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2025年ベトナムEC市場の現状と成長予測(2024年との比較)
1.市場規模の予測(2024年→2025年)
ベトナムのEC市場は近年急速に拡大しており、2024年には小売EC売上が前年から20%増加し約250億米ドルに達したと推計されています。これは2014年時点の約29億ドルから大幅な増加で、2014-2023年に年20~30%の成長率を維持した結果です。ECが小売全体に占める比率も2023年時点で約8~9%に達しています。2025年には市場規模がおよそ350億ドルに拡大すると予測されており、これは2024年からさらに約40%もの増加を見込む力強い成長予測です。年間成長率は引き続き20%以上を維持し、今後も安定した二桁成長が続く見通しです。長期的には2030年にベトナムEC市場規模が630億ドル規模に達するとの予測もあり(年平均成長率約19%)、堅調な拡大が見込まれています。
2.主要プレイヤーのシェア動向
ベトナムのEC市場はShopee(シンガポール資本)が圧倒的首位で、2024年には市場シェア約70%を占めます。急成長中のTikTok Shop(中国系・2022年本格参入)は2024年にシェア20%以上に達し、Alibaba傘下のLazadaを追い抜いて第2位となりました。
一方でLazadaのシェアは10%未満に低下し、国内勢のTikiやSendoもシェア低迷が続いています(Tikiは約1%、Sendoも数%未満)。ある調査によれば、2024年Q2時点でShopeeが約71.4%、TikTok Shopが22%を占め、両者合計で市場の93.4%に達している状況です。つまりEC市場はShopeeとTikTok Shopの「2強」体制に収れんしつつあり、他社との格差が拡大しています。特にTikTok Shopは2024年に前年同期比+110%という爆発的成長(2024年Q3)を記録しており、2025年もこの2強が市場を牽引する見通しです。新規参入の動きもあり、例えば中国発の格安ECアプリTemu(騰訊系)やファッションECのSheinが2024年にベトナム市場に登場しつつあり、市場シェア争いがさらに激化する可能性があります。
3.市場全体の傾向(消費者動向・購買力・売れ筋)
オンライン購入者の増加と購買力向上
若年層を中心としたデジタル世代の台頭や中間所得層の拡大により、EC利用者数と購買力が大きく伸びています 。2024年には 4大ECプラットフォームだけで購入者数が前年より40%増加するなどオンラインショッピング習慣が定着し 、政府も2025年までに国民の55%がオンライン買物を利用するとの目標を掲げています 。国内消費そのものも経済成長の原動力となりつつあり、小売業の利益成長率は2024年の+14%から2025年は+17%に加速する見通しで、輸出主導から消費主導へとシフトしています。
モバイル・ソーシャルコマースの隆盛
ベトナムでは購入の70%近くがスマートフォン経由で行われており 、FacebookやTikTokといったSNS上で直接買い物できる「ソーシャルコマース」が急成長しています。ライブ配信や短尺動画を通じた商品の紹介・販売(いわゆるライブコマース)が人気で、2024年にはShopee上で累計2.6億時間ものショッピング関連動画が視聴されるなど消費者の娯楽を兼ねた購買行動が広がりました 。TikTok Shopもライブコマースを主要な成長エンジンとして活用しており、SNSとECの融合が市場の重要トレンドです 。ソーシャルコマース市場規模は2024年に45億ドル規模に達すると推計され、企業にとって消費者と接点を持つ有力チャネルとなっています。
積極的な販促競争と消費者志向の変化
各プラットフォームは値引きや送料無料、クーポン配布といった積極的なプロモーション施策で消費者を獲得しており、その大規模割引合戦や送料無料キャンペーンが市場成長を後押ししました 。消費者側もセールやキャンペーン時にまとめ買いする傾向が強まっています。例えば2024年末の年貨シーズン(テト正月商戦)ではShopee上でアオザイ(伝統衣装)が800万着、ギフトバスケットが200万セット売れるなど、季節イベント時に爆発的な売上が発生しました 。このように値引きへの敏感さやイベント連動の購買が顕著で、各社は大型セール日(例: ダブルデーセール11/11や12/12など)に照準を合わせたマーケティング戦略を展開しています。
人気商品カテゴリの動向
ベトナムECで特に売れ筋となっているのは電子機器、ファッション、コスメ・美容用品、家庭用電化製品などです 。中でもファッション・アクセサリー分野はTikTok ShopではGMV(取扱高)の37.5%を占める最大カテゴリとなっており、若者を中心に安価な衣料品や雑貨がオンラインで大量に購入されています 。一方、Shopeeでは商品カテゴリーがより多様化しており、スマホ・家電から日用品まで幅広く売れています 。今後も都市部だけでなく地方部でのインターネット普及と物流網整備に伴い、農村部での生活用品や食品のオンライン購入も増加すると予想され、取り扱い商品のさらなる拡充が進むでしょう。
4.競争環境の変化(海外セラーの影響・中小企業/ブランドの戦略)
海外勢・越境ECの影響
ベトナムのEC市場では、中国をはじめとする海外セラーや海外プラットフォームの存在感が増大しています。ShopeeやLazada上では中国からの直送品が低価格で数多く販売されており、国内セラーとの競争を激化させています。また中国発の新興プラットフォームであるTemuやSheinが無許可のまま市場に参入し急速に存在感を高めており 、大規模なマーケティング投資でユーザー獲得を狙っています。Temuは全品送料無料、配達遅延時の返金保証、最大99%オフの極端なディスカウントなど破格の戦略で短期間にユーザーを集めており 、数十万人規模のユーザーがアフィリエイトプログラムによる紹介キャンペーンに参加するなど話題を呼びました 。このような海外勢の攻勢は既存プレイヤーにとって脅威であり、価格競争やサービス競争が一段と激しくなっています。一方でベトナム企業による越境ECも活発化しており、国内の中小企業がAmazonやAlibabaなどを通じて海外市場に製品を販売する動きも加速しています。ベトナムのB2C越境EC輸出額は2028年までに約145.2兆ドン(58億米ドル)に達すると試算されており、中小企業がその25%を担うと見込まれています 。このように海外からの流入と海外への展開の両面で市場の国際化が進んでいます。
国内中小企業・ブランドの戦略
国内の中小企業やブランド各社も生き残りを図るため、ECへの対応を経営戦略の中心に据えています。多くの企業がShopeeやLazada内に公式ストアを開設し、オンライン専用商品や特典を提供するなどして集客を図っています。また自社サイトやFacebookを活用した直販、チャットアプリ(Zaloなど)での顧客対応などオムニチャネル戦略を展開し、オンラインとオフラインの融合で顧客体験向上に努めています。迅速な配送やカスタマーサービスも競争力の鍵であり、例えば国内EC企業のTikiは自前の強力な物流網を武器に翌日配送サービスを提供して信頼性を訴求し、Sendoは地方農村部の顧客基盤にフォーカスする差別化戦略を取っています。加えて、プラットフォーム上での顧客レビュー管理や公式認証マーク(Shopee MallやLazMallへの出店)を通じて信頼性の確保とブランド価値向上に注力しています。政府や業界団体も中小企業のデジタルシフトを支援しており、研修や補助金を通じて伝統的企業のEC参入を促進しています。その結果、ECを活用して大きく売上を伸ばす企業も増えており、中小企業の市場参入が市場全体の活性化につながっています 。
5.政府の規制・政策の影響
ベトナム政府は急成長するEC市場に対応すべく、法規制の整備と産業振興の双方で積極的な施策を講じています。
包括的なEC法の策定
工商省(MoIT)は現行の政令体系を統合し包括的な「電子商取引法」を制定する計画を進めています 。デジタルプラットフォームや仲介事業者の定義を明確化し、違法商品の販売禁止やサイバーセキュリティ対策、電子契約の信頼性確保などを網羅する内容で、急速に進化するビジネスモデルの法の抜け穴を埋める狙いがあります 。2025年10月に国会提出、2026年5月の可決を目指しており、これによりEC分野の明確なルール基盤が整備される見通しです 。
税制・徴税の強化
急成長するEC取引から漏れなく税収を確保するため、2024年末に改正付加価値税法・税管理法が可決され、2025年初よりECプラットフォーム運営事業者に対し出店者(個人事業者)の代わりにVAT等税金を源泉徴収・申告・納税する義務が課されます 。これによりオンライン上の中小事業者の課税漏れ対策が強化され、公平な競争環境が促進されます。また海外の無法人事業者による電子的サービスにもVAT納税義務を明確化するなど 、デジタル経済に対応した税制度整備が進んでいます。さらに小口輸入商品に対する免税基準(100万VND未満の輸入税非課税の撤廃)の見直しや越境EC取引の申告制度強化も導入予定であり、海外通販による税収流出を防ぐ措置が取られつつあります。
キャッシュレス・EC普及政策
政府はデジタル経済戦略の一環としてキャッシュレス決済やEC利用の普及目標を掲げ、各種支援策を展開しています。先述の通り「2025年までに人口の55%がオンラインショッピング利用、50%がキャッシュレス決済利用」という具体的目標を設定し 、QRコード決済やモバイルウォレットのインフラ整備、銀行口座普及促進などを推進中です。実際、都市部を中心に電子決済が浸透しつつあり、代引き(Cash on Delivery)に依存していた消費者の決済行動にも変化が出ています。また景気刺激策としてVAT(付加価値税)の2%減税措置が2025年6月末まで延長されるなど 、消費全体を下支えする政策もEC市場の成長を後押ししています。加えて、物流インフラ改善や通信ネットワーク拡充への投資も行われており、EC利用環境の向上に寄与しています。
プラットフォーム規制と消費者保護
当局はECプラットフォーム上の取引健全化にも注力しており、違法商品・模倣品の取締りやデータ国内保管の義務化などを進めています。例えば情報通信省はTikTok Shopが越境プラットフォームとして複数の法令違反(出店者情報の未開示、不適切な商品情報管理等)を犯していると2023年に指摘し 、工商省と連携して是正を要求しました。同プラットフォームに対しては出店者情報の提供や税務申告への協力、違反商品の24時間以内削除、知的財産侵害商品の排除など、消費者保護の徹底と法令順守を求めています 。このように政府はプラットフォーム企業に対しても規制遵守と利用者保護を強く促す姿勢を示しており、必要に応じて罰則や是正命令が発動されています(実際インドネシアではTikTokのEC機能禁止措置が取られており、ベトナムでも違法・有害コンテンツが是正されない場合同様の制裁が検討され得る状況です)。全体として、政府の政策は市場健全化と持続的発展の土台作りに向けたものが多く、これらは中長期的にベトナムEC市場の信頼性向上と成長促進につながるでしょう。
まとめ:2024年から2025年にかけての成長性評価
ベトナムのEC市場は2024年に記録的な成長を遂げ、2025年もそれを上回る勢いで拡大する見込みです。2024年は主要プラットフォーム合計の取扱高が前年比約40%増と予測を上回る伸びを示し 、市場規模は約250億ドルに到達しました 。この成長を支えたのは、若い消費者層のオンライン購買習慣の定着、積極的な値引き競争、新規参入による市場活性化などです。
2025年には市場規模350億ドルというさらなる飛躍が予想されており 、ECが小売全体に占める存在感も一段と高まるでしょう。主要プレイヤーではShopeeとTikTok Shopの寡占傾向が強まりつつありますが、それに対抗すべく他社も戦略を練り直しており、新規プレイヤーの動向も含め競争は依然熾烈です。消費者側ではオンラインで購入する層が都市部以外にも広がり、購入カテゴリーや手段の多様化が進んでいます。政府の積極的な産業支援と規制整備も相まって、市場はより成熟度を増しつつ拡大を続ける見通しです。
総じて2024年と比較して2025年のベトナムEC市場はさらに高い成長率と拡大ペースを示すと予測され、中長期的にも東南アジア有数の成長市場として非常に高い成長性を有しています 。企業にとってベトナムのデジタル消費市場は今後も魅力的な投資分野であり、この成長波及の恩恵を受けるチャンスが大きいと言えるでしょう。