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第12回:スーパーの売上32%アップ!でもお店の中、どの売り場も同じBGM・・で良いのでしょうか?
さて、前号からの続きです。
小売店などで流す「テンポの遅いBGM音楽と速い音楽」、どちらが売れるのでしょうか?
条件付きですが、答えは「遅い方」です。
ニューヨークのあるスーパーマーケットで行われた調査(注)では、アップテンポのBGMを再生した日に比べてスローテンポのBGMを流した方が32%の売上アップを記録しました。一見、アップテンポの方がウキウキと気分が高揚して買い物意欲が高まりそうなものですが、実はそうではなかったのです。
アップテンポの曲だとお客様は店内をより速く歩き、次から次に目的の商品から目的の商品へ足早に歩いてしまうため、他の商品を見てくださらない。そしてお店の滞在時間も短くなってしまう・・・。そんな結果が出たそうです。
スローテンポの曲だと逆の効果が生まれます。目的の商品に一直線に向かわず、寄り道をしながら、お買い物を楽しみつつ、陳列されている商品を矯めつ眇めつご覧になり、より多くの商品を購入されました。
ですから、スーパーマーケットでヒットチャートで流行りのポップスなどをBGMで使う時には選曲に注意が必要ですね。もちろん、アップテンポの曲にも良い効果はあり、気持ちもウキウキしますが・・・ やはり早歩きになって視野を狭めてしまうという作用があるというわけです。
更に、遅いテンポのBGMにした方がお客様が店内に滞在する時間は長くなります。そして一般的に小売店や商業施設などでは滞在時間と売り上げの間には相関関係があります。
さて、今日はスーパーマーケットで流すBGMの店舗のお話をしました。では、お店全体どの売り場でもいつも同じスローな曲だけ流しておけば良いのでしょうか?
いいえ、違います。
小売店のプロでない筆者も「いつでもどこでも同じBGMでは良くなさそうだな」ということは「感覚的」にはわかります。
今日お話をしたBGMのテンポのお話は、音がお客様の購買意欲向上に導く、極一部の機能でしかありません。
次回より、アメリカのスーパーマーケットを事例にBGMの速さや選曲のお話だけではなく、「お店全体の音を正しく科学的に構築してお客様を購買に導く」戦略を解説します。
一概に「このテンポ、この種類の音楽だけ、この音量だけ、この周波数だけ・・・・」が購買行動を向上させるのではないのです。「感覚的」ではなく、「科学的」な理由と根拠があります。
「建物・設備環境を考慮しながらそこに存在する音やサウンド、BGM、周波数、防音・反響効果をすべて正しく構築する」ことで、お客様が長居したいと感じる空間を創り、購買行動を更に向上させることができるのです。そして、この「構築」をするのは、わたしたちソニック・アーキテクトというわけです。
(注) Milliman、R.E. (1982). Using Background Music to Affect the Behavior of Supermarket shoppers. Journal of Marketing. 46 (3) . pp.86-91.t