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デビッド・ロスのウィングド・シルバーにおけるセリフの役割(英語のセリフを解説)

デビッド・ロス(David Roth)のウィングド・シルバー(Winged Silver)というマジックがある。4枚のコインが1枚ずつ右手から左手に移動していくという現象で、この種類の現象は様々なやり方がある中で、ウィングド・シルバーはハンドリングから見るとかなりダイレクトかつ力技ともいえる手法で構成されている。解説を本で読んだときには、実際にこれは成立するのか、不思議に見せることが出来るのかと感じた。現象はシンプルであるにも関わらず、頻繁にコインを持ち替える必要があり、見た目といわゆるシークレット・ムーブを行う時間をずらせるような余地も低い。一見、同じ現象の繰り返しに見えるけども様々な手法を駆使しており見る側の想像の隙を突く…ようなハンドリングでもないからだ。

しかし、実際に本人の演技をテレビで見たときにその認識が一変した。彼の流れるような動きと、テンポの速いリズムであっという間に4枚のコインが一点の疑問の余地もないままに右から左に一枚ずつ移動した。あれほど、どうすれば「らしく」見えるだろうかと考えていたシャトル・パスの説得力は想像を超えていた。私が常々(嘘、たまに)言っている本物よりもリアルなフェイクのとても良い例だと思う。マジックの動作を練習する際に昔からよく言われている、「まずは本当の動作を鏡の前で演じて自分がどう動くかを観察し、フェイクの動作もそれと同じに見えるように練習すること」という考え方ではあそこには到達するのは難しいだろう。

彼のシャトル・パスがウィングド・シルバーをマジックとして成立させるのに大きな役割を担っているのは多くの人にとって異論はないと思うが、もう一点あまり語られることがないのが彼のセリフの組み方である。彼のセリフは他の演技においても多くの場合、実際に目の前で起こっていることをそのまま言及するタイプで、何度もコインを持ち替えなければならない状況を上手にセリフで正当化している。しかも、文単位で動作とセリフが一致しているのでなく、文を構成している単語単位で一致している部分が少なくない。

さて、今回はウィングド・シルバーを取り上げてそのセリフと動作の一致について解説したので、よろしければ以下の動画をご覧いただければと思う。

一点だけビデオの中の解説からここに抜き出して書いてみると、最初のコインが移動した後にシャトル・パスを行うがこの際のセリフは
This coin used to be over there...
ここでThis coinと言ったときに左手でコインを取り上げ、used to beのときに左手から右手に渡し、over thereを言ったときにその右手のコインで、右側に残っているコインを示すのである。そしてセリフが続き、
... but it jumped here.
のときに、右手のコインを左手に投げ入れる。こうすることでコインを取り上げてから左手に渡すまでの動作がセリフと一致する。これを普通に話す速度でセリフを発しそれに呼応させて手を動かす。決して手の動きに合わせてセリフが着いてきているわけでない。

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