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金木犀が香る

今年はじめての金木犀の香りだった。なぜなのかわからないけれど、あの香を嗅ぐとそのかおりの元を探したくなる。ああ、今年も秋が来た、と思う。

木を探しても、見つかるときと見つからないときがある。隠れるには難しいほどにかおりを放っているのに、どうしてなのだろう。

見つからないときのパターンはいくつかあるが、今年の敗因は「想像よりも花が咲いていなかったから」だった。鼻孔を通って肺いっぱいに広がるあのにおいに、わたしは満開の花々を想像してしまったのだった。

見渡せどオレンジ色の木が見つからない。あたりに漂う匂いが濃いから、すぐ近くなのはわかっている。

そのうち母が言った。「そこの木でしょ?」

なんとすぐそこに、ほぼ緑色の木があった。頂点の部分にほんの少しだけ花が咲いていて、想像とまるで違う。

時期的にこの地域では咲き始めだし、もうすこし考えれば木の姿がわかったのかもしれない。だけどわたしの頭にはオレンジの木以外浮かばなかった。わたしの目にはまだ、物事の一面しか映っていないのかもしれない。

来年は、もっとたくさんの金木犀の姿が脳裏に映ってほしい。

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