「表現」で魅せるショパンとリスト。 〜『長富彩 ピアノ・リサイタル』 聞きどころのご紹介!〜
6月16日(金)、東京・浜離宮朝日ホールにて『長富彩 ピアノ・リサイタル』を開催いたします!
今回はその見どころ・聞きポイントをご紹介。すでにチケットをご購入いただいた皆様も、購入を迷っている皆様も、これを読めばよりリサイタルが楽しみになる内容をお届けします!
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2010年のデビュー以来、代名詞ともいえるリストをはじめ、ショパン、ベートーヴェン、ラヴェル、シューマンなど様々な作曲家に取り組んできた長富彩。
今回のリサイタルでは、デビュー・リサイタル以降、ともに歩んできたホールである東京・浜離宮朝日ホールで、同時代の作曲家・ショパンとリストの2人に焦点を当てたプログラムをお届けいたします。
ロマン派の時代にピアノ作品を数多く残した2人。前半はそれぞれのピアノソロの曲を4曲、そして後半ではショパンのピアノ協奏曲第1番(室内編成版)をお届けする、2人の魅力を存分に味わえる内容です。
ポイント① 「ショパンの生きた時代」と「現代」をつなぐ演奏
前半はショパンからは2曲、『バラード第1番』と『舟歌』をお届け。
ショパンでも人気曲の一つ、『バラード第1番』。ため息や鼓動のような要素が見えつつ、急き立つ思いや情熱的な歌など、激しい心の動きが表現されたこの曲、実は同時代の作曲家・シューマンが『最も好きな曲』とショパンにも伝えた1曲です(さらにはショパン自身がそれに『僕も好きな曲』と答えたという逸話も)。ここ1, 2年、集中的にシューマンに取り組んでいる長富にとっては特別な1曲とのこと。
そしてソロではもう1曲、『舟歌』を演奏。『舟歌』は今回が初挑戦となるという長富、今回のリサイタルに向けて取り組むまでは『食わず嫌い』だったと語っています。ゴンドラの揺らぎ、水面の揺らめきなど様々な情景を表現していく内容は、長富自身が『情景の表現が得意かつ好きな、私にあった曲』とも語っています。初披露ですが、期待大の曲目です。
今回のリサイタルでの注目は、その演奏スタイル。
2019年、長富は浜離宮朝日ホールでのリサイタルで、ショパンの生きた時代に製造されたプレイエルのピアノでの演奏を行いました。
映像は長富が弾いたピアノと同じ、1843年製のプレイエル。現代のピアノより柔らかな音色が印象的ですが、ピアノとしては、音量の大小がつけづらく、現代のピアノで弾くような快速・かっこいい演奏は到底無理なピアノだったと長富は振り返っています。必要だったのは、音楽を揺らす『横の幅』。現代ならやりすぎ、とも言われかねないような音の揺らぎが、表現の中心となったのです。
今回は現代のピアノでお届けしますが、その『プレイエルでの演奏経験を大事にした演奏にしたい』と長富は語っています。現代のピアノでの表現に、ショパン当時の演奏表現を取り込んだ、まさに過去と現代が融合した演奏。『ショパン大好き!』という皆さまにとっても、きっと新しい体験をしていただける内容です。
【参考動画】
長富彩(ピアノ)
ショパン:ノクターン第1番変ロ短調 Op. 9-1
…直近のYouTube投稿より、ショパンのノクターン第1番をお届けします。
ポイント② 超絶技巧の先にある魅力 〜リスト〜
そしてリストからは、『メフィスト・ワルツ第1番』と『ラ・カンパネラ』をお届け。ともに超絶技巧の極致とも言える箇所が続きますが、長富曰く『超絶技巧とは別のところに魅力がある』作品と語ります。
『メフィスト・ワルツ第1番』の見どころは、曲が表現する豊かな物語。
ドイツに伝説として伝わる『ファウスト』の物語に基づくこの曲。知識に飽き飽きした学者・ファウストと、彼が魂と引き換えに契約した悪魔・メフィストフェレスが、様々な浮世の享楽を魔法とともに駆け巡る内容の『ファウスト』ですが、ここで題材となるのは、『村の中の居酒屋での踊り』の情景。
ある村の居酒屋を訪れたメフィストフェレスとファウスト。男女の集うその居酒屋で、メフィストフェレスが吟遊詩人のヴァイオリンを奪って弾き始めると、途端に居酒屋が狂乱の渦へと呑まれていきます。ファウストはその中で美女を一人捕まえて、そのまま居酒屋の外へ。ナイチンゲールの鳴く中で二人は愛を語り合います…
実際の曲中にもその物語が表現し尽くされています。冒頭の連打が表現するのはメフィストフェレスが奪ったヴァイオリンを調弦する様子。演奏の準備のはずの調弦ですが、ここから聴き手を飲み込んでいくようなおどろおどろしい雰囲気に。
前半は、村の居酒屋を魔法の渦に巻き込んでいき、中間では一転、ファウストが愛をささやく妖艶な雰囲気に包まれ、ナイチンゲールの鳴き声も聞こえてきます。そして最後にはそんな互いの雰囲気が交錯しながら壮大なクライマックスを迎えます。
長富曰く、『演奏のスリルを忘れてしまうほど、充実したドラマを表現しているとどんどん駆け抜けてしまう』とのこと。物語をイメージしながら曲を聴いていただくとより曲をお楽しみいただけること間違いなしです。
そしてもう1曲の『ラ・カンパネラ』は、同時代の超絶技巧ヴァイオリニスト、パガニーニの作品のメロディを元にした作品。パガニーニのヴィルトゥオーゾぶりを思わせるような、技巧の極致を尽くしながら連打されるE♭(ミのフラット)の音が『鐘』を表現しつつも、美しいメロディ・響きが各所に散りばめられています。
長富にとっては、デビュー前に注目を集めるきっかけとなった曲であり、それから様々な機会での演奏を経て、もう100回以上は演奏しているというこの曲ですが、リサイタルで取り上げるのは久しぶりとの事。『まっさらな新たな気持ちで取り組む』と語る今回の演奏、どのような演奏となるのか注目です。
長富曰く「好きな作曲家であり、私に合っている作曲家」のリスト。超絶技巧のオンパレードの各曲ですが、それだからこそ『技巧に走らず、"歌心" を大事にしたい』と語ります。『メフィスト・ワルツ第1番』のドラマ、そして『ラ・カンパネラ』の美しいメロディといった、長富だからこそ表現できるリストの音楽に期待です。
【参考動画】
長富彩(ピアノ)
リスト:メフィスト・ワルツ第1番 S.514 R.181
ポイント③ 小編成『だからこそ』楽しめる! 〜ショパンのピアノ協奏曲〜
公演の最後を飾るのは、ショパンのピアノ協奏曲第1番。バックを務めるのは、小林雄太を指揮に迎えたタクティカートオーケストラの弦楽器メンバーです。
勿論、本来はフル編成のオーケストラが伴奏を務めるこの曲ですが、今回は浜離宮のステージに合わせて弦楽器のみの小編成でお届け。
小編成=スケールダウンと思われそうですが、実はそんなことはありません。オケ v.s. ピアノとなりがちな協奏曲ですが、小編成だからこそ、オーケストラ団員も一体となった、密度の濃いアンサンブルをお届けできるのです。
さらには、ショパンのピアノ協奏曲は作曲当時、ピアノの音量が出づらかったこともあり、フルオーケストラで伴奏されることはまれで、ショパン自身も今回のような小編成による伴奏での演奏を好んでいたと言われています。
(参考映像:ピアノと弦楽四重奏によるショパンの協奏曲演奏)
今回のリサイタルで共に演奏するのは、長富とも世代の近い、指揮者の小林雄太やタクティカートオーケストラの若手奏者たち。ショパンの時代を思わせる編成で、同年代の奏者たちによる密度の高いアンサンブルでの演奏からは、ショパンのピアノ協奏曲の新たな魅力を発見できること間違いなしです。
【参考動画】
タクティカートオーケストラ
チャイコフスキー:弦楽セレナーデ Op.48
…2022年9月22日、浜離宮朝日ホールにて開催されました『ザ・ドラマティック・ヴァイオリン』の様子よりお届けいたします。
まとめ
過去と現代の融合を図るショパン、そして技巧を超越した内容を表現するリスト。長富が2人の作品の演奏で見据えている場所は違うようですが、音楽の魅力を表現で魅せる点が共通しています。
心の揺らぎが溢れるバラード第1番、水面で揺らめくゴンドラの情景が目に浮かぶ舟歌、ドラマティックな物語が現れるメフィスト・ワルツ第1番、そして鐘の鳴り響く中で様々なメロディが交差するラ・カンパネラ。そしてクライマックスには、オーケストラと一体となったショパンのピアノ協奏曲第1番が待っています。
長富の表現力の高さを全編で楽しんでいただき、2人の作曲家の魅力を全身で楽しんでいただけるリサイタルです。
2人の作曲家がお好きな方にもお楽しみいただけること間違いなしですが、長富彩のこれまでを知る方にも、そしてまだ長富彩を知らない方にも、ぜひお越しいただきたい、注目の公演です。
皆様のご来場を心よりお待ち申し上げております!
文=藤原 健太
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