姑の間は、難しいというが、一番典型的な行き違いだ。いくら相手のことを大切に思っていても、こちらの一方的な思いを相手に押し付けてはいない』『いくら寝食を共にしている親子でも、相手の考えていることまでは分からない』

 『分からん時は、口に出して言ってみることが大切だ!』というのが母の教えである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?