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【エッセイ】彼のトマトソースウインナーチーズは、
トマトソースとウインナーとチーズ。
この3つの組み合わせは大体はずれがなくて、美味しい。
誰が作ったものだとしても、想定通りにおいしい味にたどり着ける。
そう、だから私はあのクレープを頼んだのだ。
ちょっとジャンキーで、おいしいお惣菜系クレープが食べたかったから。
そのキッチンカーは毎週水曜日にやって来る。
利用するのは3回目だけど、マスターの人柄が好きで、空いているときを見計らって、つい、話しに行ってしまうから、顔見知り以上には仲良くなれていると思う。
あのときは、おおぶりなウインナーにとろけたチーズ、野菜、そしてトマトソースが入ったボリューム満点のクレープが目に留まった。
即決。おいしいに決まっている。
マスターからクレープを受け取ると、うきうきしてベンチに座った。
そして、がぶりっ!とかじりついた。…のだが…
「なんか、違う…?」
ちがった。なにかがいろいろ絶妙に異なっていた。
ド定番の組み合わせのはずなのに、味は思っていたのと全然違った。
トマトソースには異国のスパイスが入っていたし、びっくりするほどさらさらだった。ウインナーもはじめての味がした。チーズにも知らない香りが漂っていた。どれもきっと地元のスーパーでは売ってない。
食材はよく見知ったものだった。そのはずだった。そう思い込んでいた。
マスターとは話が合った。馴染みの客になった。そんな気がしてた。
だからマスターのトマトソースウインナーチーズは、私の「ド定番」と同じだと思っていた。まさかこんなに違うなんて。
人間ってやっぱりちがうのね、知ってた知ってた、なんて思いながら、
やっぱりちょっとだけ寂しかった。