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繊細さんはピエロが苦手

もし、ピエロを生業としている方がこれを読んで下さっている場合は、伏して心よりお詫びする。
そして「お前ごときに、ピエロの大変さが分かるか!」と往復ビンタをされても構わない…という覚悟の上で、私は今回の記事を書いているので、どうかお許し願いたい…。

もちろんピエロという職業は豊かな表現力やパントマイム等が求められ、誰もが簡単に出来るような仕事ではない。
人を笑顔にする素晴らしいエンターテイメントだと認識しているし、函館名物の【ラッキーピエロ】のチャイニーズバーガーは死ぬほど好きだ(←それは関係ないだろというツッコミは、今の私の耳には届かない)。

そもそも、私がピエロに苦手意識を抱いたキッカケについて書き進めていこう。

私は、小さい頃から人形やマネキンが怖くて仕方なかった。
人間の形をしているくせに、全く人間味が感じられないのがあまりにも不気味で、初めてデパートでマネキンを見た時は大声で泣き叫んだ記憶がある。

そして、ピエロに対しても「メイクが濃くて素顔が分からないし、変な服を着ている異質な存在」という印象を抱いていた。

普段の生活で生身のピエロに会う機会は殆ど無いにも関わらず、キャラクターグッズや玩具など商品化される事も多いので【会った事が無い人物なのに、気付けば身近に存在する】という不気味さ。
私の脳内ではいつしか、意思の疎通が出来ないマネキンと、異質な存在のピエロが同類項になっていったのだ。

そして、ピエロに対する苦手意識を確定した決定的要因は2本の映画である。
まず筆頭に挙げるのは【IT】という米国のホラー映画だ。

この映画をご覧になった方もいるだろうが、神出鬼没の殺人ピエロが近隣の子供達を大量殺戮する…という、身の毛がよだつストーリーである。
超人的なサイコ野郎のピエロが、不気味な笑顔を浮かべながら情け容赦なく子供を襲う映像は、トラウマ級であった。

ちなみに、私は怖がりで繊細なくせに意外とこの手の映画を好む。そして見た後に必ず後悔するのだが、怖いもの見たさが止められないという学習能力が欠如した人間なので、仕方が無いのだ。

そしてもう1本の映画は、タイトルはおろかストーリーも殆ど覚えていない、古い作品だ。
主人公は50代位の男性で、妻を亡くしたのか独身なのか知らないが、とにかく孤独な生活をしている。

外ではコミカルな動きで子供達に風船を配り近隣からも慕われる優しい善人ピエロだが、帰宅後はぐったり肩を落とし、夕陽を背に無言で涙を流しメイクを落とすのである。

多くの視聴者は彼の物悲しい姿に感涙するのであろうが、神経細胞の接続が乱れ飛んでいる私は憤然とした。

仕事終わりにシクシク泣くほど辛いならピエロなんか辞めりゃ良いのに、いかにも「こんなに孤独で惨めな俺を、どうか皆で笑ってくれよ」と言わんばかりの自己犠牲の押し売りに呆れたのだ。
作品に感情移入するどころか(この男は、とんでもない偽善者だな)と、すっかり主人公を嫌いになったのである。

今でもピエロは得意分野ではないし、体調が悪い時は、マクドナルドのドナルドを見ただけで胸焼けしそうになる。
1度でも「ピエロと関わりを持つと、自分の精神が落ち込む」という思いを味わうと、なかなかそこから脱却できないのが私の繊細さなのであろう。

大事な事は忘れるのに、しょうもない事は忘れない…。そんな繰り返しの人生を送っている自分に嫌気が差しつつ、少しずつでも苦手な物から解放されたいと思いながら、今日も私は生きている。

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