「誰一人取り残されない」SDGsの本義とゴルフ場経営(後編)
人と人の「つながり」が新たな経営資本になる
ここまでの話だと、慈善事業に注力するだけの印象かもしれないが、そうではない。ぼくは、SDGsを体現することが企業活動を爆発的に前進させる、イノベーション創出の最大の機会だと考えている。
イノベーションは、シュンペーターが「経済発展の理論」の中で用いた「新結合」と訳されることが多いが、その原義は「生産をするということは、われわれの利用しうる色々な物や力を結合することである。生産物および生産方法の変更とは、これらの物や力の結合をすること(※3)」である。つまり既存の知と既存の知の結合(かけ合わせ)から、企業が進化を遂げるために必要な源泉が生まれる、ということだ。
ゴルフ場はノンゴルファーを受け入れることが少ないが、それはゴルフ場業界がイノベーションとは程遠いメンタリティにあることを示している。ゴルフ業界は良くも悪くも排他性が強いと感じる。ゴルフ場を開かれた場所にし、ゴルフ場でチャレンジしてみたい願いや想いを集めて実行していけば、この場所を核とした「結合」が次々と生まれる。前号までに紹介したフットゴルフや地域のマラソン大会をセブンハンドレッドで開催したら、これに連なる案件が続々と寄せられるようになってもいる。
現在、社名にかこつけて「セブンハンドレッドトライアル」を実施している。これは、年間で700個の新しいトライ(取組み)を生み出そうというチャレンジだ。700個のトライをすれば、必ずヒットが出る!という想いの下、スタッフ全員で新しいことにチャレンジしているのだ。
一見、無謀かもしれないが、だからこそ「新結合」が重要になる。社内の発想だけでは限りがあるため、顧客や会員、地域住民、または広大な敷地を使って「楽しみたい」と思う人からアイデアをもらい、一緒に実行していくのだ。今まで出来なかったことが、出来る!となると、様々な意見が集まってくるし、事実セブンハンドレッドでは様々な取組みが生まれ始めている。お金がイノベーションに変わるわけではない。人と人との繋がりである「人的資本」が新しい資本を生む原資となる時代だからこそ、ゴルフ場にはイノベーションを生む無限の可能性があると信じている。
※1蟹江憲史「SDGs(持続可能な開発目標)」、中公新書、2020年。一部筆者が加筆
※2阿部佳「わたしはコンシュルジュ」、講談社、2010年。※3ヨーゼフ・シュンペーター、(1997)「経済発展の理論」(塩野谷祐一他訳)岩波書店。
本記事は、ゴルフ用品界社出版のゴルフ エコノミック ワールド 2021年7月号 (発売日2021年07月01日)において連載中「熱血タックル !ゴルフ界に新たな風を 第3回」を編集した文章になります。
小林忠広
株式会社セブンハンドレッド代表取締役社長/株式会社住地ゴルフ代表取締役社長/NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブ代表理事
慶應義塾大学法学部卒、同大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了。日本ラグビー協会U20日本代表総務補佐を経て現職。2016年6月、セブンハンドレッド入社、2019年4月社長就任。ビジョンは「みんなが幸せを実感できるゴルフ場」、地域とゴルフ場の融合を図り、次世代ゴルフ場作りを目指す。2021年1月に住地ゴルフ社長に就任。
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